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健さん(18)父良夫が事情を推量する ひとみは不安

さて、その静香は、ひとみとまゆかの話が終わる前に、静香が出かけてしまった。
しかも、キャリーケースではない、普通の大学生が持つようなバッグ。

ひとみは、早速状況報告。
「窓から見る限り、普通の外出だよ」
「大学にでも行くみたい」
「もう追いかけても間に合わない」

まゆかは必死。
「スマホとかでも連絡できません?」

ひとみ
「そんな、今日はご挨拶だけ、そこまでは厚かましいって」

まゆかは呆れ声。
「もーー!そういうところが、ひとみ先輩はおっとりなんです!」

ひとみは、まゆかに呆れられたけれど、どうにもならない。
「私だって、健さんのストーカーでもないしね」
「何か動きがあったら、連絡するよ」
と、ようやく、まゆかとの電話を終えた。

そんな静香がリビングに戻ると、父良夫が新聞をテーブルの上に。
「なあ、ひとみ、妹の静香さんが泊まりに来る、心配してということ」
「何か事情があると思うんだ」

ひとみは、珍しく真面目な父の顔に、少し引く。
「お父様、そう言いますと?」

父良夫は、続けた。
「あの健さんが、妹さんを泊めている」
「実の妹だからとだけは、言い切れないかもしれない」

ひとみは、ますます、よくわからない。

父良夫
「健さんに、何らかの事情が生じた」
「そうでなければ、妹さんであっても、泊りには来ないだろう」
「だってさ、おしゃれな自由が丘だよ、そしてここは、下町の佃」
「余程のもの好きでなければ、泊りにまでは来ないさ」

ひとみは、がっかりするような、納得するような。
「それは・・・うん・・・わかります」
「おしゃれな自由が丘と・・・昔ながらの下町佃」

父良夫は、考える。
「兄と妹で・・・珍しく一緒か」
「ご実家の伊豆の旅館で何かあったのか」
「跡取りはご健在とも聞いたなあ」
「その跡取りに、何かが起きたのか」
「あるいは、人手が足りなくなったか」
「それで妹さんが、ご実家と嫌がる健さんの板挟みとか・・・」
「うーん・・・違うかなあ・・・」
と、なかなか、考えがまとまらない。

ひとみは、父良夫の推量を聞きながら、また不安。
「健さんがもしかしていなくなる?」
「ご実家に帰っちゃうの?」
「大学は?どうなるの?」

父良夫は、そんなひとみが、可哀想になったらしい。
「まあ、しょうがないねえ、意気地なしで、自分で聞けばいいのに」
「ああ、わかった、何とかする」
「そうでないと、また今夜も眠れないだろ?」

ひとみは、父良夫のやさしい言葉に安堵感と、自分の無力感を同時に感じている。

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