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健さん(14)女子高生たちと健の接点

「いったい、何を話しているのかしら」とひとみが玄関まで出ると、女子高生集団から、「ひとみ先輩おはようございまーす」の一斉コール。

ひとみが「え?」と思ってジャージを見ると、確かに見覚えある母校の校章が胸のところに。
そうなれば、引っ込み思案の人見知りであっても「あら・・・あなたたち?」と応じなければならない。

父良夫が口を挟む。
「ああ、この子たちね、健君のファンらしくてさ」
「部活のランニングがてらに健君に逢いに来たんだとさ」

しかし、ひとみはそう言われても、堅物の健と、この明るさ満点の女子高生たちとの接点が、どうしても見いだせない。
結局、「あなたたち、健さんとは?」「何があったの?」とリビングに上がってもらうことになった。

さて、ひとみが全ての女子高生に紅茶を配り終えた時点で、「事情聴取」は始まった。
それでも最初は、女子高生のたち元気な自己紹介。
「まゆかでーす!」「あいらです!」「ここあです、よろしく!」・・・様々キラキラネームが続くけれど、ひとみは全くついていけないし、どんな漢字を書くのかも思いもよらない。
ただただ、おっとりと頷くだけの首振り人形と化す。

その中でも、リーダー格らしい「まゆか」が話し出す。
「えーっと・・・私が最初・・・いきなりの土砂降りの日」
「私が月島の駅で、傘がなくて立ち往生」

ひとみは予想がついた。
「もしかして、そこに健さん?」
「相合傘でもしたの?」
健が花の女子高生と「相合傘」なんて実に似合わないし、気に入らないけれど、これは重要なポイント。
どうしても確認しなければならない。

まゆかは、思いっきり首を横に振る。
「いやいや、ひとみさん!それがそうじゃないんです!」
「健さんね、自分の傘を差し出して、これを使えよって」
「うん、大きな傘で、柄がごつい傘」
「それを受け取ったら・・・健さんは土砂降りの雨の中に飛び込んであっという間に、走り去って」
「もう、止める間もなくて」

ひとみには、もう一つ確認することがあった。
「ねえ、まゆかちゃん、その人が健さんってわかったのは?」

まゆかの答えも早い。
「傘にネームホルダーがあって名前と住所まで書いてありました」
「それ以来なんです」
「ほんと、土砂降りの雨に飛び込む健さんがかっこいいなあって」

まゆかの次は、「あいら」が話し出す。
「私は、佃大橋でこけまして」
あいらがそこまで言うと、他の女子高生たちも、うんうん、と頷く。
どうやら全員が見ていた時の話のようだ。

あいら
「そうしたら、噂の健さんが偶然通りかかって」
「ああ、これは捻挫、痛そうだと、ひょいっと、おんぶ」
「最初は超恥ずかしかったけれど」
まゆか
「私たちだと、どうにもならなくて、救急車の呼び方もわからなくて」
あいら
「で、健さんに、おんぶしてもらって・・・高橋先生の病院まで」
「健さんが全て話をつけてくれて、他の患者さんにも優先してもらって」

「ここあ」が夢見るような顔。
「わたしね、あいらには悪いけどね、健さんの背中って広いでしょ?」
「ああ、いいなあって」

すると、他の女子高生が騒ぎ出す。
「うん!それ、私も思った」
「あいらは、役得とかさ」

あいらは、そんな騒ぎをパッと手で制した。
「ところが、診察が終わると健さんがいないの、お礼もできやしない」
「広い背中は・・・うん・・・足は痛いけど、うれしかったけどさ・・・」

そんなことで、女子高生トークはなかなか終わらない。

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