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がん遺伝子パネル検査の注意点について緩和ケア医が解説します【全】#128

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がん遺伝子パネル検査」です。今日は、新しいがん治療の可能性である、がん遺伝子パネル検査についてお話します。

動画はこちらになります。

あなたはがん遺伝子パネル検査のことを知っていますか。興味を持っていて、チャンスがあれば受けてみたいと思っている人もいると思います。聞いたことはあるけれど、どんなものなのかわからないという人もいるかもしれません。

この記事を見ることで、がん遺伝子パネル検査について正しい知識を知り、その可能性と、がん遺伝子パネル検査を受ける時に必ずしておくべき大切な準備ができる方が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


がん遺伝子パネル検査で知ってほしいこと

がん遺伝子パネル検査とは、患者さんのがんの遺伝子を詳しく調べて、治療につなげていく検査のことです。次世代シークエンサーとよばれる機械を使った新技術が使われています。

がんの遺伝子に変異があり、それに効く抗がん剤があれば、高い治療効果が得られる可能性が出てきます。2019年6月から保険適応になり、日本でも行えるようになりました。

しかし注意していただきたいことがあります。

1つ目は、この検査は研究的な側面もあるため、どこででもは受けれられないということです。

全国の「がんゲノム医療中核拠点病院」や「がんゲノム医療拠点病院」、「がんゲノム医療連携病院」で受けることができます。国立がん研究センターのHPのリンクを貼っておきますので、これらの医療機関を探したい方はそこから検索してください。

2つ目は、がん遺伝子パネル検査の対象になる患者さんには、3つの制限があるということです。これがとても重要なのです。

次の3つの制限をクリアした人だけが、がん遺伝子パネル検査を受けることができるのです。

1. 標準治療が終了したステージⅣの固形がんの患者さん、あるいは、標準治療のない稀少がん・原発不明がんの患者さん
2. 検査後の抗がん剤治療に耐えられる体力があり、予後が3か月以上見込める患者さん
3. エビデンスの確立されていない代替医療を受けていない患者さん

これらについては、後ほど詳しくお話します。

そして、これもとても大切なことなのですが、3つ目は必ずACP・アドバンスケアプランニングをしておかなければならないということです。

ACPについては別の記事で詳しくお話していますので参考にしてください。

それでは、なぜACPが必要かということについてのお話をします。

がん遺伝子パネル検査の検査結果が出るまでは、1か月半~2か月かかると先ほどお話しました。この期間を、「もし治療ができなかったときのことを考えて実行する期間」だと思ってください。

なぜなら、この1か月半~2か月の間にがんが進行し、体力が低下したり、終末期を迎える患者さんも少なくないからです。そして実は、抗がん剤が適応する人は、がん遺伝子パネル検査を受けた人の10%程度なのです。

がん遺伝子パネル検査を受けても、治療できないとわかってから、これからどうしようかを考えるのでは、大切な最期の時間を有意義に使えなくなってしまいます。そのためにも、アドバンスケアプランニング・ACPをご家族、医療者を交えてしておきましょう。

治療ができるかもしれないという希望を持ちながら、もし、治療ができなかった時のことを今から考えておいてください。

Hope for the Best, Prepare for the Worst. 最大の希望を持ちながら、最悪に備えるです。


がん遺伝子パネル検査の対象者

がん遺伝子パネル検査の対象になる患者さんには、3つの制限があるということをお話しました。ここでは、それらについて詳しくお話します。

まず1つめの制限は、標準治療が終了したステージⅣの固形がんの患者さん、あるいは、標準治療のない稀少がん・原発不明がんの患者さんです。

がんと診断されたばかりの患者さんは、がん遺伝子パネル検査は受けられないのです。いずれは、最初からがん遺伝子パネル検査を受けて、抗がん剤治療を受けられるようになる時代が来るかもしれませんが、今は、まだ希望する人が全員受けられる体制が整っていないことがその理由です。

まず標準治療を受けていただき、それが終了した時点で、がん遺伝子パネル検査を受けていただくことになっています。

2つ目の制限は、検査後の抗がん治療に耐えられる体力があり、予後が3か月以上見込める人が対象になるということです。

残念ながら、標準治療が終了したほとんどの患者さんは、がん自体が悪化していることが多いです。この検査の解析が、1か月半~2か月はかかりますので、その間に体力や活動性が落ちてしまうと、せっかく治療法が見つかっても、その理由で受けられなくなってしまうからです。

