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【小説】ホテルNOBLESSE #1

この記事は小説の下書きです。
思いつくままに書き残すメモです。
ちゃんと作品とする際には、当然書き直しますし、順番も組み替えることでしょう。
つまり、この記事を読んでくださる方への配慮に欠けます。
僕が僕のために書き残すだけなのです。
小説ですので、固有名詞や人物名は全て架空です。フィクションです。


壁の時計を見た。9時13分。朝のミーティングの時間まであと2分しかない。スタッフはみな集まっているだろう。

非常階段のドアを開けた。シティホテルの非常階段だから、外付けではなく建物の中にある。
廊下でミーティングしたのでは、客室内のお客さまに聞こえてしまう。お客さまは眠っている可能性だってある。だから、ミーティングは非常階段で行なうのだった。

今日は、清掃会社ブラッシュの副社長と常務が来ている。「報告があるから」と。
それは本来、説明すべき事項だろうと僕は思っていた。僕は派遣会社から派遣されている立場なので、余計なことは思うだけに止めていた。

通常10分もかからないミーティングだが、きっと今日は長くなる。すると仕事のスタートが遅れる。限界になり、皆がアタフタと仕事に取り掛かる。
そんな近未来が想像できたので、僕は、その経営幹部に提案した。

「ミーティングは、まず通常の連絡事項を行なって、それからで良いですか? 最後に『本社からお話があります』と振りますので」と。

「ああ、それでいいです。よろしく」と常務が言った。

きっと、このチームにとって、今日、2023年1月15日は歴史的な1日となるだろう。僕は、そう思った。

通常のミーティングは、共有すべき連絡事項の伝達と、その日の『指示書』に書かれている内容の読み合わせを行なうだけだ。読み合わせは、書き間違いや書き漏れをチェックするために行なう。

僕は、いつも通りに初めた。

「おはようございます。え~っと。今日はブラッシュさんの本社から副社長さんと常務さんがいらしています。後でお話があるそうです。さて、今日の個数は、皆さん定時の個数になっています。今朝、フロントから苦情をいただきました。『バスルームに髪の毛がある』と、フロントに苦情が入ったのです」

僕は、フロントから渡された4分の1のA4用紙を、スタッフに見せた。その日スタッフは10人だった。
ホテルのフロントマンは、客室のバスルームへ行き髪の毛を回収したのだ。それを用紙にセロテープで貼って、朝、僕に、証拠として渡したのだ。

「わ~。けっこうな量ですね~」
「すごく多い!」
「1本とかならまだしもねぇ」

という反応が起こった。

「いつも言っていますが『自分事』と捉えましょう。『誰』が清掃した部屋かとか、『誰』がチェッカーだったのかとか、『誰』にフォーカスするのではなく、『何』にフォーカスしてください。お客さまは不快だったはずです。苦情を受けたフロントも、辛く苦しかったはずです。みなさん知っての通り、髪の毛や血の跡などは、ほぼ100%苦情になります。1番最後にもう一度チェックするなど、具体的な対策を講じてください」
と、僕は言った。

そして、指示書の読み合わせをした。
書き漏れや書き間違いはなかった。

「以上です。では、本社の方からの説明があるそうです。どうぞ」

「いつも皆さま、お仕事に励んでいただきましてありがとうございます。私は3年ほど前から副社長をさせていただいています。ほとんどの方が『はじめまして』ですね。どうも」

といって、軽く腰を折った。
え? 名前を名乗らないの? 僕、あなたの名前、知らないんだけど、と僕は思った。

副社長は間をあけず話し続けた。

「今日は、先ほども少し立ち話などを行ないましたが、2月21日からここの体制が変わります。これまでは、うちブラッシュが皆さまを雇用して、このホテルNOBLESSEノブレス川口の客室清掃を行なってきました。が! 2月21日からは、プラムさんという別会社に業務委託します。うちは完全撤退するワケではなく、プラムさんの上に残ります。希望者には同じ条件でプラムさんに移っていただきます。希望されない方には、当社の別な現場をご紹介させていただきます。プラムさんはホテル清掃のノウハウをお持ちなので、きっと良くなると思います。よろしくお願いします」

変な空気が非常階段を覆った。
まるで、どこからか納豆の臭いが漂ってきたかのような「ん? これは何?」という数秒の、間が生じた。


#2に続く







※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1375話です
※これも「エッセイの1話」と言い切ってみます


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