紫式部日記第61話 暮れゆくままに、楽どもいとおもしろし。

暮れゆくままに、楽どもいとおもしろし。上達部、御前にさぶらひたまふ。万歳楽、太平楽、賀殿などいふ舞ども、長慶子を退出音声にあそびて、山の先の道をまふほど、遠くなりゆくままに、笛の音も、鼓の音も、松風も、木深く吹きあはせて、いとおもしろし。

※万歳楽;唐楽の曲名、則天武后作説がある。文の舞とされている。
※太平楽:唐楽の曲名。武の舞とされている。
※賀殿:唐楽の曲名。ただし、他の諸記録では演奏の記述が無いので、紫式部の記憶違い説が有力。(日記と言っても、当日書かない場合もある。数年先に書いた場合もあるとか)
※ 長慶子:唐楽の曲名。舞はない。
※退出音声:演奏予定の舞楽が終了し、楽人たちが退場する時に演奏する曲。

日が暮れて行くにつれて、祝いの曲が演奏され、それが実に素晴らしいのです。
上達部は帝の御前に控えておられます。
万歳楽、太平楽、賀殿等祝いの舞曲の名曲が奏され、長慶子を退出音声に鳴らしながら、音楽を奏する船が池の築山の先、水路を漕ぎ進み、船が遠くなるにつれて、笛の音、鼓の音、さらに松風の音まで林の中でに深く響き、何とも言えないほど、素晴らしいのです。

実際、曲そのものは、現代人では縁遠い。
住む時代も、生活環境も当然異なる。
ただし、音楽船が遠ざかるにつれて、「笛の音も、鼓の音も、松風も、木深く吹きあはせて、いとおもしろし」が、特に「何となくわかるかな、日本人として」程度かもしれない。

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