金曜日のショートショート01

※友達クリエイターたちと、週に一度ショートショートを書くことにチャレンジしようという話になりました。
題して『金曜日のショートショート』
初回のお題は『金曜日』です。

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金曜日のショートショート
お題『金曜日』
タイトル【禁句の金曜日】

うちの町には年に1、2回、『言葉を発してはいけない金曜日』がある。
その日は『禁句の金曜日』と呼ばれていた。
これは私が物心ついた頃からあるもので、なんの疑問にも思わず、『禁句の金曜日』は会話をしないし、独り言も言わない。くしゃみや欠伸も、なるべくしないようにしている。
その日は皆、音を発しないように気をつけているのだ。
もし言葉を発したらどうなるかというと、しっかり罰せられるそうだ。どんな罰なのかは、教えてくれない。
そのルールは私にとって当たり前のことで、何も疑問に思うことはなかった。
外国では断食の日があるように、うちの町では『禁句の金曜日』がある。断食より随分マシだ。
だけど、『禁句の金曜日』に、ふらりと近所の公園にやってくる男性に、恋をしたことで事情は変わった。
初めて彼を見かけたのは、3年前。
『禁句の金曜日』の夕暮れ時に、彼は公園のベンチにぼんやりと座っていた。素敵な人だなと思い、また会いたいと頻繁に公園に顔を出した行くけれど、彼の姿はなく、次に見かけたのは、同じく『禁句の金曜日』だった。
そうして、3年。どうしても彼とコンタクトを取りたかった私は『あなた、見かけないけど、この町の人?』とノートに質問を書いて、彼に見せた。
すると彼は、自分は別の町に住んでいて『禁句の金曜日』にだけ、この町で仕事をしていることを私のノートに書いて教えてくれた。
『結構前から君の視線に気付いていたよ』とも彼は伝えてくれた。
恥ずかしかったけれど、彼の視線が優しくて嬉しかった。
『ここに来るのは禁句デーばかりだから、君の声が聞けなくて、とても残念だよ』
と、彼はノートに書いた。
次に会えるのは、数ヶ月後だ。でも、『禁句の金曜日』なので、その時も筆談するしかない。
『どうしてこんなルールがあるんだろう?』
ノートにぼやいた私に、彼が答える。
『その昔、ここの町民とうちの住人が約束を交わしたそうだよ』
『約束?』
『自分にもよく分からないけど』と書いて彼ははにかむ。
それが、どうして『言葉を発しない』になるというのか。
『禁句の金曜日』に言葉を発したら、罰せられる。ペナルティを喰らうのは怖いけれど、私にとって、この時を逃したくはなかった。
「あの……」
と、私は声に出した。
彼は驚いたように私を見る。
「あなたを見かけた時から、とても気になっていました。いつの間にか好きになっていたんです」
小声でそう続けると、
「ありがとう」
と、彼は歪むように笑う。
その口には、肉食獣のような鋭い牙があった。
「君ならきっと、声を出してくれると思っていた。言葉を発した者だけをいただける契約なんだ」
気がつくと、彼は私の首に食らいついていた。

数ヶ月に一度、やってくる『13日の金曜日』。
それは、悪魔が訪れる日。
かつて、町民たちは自分たちを護るために、悪魔と契約を交わした。
『その日、言葉を発した者を生贄にしても良い。だが、それ以外の者には手を出さないで欲しい』と──。


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