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健さん(22)父良夫が知る限りの「健の事情」を語り始めることに

静香は、ハッとした顔で、話を止めた。
さすがに、昨日が初対面のひとみに、話過ぎたと恥じている様子。
「ごめんなさい・・・つい、ひとみさん、話しやすくて」

ひとみも、静香が話を止めたことを残念に思うけれど、あまり話を迫るのもそれは、失礼と思う。
「いえいえ、全て静香さんに任せます」
「もし、ご心配なら、何でも聞きます」
「あまり長居しても・・・ね・・・」
「少しお休みに、寝たほうがいいかなと」
そこまで言って、静香が頷くので、アパートを後にして、家に戻る。

さて、家のリビングに入ると、父良夫がいつもの通り、新聞を読んでいる。
ひとみが、「静香さんに、お返しで佃煮を」と言うと、良夫は軽く頷く。
「ああ、ご苦労さん」と、素っ気ない感じ。

ひとみが、自分の部屋に戻ろうとすると、声がかかかった。
「ひとみ・・・あまり・・・どうのこうの、口を出すなよ」
「よそ様の話」
「健君だけの将来ではないから」
と意味深な言い方。
これでは、ひとみも、そのまま自分の部屋に戻れない。

ひとみも、そうなると、聞きたくもなる。
「実は、お父様、何か知っていらっしゃるんでしょ?」
「この間は言えないって、おっしゃっていましけど」

父良夫は、ようやく新聞から、頭をあげる。
そして「ひとみ、聞いたのか?」と、逆質問。
その顔も、厳しい。

ひとみは、少しうろたえるけれど、
「あ・・・静香さんの方から、少し・・・」
と、慎重に答える。

父良夫は、途端に、眉をひそめる。
「しょうがないねえ・・・まったく・・・」
「腱さんの耳に入れば、激怒以上に悲しむよ、それ」
「アパートを出ていくことだって・・・」

ひとみは、必死に抗弁。
「そう言われましても、具体的な話は静香さんの方からで・・・」

父良夫は、またため息。
そして、また聞いてくる。
「で、静香さんは、どこまで?」

こうなっては仕方がない。ひとみが「かれこれ」と、静香から聞いた話を、そのまま伝えると、父良夫は、ついに腕組み。
その上、目を閉じるのだから、難しいことを考える時の、恒例スタイルに変化する。

ひとみは、ここで、また困る。
「お父様は、このスタイルになると、置石になる」
「じっと考えて、なかなか動かない」
「動くのは、お茶を飲む時だけ」
「でも、目を閉じたままだから、何を考えているか、わからない」

その父良夫の置石状態が、30分続いた。
ひとみが、完全に焦れた頃、父良夫の口が半開きになる。
「つまり、お茶を飲みたい」という、暗黙の意思表示。

ひとみも、こういう時は機敏。
さっと、湯飲みを、父良夫の右手が伸びる位置に置く。
そして、父は、恒例を守り、湯飲みを手に取り、お茶を口に含み、第一声。

「ひとみ・・・秘密は守れるかい?」

ひとみは、否定のしようがない。
「はい」と即答。

そして、父良夫は「俺が知る限り」と、「健が根に持つこと」を、語りはじめた。

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