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卵巣がん・すい臓がん・肺腺がんによく起こるトルソー症候群について解説します【医】#15
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「終末期の症状:トルソー症候群」です。
動画はこちらになります。
今日はがんが作る脳梗塞である、トルソー症候群について詳しくお話します。
トルソー症候群は、がんの終末期に起こりやすい脳梗塞で、一度起こってしまうと、がん患者さんの大切な最期の時間を奪ってしまいます。記事の最後でとても大切なことをお話するのでぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
見逃してはいけないトルソー症候群
がんになると全身の血液が固まりやすくなることが知られています。
血栓が血流に乗って脳の血管に詰まると脳梗塞を引き起こします。がんに伴う血液凝固能亢進によって発生する脳梗塞のことを、トルソー症候群と呼びます。
19世紀にフランスの神経内科医であるTrousseau(トルソー)によって発見された疾患なので、トルソー症候群と呼ばれています。
トルソー症候群は、がんの治療中や終末期に起こりやすいことを知っておいてほしいのです。トルソー症候群のことを、しっかり知っておくことで、トルソー症候群の予防、早期治療が可能になるからです。
終末期に、一旦トルソー症候群による脳梗塞が起こると、半身まひなどの様々な神経症状が起こり、患者さんの大切な最期の時間が奪われてしまいます。最悪の場合、死に至ってしまうこともあります。
リスクの高い患者さんについては、初期症状に注意し、水分補給を促しながら、血液検査などでチェックをするようにしてください。それではトルソー症候群について詳しく見ていきましょう。
トルソー症候群とは
一般的な脳梗塞は、不整脈の心房細動により、心臓から血液を一気に送り出せず、血液が心臓の中で淀んで血栓ができやすくなるのが主な原因です。一方で、トルソー症候群は一般的な脳梗塞とは異なり、凝固能亢進で起こる病態です。
がんが増殖すると、さまざまな物質が血小板、血管内皮などに作用して凝固能亢進が起こります。この凝固能亢進は、がん細胞から分泌される組織因子やサイトカイン、腺がんから分泌される粘性物質のムチンなどが原因で起こります。
トルソー症候群のメカニズムは、心臓の内膜にできた血栓が血流に乗って脳に運ばれ、そこで血管が詰まって脳梗塞を起こすというものです。
ちなみに、凝固能が亢進しているがん患者さんでは、脳梗塞のほかに静脈血栓塞栓症も起こしやすいことも知っておいてください。その場合は、下肢の静脈の血流が停滞して血栓ができやすくなることが原因です。
トルソー症候群は、すい臓がんや卵巣がん、肺がんなどで起こりやすいがんです。再発や転移を含め、がんの病勢が活発な進行期や終末期で生じやすいことも重要です。
卵巣がんの腺がんの場合、がんの発見に先行して脳梗塞を発症する例が多いです。
けれども、その場合の脳梗塞は、卵巣がんを治療することで、脳梗塞の再発が少なくなります。ですから、特に若い女性で脳梗塞が起こった時には、卵巣がんの可能性がないかを注意することが重要です。
すい臓がんや卵巣がんでは腺がん、特にムチン産生腫瘍と呼ばれるタイプで多いので、組織形もしっかり認識しておいてください。
トルソー症候群の症状
トルソー症候群の症状についてお話します。
症状は通常の脳梗塞と同じで、ろれつが回らない、手に力が入らず持っている物を落とす、足がもつれるなどの症状が急に現れます。ただし、トルソー症候群では主に小さな血栓が生じるため、症状が軽度で短時間で消失することが多いのも特徴です。
いわゆる、一過性脳虚血発作:TIA(Transit Ischemic Attack)です。
軽度あるいは無症状の脳梗塞を軽く考えないでください。それを放置すると重度の脳梗塞を引き起こします。患者さんに、軽度な症状がないかどうかを問診し、自分でも気を付けるような指導が必要です。
トルソー症候群の検査と予防
トルソー症候群の検査についてお話します。
血液検査における「Dダイマー検査」と「BNP検査」です。
「Dダイマー検査」でDダイマーが高値の場合には、血栓が形成されている可能性が高いという意味です。トルソー症候群になりやすい状況だということを意識しておきましょう。
一方、「BNP検査」でBNPが高値の場合には、心臓疾患由来の脳梗塞である可能性が高いということを示しています。がん患者さんでBNPが高いときには、一般的な脳梗塞と、トルソー症候群の両方の可能性を考えなければいけません。
トルソー症候群になる可能性のあるがん患者さんには、経時的に「Dダイマー検査」と「BNP検査」を調べて、数値がだんだん高くなってきている時は、頭部CTで脳梗塞になっていないか、心臓エコーなどで血栓ができていないかを調べる必要があります。
トルソー症候群になってしまった時の治療については、一般的な脳梗塞と同じで、抗凝固療法が中心になります。へパリン、ワーファリン、直接作用型経口抗凝固薬などです。最近ではリクシアナなどの経口抗凝固薬を多く使うようになってきています。ワーファリンのような細かい用量調節が不要で、出血などの副作用も少ないからです。
抗がん治療が可能ならば抗がん治療そのものが予防となります。
ここまで聞いてくださった方に、最後に一番大事なことを述べます。
トルソー症候群には予防が大事なのです。
食事中に突然手に力が入らなくなって、持っていた茶碗を落としたり、会話の途中で突然言葉が出なくなったり、読書中に突然片目が見えにくくなったりして、何が起こったのかと心配しているうちにいつのまにか回復するといったような症状には要注意です。一過性脳虚血発作:TIAの可能性があります。高齢者で高血圧、糖尿病などの生活習慣病があると、さらにその可能性が強くなります。
「脳卒中治療ガイドライン」によると、トルソー症候群になった患者さんの約半数が、TIA発作発症後2日以内に脳梗塞を発症したと報告しています。
TIAをまず早めに発見してください。そして、検査や予防薬投与も考えてください。また、リスクの高い患者さんには、定期的に検査をして、経過観察することが重要です。
またその他に、がんの治療中、終末期には、全身状態をできるだけ良好に保ち、積極的な水分補給を心がけて脱水状態にならないようにすることが、トルソー症候群の予防にはとても大切です。
患者さんにもこのことをしっかりと説明して、トルソー症候群を予防しましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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