現時点では残念ながら、抗がん剤が適応する人は、がん遺伝子パネル検査を受けた人の10%程度です。これから抗がん剤の種類はだんだん増えてくると思いますので、抗がん剤が適応して、ステージⅣであっても、がんが治る人が増えてくると期待しています。

そして3つ目の制限は、まだエビデンスの確立されていない代替医療を受けていない人に限られるということです。

これはネットなどではあまり触れられていないかもしれません。しかし、そういった治療を受けていることで、対象から外されてしまうことがあります。

なぜなら、がん遺伝子パネル検査で適応する抗がん剤がわかっても、場合によっては治験という方法で治療することがあるからです。治験において、治療に影響を与えるような、エビデンスのない代替医療を受けている人は、対象から外されてしまうことが多いので注意してください。

最後にひとつ、知っておいてほしいことがあります。

がん遺伝子パネル検査では、多くの遺伝子を調べるため、がんになりやすい遺伝子をもっていることがわかる場合が、数%程度あります。つまり、子供たちに遺伝するかどうかなどの問題が生じてきます。

遺伝性のがんなどが見つかることがあるということを知っておいてください。


がん遺伝子パネル検査とACP

私の病院もがん遺伝子パネル検査を積極的に実施しています。がん遺伝子パネル検査を受けた22歳の骨肉腫の女性患者さんのお話をします。

右大腿部にできたがんで1年前に手術して切除しましたが、それから半年後再発しました。抗がん治療を開始しましたが、がんは肺にも転移し、呼吸困難が出現してきたため、緩和ケアチームに紹介となりました。オピオイド、ステロイドの投与で、症状はほとんどなくなりました。

ご両親は、本人にがんということは伝えて、抗がん治療を開始していましたが、病状の詳しい話はしないでほしいと、主治医に頼んでいました。ところが、今の抗がん剤の効果も芳しくなく、使える抗がん剤もなくなってきました。

主治医は、彼女にがん遺伝子パネル検査を受けさせてあげたいと思いました。しかし、これを受ける条件として、今の抗がん剤治療ではよくならないので、がん遺伝子パネル検査を受けましょう、ということを伝えなければなりませんでした。

ご両親はこの話を聞いて悩みました。でも少しでも治療の可能性があるのならということで、がん遺伝子パネル検査を受けさせようと決めました。そして、今の病状を本人に伝えることにも同意しました。

主治医は、彼女に今の抗がん剤が厳しくなってきている、このまま効果がなかったら、半年くらいしか命が持たない可能性があることも伝えました。でもまだがん遺伝子パネル検査を受けて、使える抗がん剤があれば、治療できるかもしれないことも伝えました。

彼女は、今の病状もすべて理解したうえで、がん遺伝子パネル検査を受けることを決めました。

結果が出るまでの2か月間、彼女は自分がしたいことをすべてやりました。友達と旅行に行くこと、父の日に自分の手作りのケーキを作って贈ること、母から料理を教えてもらい、家族のために作ること。

そして2か月後結果は残念ながら、合う抗がん剤はありませんでした。それから3か月後、彼女は旅立ちました。

ご両親は、あとで話してくれました。

「あの時、がん遺伝子パネル検査を決めてよかった。結果はだめだったけど、受けることを決めてから、本当にあの子は明るくなりました。短い人生だったけど、自分なりに精一杯生きてくれました。がん遺伝子パネル検査を勧めてくれた主治医に本当に感謝しています。」


最初ご両親は、娘さんに詳しい病状を伝えたくないと言っていました。けれど、がん遺伝子パネル検査を受けることをきっかけに、娘さんに彼女の予後も含めた病状を話すことができました。

そして、主治医も含めてACPを行い、検査結果を待つ間からすでに、自分のやりたいことをどんどんしていくことができました。ACPができたからこそ、彼女は自分の人生を精一杯生ききることができたのではないでしょうか。

最後にもう一度、がん遺伝子パネル検査の対象となる方について繰り返します。

1. 標準治療が終了したステージⅣの固形がんの患者さん、あるいは、標準治療のない稀少がん・原発不明がんの患者さん
2. 検査後の抗がん剤治療に耐えられる体力があり、予後が3か月以上見込める患者さん
3. エビデンスの確立されていない代替医療を受けていない患者さん

以上のように、がん遺伝子パネル検査の対象者には条件があります。そして、がん遺伝子パネル検査を受けるばあい、ACPもしっかりしておきましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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