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妙華(完)二人の想い そして、その後

筆道具店の娘妙華としては、はなはだ不器用に手紙を開けた。

「妙華 本当にありがとう」
「妙華が一生懸命介抱してくれなかったら、今の僕の命は無い」
「これから、遣唐使の帰国なので、和国に戻ることになります」
「大使から、僕の許嫁の雅のこと、聞きました」
「とても、哀しいこと」
「しかし、お墓に花を供えないといけない」
「そうしないと、気持ちが前に進まない」

「妙華 今度は、妙華のために、お茶をいれたいと思っています」
「妙華のこと 大好きです  史」

読み終えた妙華の顔は、真っ赤。
「あいつめ・・・」
「今頃、大好きなんて言われても、まったく」
お世辞が上手になったのかと思う。

「あのね、史はお世辞は、下手」
母は妙華の心を見透かしている。
「史は、またお前と逢いたいと思っているの」
「どんな形になるのかわからないけれどね」
母は、妙華の瞳を見つめる。

「・・・そうかな・・」
妙華は母の気持ちが読み取れない。

「このお店のことなら、気にしないでいいの」
「二番目の姉さんが、継ぐの」
「既に手続きを済ませたの」

母は、キョトンとする妙華の身体を抱いた。
「サッサと追っかけるなりしたらどう?」
耳元でささやいた。

「どうせなら一緒に墓参りするぐらいの強い気持ちを持ちなさい」
「史のお世話を一生するって言って来なさい」
母は妙華の背中をトントンと叩く。

「・・うん・・・」
妙華は母の意外な言葉に驚いた。
そして、「今がその時」と強く感じた。
「行きます」
今度は、妙華が母を強く抱きしめた。

「うん、それでいい」
母も涙顔。
しかし、声を張った。
「ほら、店の前の車に乗って!」
「貴方の荷物も全部積んである」
「とっくに準備してあったの」

「え?」

「グズグズしない!」

妙華は、母に背中を押され、車に乗り込んだ。
そして、乗り込むなり、車は走り出す。

「わっ・・・お母さん・・・」
妙華は、何度も振り返る。
いくら何でも急過ぎる。
寂しさもあるし、涙があふれて来る。

次の瞬間懐かしい声が聞こえた。

「妙華」

背中に手が触れた。

「え?」
妙華は振り向いた。

「史!」
史が座っていた。
既にいなくなったと思ったのに。

史は真剣な顔。
「大使とお母さんの計らいで、車を調達して、一旦戻って来たの」
「一緒に和国に行こう」
「大好きだよ、妙華」
今度は史が妙華を抱きしめた。

「わっ!」
妙華は史の胸に顔を埋め、ずっと泣き続けた。



史と妙華を含む遣唐使の一行は無事に、和国の大和に着いた。
史と妙華は雅の墓参りを済ませた後、和国の形式に従って正式に結婚をした。

その後、和国の都で、筆道具店を開き、先端の技術を広げた。
その功績に対して、史と妙華には、帝から特別に官位まで授けられた。

二人は、筆道具店の仕事を熱心に行い、折に触れて大和と長安を行き来した。

当然、長安でも結婚式を挙げた。
幸い子供にも恵まれ、二人の子供の一人が、長安の店の後を継いだ。
妙華の両親が喜んだのはこの上ない。

本当に仲睦まじく暮らした後、二人はほぼ同時に亡くなった。

そして、二人の遺骨は、大和と長安に眠っている。

                              (完)

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