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【漢方薬】機能的な痛みに、即効性のある芍薬甘草湯を紹介します【医】#14

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「即効性の漢方薬:芍薬甘草湯」です。今日は若い治療医の先生方にお話します。

動画はこちらになります。

私が医者になって間もなく、心療内科医として勤務していた頃、原因不明の腹痛の患者さんがいました。前触れもなく急に差し込むような痛みが起こるのです。内科的には異常は指摘されず、心因性だろうという判断で、心療内科に紹介されてきたのでした。

彼はその腹痛を苦に思い、自殺まで図ろうとするほどでした。色々な薬を試しましたが、痛みの改善はほとんどありませんでした。

ある時、同僚の漢方に詳しい先生から、ある薬を教えてもらいました。患者さんがそれを服用すると、驚くことに全く痛みはなくなり、すっかり良くなったのです。

その薬が、芍薬甘草湯でした。

今日は、その芍薬甘草湯がなぜ効くのか、その効果・副作用についてお話します。この記事の中では、芍薬甘草湯の正しい使い方もお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


即効性の漢方薬:芍薬甘草湯

漢方薬は今では日常診療には欠かせないものになっており、先生方も何らかの漢方薬を処方したことがあると思います。

多くの漢方薬は、患者さんが効果を実感するまで、2~3か月は必要です。患者さんにはそのことをお話して、続けて飲んでくださいと説明する必要があります。なぜなら、多くの漢方薬は苦く飲みにくく、しかも食間に服用する必要があるので、つい飲み忘れてしまうからです。

漢方薬を構成している生薬は、消化酵素で分解されやすいので、一般的な薬と同じように食後に飲むと効果が半減するため、食間に定期的に服用するという指示が必要なのです。

ところが芍薬甘草湯は、即効性がある漢方薬の1つで、しかも頓服で服用できる漢方薬なのです。味は、甘草が含まれているため甘く、飲みやすいと言えます。

芍薬甘草湯は、ほかの漢方薬とは効き方も服用方法も、全く違うのです。ほとんどの方は、このような即効性のある漢方薬があることを知りません。しかし、私は芍薬甘草湯を上手く活用することで、患者さんがすぐに楽になる経験を多くしてきました。

冒頭にお話した患者さんのケースのように、差し込むような、急激な腹痛やこむら返りによく効きます。詳しくは後ほど述べますが、腹痛の中でも「疝痛」に有効なのです。

腸管の運動機能、感覚機能が過敏になって痛みを起こす、いわゆる機能的な痛みに効きます。つまり疾患名で言うと「過敏性腸症候群」や「機能性ディスペプシア」に効果を示します。

しかし、芍薬甘草湯はがん性疼痛には効きません。したがって、芍薬甘草湯が効く痛みにオピオイドは使わないでください。

非がん性疼痛にオピオイドを継続して使うと、ケミカルコーピングのリスクがあるからです。芍薬甘草湯は、非がん性疼痛に効果があることが、重要なポイントであることを抑えておいてください。


芍薬甘草湯の原理・効果・副作用

それでは今から、芍薬甘草湯の原理や効果・副作用について説明します。正しい使い方や効果・副作用を理解して、自信をもって使えるようになってください。

なぜ芍薬甘草湯は即効性があるのでしょうか。

芍薬甘草湯は「芍薬」と「甘草」という2種類の生薬で構成されています。この2つの生薬には、筋肉の緊張を緩めて、痙攣そのものや痙攣で起こる痛みを抑える作用があり、1回量が多いので、即効性があるのです。その半面、使い過ぎると、甘草の成分であるグリチルリチン酸の副作用で、低カリウム血症が起こることがあるので注意が必要です。

次にその効果について解説します。芍薬甘草湯は、骨格筋などの横紋筋に限らず、消化器や泌尿器、子宮、血管壁の筋肉である平滑筋のいずれにも働きます。

したがって具体的には、胃けいれんを含めた胃痛や、腸管の機能的な腹痛、胆石や尿路結石による痛み、筋肉のつっぱり・こわばり・けいれんを伴う筋肉痛、こむら返り、さらには腰痛や肩こり、生理痛など、様々な機能的な痛みに効果があると言えます。

また、しゃっくりなどにも効果を発揮します。特に、差し込むような急激な痛み、いわゆる「疝痛」に有効であると考えてください。

個人的には、趣味の山登りで脱水になり足がつった時なども、芍薬甘草湯は即効性があったので、重宝しました。とはいえ、副作用にも注意が必要で、先ほど述べた低カリウム血症には特に注意が必要です。

低カリウム血症による、偽アルドステロン症が起こることがあります。症状としては、顔や手足のむくみ、体重増加、脱力感、嘔気などがあります。頻繁、あるいは定期的に服用している人は、症状が出る前に、低カルシウム血症になっていないかどうかを、血液検査で調べることが重要です。


芍薬甘草湯の正しい使い方

芍薬甘草湯の効果発現時間は平均6分、効果持続時間は4~6時間と言われています。また、先ほど申し上げたように、副作用のこともありますので、定期的に使用するのではなく、頓服で使用することが肝要です。

頓服で使う場合にも、1日3回以上使わないでください。効果が早く、持続時間も短いので、予防薬としては使えません。患者さんには、頓服で、痛くなった時にすぐ服用するように言ってください。


最後に、最近経験した芍薬甘草湯が著効したケースをお話します。

急性白血病の30代の男性患者さんです。骨髄移植後に腹痛を訴えました。本人は、胃の痛みであると訴え、主治医はGvHDを疑い検査しましたが、器質的な異常は指摘されませんでした。

オピオイドをはじめ、色々な薬を試しましたが、効果がなかったため、主治医は困って、私に相談してきました。

患者さんを診察すると、痛みは腸管の疝痛であると思い、芍薬甘草湯を試してみると、著効したのです。今まで苦しんでいた症状が、漢方薬で魔法のように消えてしまったと、主治医も患者さんもとても喜んでいました。

皆さんも、粘膜の炎症やがん性疼痛などの、器質的には問題のない疼痛には、一度、芍薬甘草湯を試してみてはいかがでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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