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ホルン吹きの彼女

圭子さんは、音大卒でホルン吹き。
馴染みの楽器店に勤めている。
小柄で品の良い美人、高一の時の僕には「高嶺の花」だけど、いつも優しく「お話」をしてくれる。
音楽で悩んでも勉強で悩んでも、「大丈夫、君なら」、その言葉で何度も救われた。
他の同級生女子とか、やかましくて品もないから、全然興味もなかった。
毎週日曜日に、圭子さんのいる店に行くことだけが、生きる希望だった。

そんな僕が高三となり、受験も合格、都内の大学に通うことになった。
「ずっと会えなくなるけれど元気で」
必死に言葉を出したけれど、圭子さんは、相変わらず優しい笑顔。
「・・・こんなものかな・・・」
少しがっかりして、「しばしのお別れ」を言って帰ろうとする時

「これ・・・東京に行ったら開けてね」
圭子さんから、一通の「お手紙」をもらった。

「はい!ありがとうございます!」
その時は天にも昇る心地。


都内のアパートに移ってから、少し緊張して、「お手紙」の封を切る。

「三年間、ありがとう」
「私も君のこと、好きだよ」
「毎週、日曜日が楽しみだった」
「また、会いに来てね」
その時は、うれしくて涙が出た。


ただ、圭子さんに、二度と会うことはなかった。
七月に帰省した時、楽器店に寄ったけれど、圭子さんの姿はなかった。
お店の人に聞いたら

「ああ、圭子さんは・・・」

少し口を濁す。
やっと出てきた言葉は
「バイクに乗っていて、大型トラックに巻き込まれて・・・」
それ以上は聞けなかった。

かろうじてお墓の場所を教えてもらった。

以来、帰省するたびに、圭子さんの墓参りが習慣となっている。

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