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加奈子(完)
そんな、ほとんど話などしたことがない加奈子だし、その上、加奈子の母が感激したからといって、「はい、わかりました」と、ノコノコ出かけるのも、飛躍しすぎだ。
「そこまではいいよ」
「当たり前のことだし、そこまで感激されるほどのことじゃない」
「お気持ちだけで」
最後の言葉は、両親の受け売りだ。
やんわりと断る時に、よく使っている。
「そう・・・ちょっと困るな」
お断りをいれたら、加奈子は困ったという。
「うん、気にするな」
「俺に悪気はない」
事実、そうだから。
加奈子は、うつむいて何かを考えている。
そして、午前の授業中は、ずっとうつむいていた。
昼になった。
加奈子は、その顔をあげた。
「ねえ、翔君」
すごくマジな顔。
「え?何?」
なんだかさっぱりわからない。
「せめて・・・お弁当は、一緒に食べて」
加奈子の顔はマジなうえに赤い。
「あ・・・ああ・・」
確かに加奈子が作ってくれたお弁当だ。
母親のお招きも断ってしまった。
これ以上のお断りは、よくないと思った。
それに、加奈子が作った弁当を受け取る姿を、他の奴らも見ている。
そうなると、一緒に食べないと、それも変だと思った。
「じゃあ、開けてみて」
加奈子の声が震えた。
「うん、ありがとう」
「・・・わっ!」
開けてみて、腰を抜かした。
白いごはんに、ピンクの相合傘・・・桜でんぶ?
しかも、「かける」と「かなこ」の字までピンク・・・
俺の目まで、ピンクになったようだ。
その日も夕方から雨だった。
加奈子と一緒に帰ることにした。
「私が相合傘のところ、書いたの」
「意味わかる?」
加奈子の声が震えている。
「うん・・・なんか、うれしいけど、・・・なんて答えていいの?」
「こういうの慣れていない」
とにかく昼飯から恥ずかしくて仕方がない。
加奈子って、高飛車だと思いこんでいたけれど、全然、そうじゃないから、よくわからないけれど、恥ずかしくて仕方がない。
「そうだね、全然慣れていないね」
「俺は、そういうのわからないんだって、無粋なのが取り柄だって・・・」
「もう、せっかく気持ちを書いたのに・・・」
「あんなことをしてくれた人なかったし・・・うれしくて」
「それがわからないなんて・・・もう・・・教育したくなってきたぞ」
加奈子は手をキュッと握ってきた。
いつのまにか、加奈子とだけは、話ができるようになった。
それが続き、今では、学園「公認カップル」になってしまった。
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