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健さん(17)美人女子大生の正体

翌朝になった。
ひとみが、朝食を終え、二階のベランダで洗濯物を干していると、健がアパートを出て歩いて行く。
「今日も大学かなあ、前よりは、まともに歩いている」と見るけれど、ひとみの関心はそこではない。
結局眠れぬ夜を過ごさせることになった美人女子大生にある。
「一緒に出て行かないんだから、別行動、当たり前か」
「でも、恋人同士なら、そうはならないよなあ」

そんな疑問を感じながら洗濯物を干していると、その美人女子大生がアパートから出て来る。
「あら・・・清楚な感じ、花柄のワンピース」
「スタイルもいいなあ、可愛い感じもある」
「・・・私もダイエット必要かなあ」
「でも、どこに行くのかな」
そんな思いで、二階のベランダから見ていると、どうも美人女子大生の足は、ここの家に向かっている。

「え?どうして?」と思う暇もない。
美人女子大生の可愛らしい「おはようございます」と、父良夫の「ああ、いらっしゃい」のご機嫌な声がして、玄関が閉まる音。
またしても、ひとみの想定外の事態で、洗濯物を干すのもいつになく手早い。
そして、結局、ドタドタと階段を降りることになる。

さて、ひとみが、紅茶を淹れて、おそるおそるリビングに入ると、その美人女子大生が立ち上がり、しっかりと頭を下げる。
「藤田静香です、健の妹になります」
「いつも兄がお世話になりまして」

ひとみは、肩の力が抜けたうえに、うれしくなった。
「いえ、ひとみです、こちらこそ」
「健さんに、こんなに可愛らしい妹さんがいるなんて」

父良夫も、ご機嫌な顔。
「お土産までいただいて、静岡の極上のお茶だよ」

静香
「本来は、昨晩ご挨拶と思ったのですが」
「夜遅くなっても、失礼と思いまして、それで今」

ひとみが、「それはまたご丁寧に」と頭を下げると、静香は真面目な顔。
「あの・・・兄が、ご迷惑をかけてやしないかと、心配で」
「何しろ、強情で堅物で」

父良夫は首を横に振る。
「いやいや、今時、健君みたいな骨のある男はいないよ」
「ご近所でも人気者でね」
「それは口数は少ないよ、でもね、真実味がある」

ひとみは、言いたいことを先に言われたので、次が思いつかない。
それと心配させたくもないので、怪我をした事件については、言わない。

静香はホッとした顔。
「ありがとうございます、少し安心しました」
「普段は、私は自由が丘に住んでいます、でも、どうしても気になってしまって」
「昨日から押し掛けて」

父良夫が話題を変えた。
「健君と静香さんのご実家は、伊豆の長岡」
「大きな温泉旅館で」

静香は頷く、
「はい、長男が継いでいて、健は次男、私はその妹になります」
そして、微笑む。
「いつでも温泉にいらしてください、心より歓迎いたします」

ひとみは、静香の表情や話し方が、とにかく感心。
そもそも、美人の上に、控えめ、言葉遣いも丁寧なので、全く嫌みがない。

さて、その静香は、長居をせずに、健のアパートに戻った。

ひとみは、気にしている女子高生のまゆかに、「事情」を連絡。
しかし、思いがけない言葉が返って来た。
「静香さんと話をしたいんです、これはチャンスですって」

ひとみが、「え?何?意味不明」と聞き返すと、まゆかの声が弾む。
「将を射んとする者はまず馬を射よ、今日、古文で習いました」

ひとみは、またしても、ため息女になっている。

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