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誕生日だから誕生日


二男が、ついに4歳になった。

父の誕生日なのに自分も誕生日だ!とケーキ屋さんの前で言い張った、10月の、あの日。

月日は流れ、先日は正真正銘の誕生日だった。


遅く起きた朝

前日まで職場のスキー旅行に家族総出で参加して、雪山を滑ったり転がったりしていたから、みんなゆっくりめの8時前に目覚めた。

まだむにゃむにゃいってる二男をぎゅっとして、

「おたんじょうび、おめでと、じろちゃん」

と伝える。

ありがと…とつぶやく二男のまぶたはまだ閉じられていて、長いまつ毛が呼吸と一緒にゆれている。

それを見ながら、二男が生まれたのは7時過ぎだったなぁ…とか、この時間にはまだ達成感と共に分娩台の上にいて、お腹の上にアイスノンを乗せられてたなぁ…なんて、4年前のあの日がまるで夢みたいな気がしてくる。


朝ごはんは二男がずっと楽しみにしていた鏡もちのお餅を食べることにした。ちょっと遅れた鏡開きをして、前日のお鍋の残り汁に、トースターでカリッと焼き目をつけたお餅を放り込む。

お餅をほおばりながら二男が生まれた日のことをみんなで話していたら、長男や三男のときの記憶もよみがえってきて、

「実は生まれた瞬間に夫が立ち会えたのは二男の時だけだったんだよな」

と、今さらながらに認識して笑ってしまった。

でも笑い合えるのは結果オーライだったからで、その時はその時で、私も夫も目の前の小さな命たちを守るのに必死だった。


長男のときは、予定日を越えたので陣痛促進剤を使うことになった。夫は付き添ってくれてたんだけど、子宮口全開の段になって心音が下がったことから、緊急帝王切開になるかもということで、私だけ手術室へ。後から知ったことだけど、長男の首にはへその緒が首に巻きついていて、出てこられなかったのだそう。

院長や看護師さん、助産師さんが一堂に会して緊張感が張り詰める中、とりあえず麻酔され、そのまま最後にもう一度がんばってみようと駄目押しの吸引分娩に持ち込まれた。はじめての出産だったのに加え、麻酔で下半身の感覚もなく、いきむこともよくわからないまま。だけど無我夢中でがんばって、なんとか帝王切開にはならず無事出産。

でも、夫ははじめての子どもが生まれ出る瞬間に立ち会えなかった。ギリギリ、へその緒はちょきんと切らせてもらえたけど。


二男はというと、回旋異常でやはりなかなか出てこなかった。赤ちゃんは回りながら降りてくるのだけど、その回り方がうまくいかなかったらしい。

でも、そのおかげで(?)助産師さんの見立てよりずいぶん時間がかかり、長男を私の両親にあずけた後に産院にかけつけた夫と二人三脚で産むことができた。


三男のときはスピード出産すぎた。産院に向かう車の中でぱしゃっと破水。夫が長男と二男を私の両親に預けてるうちに出てきてしまい、夫が分娩室の扉をガラッとあけた瞬間に「オギャー!」という絶妙なタイミングだった。

三者三様の、ドラマがあった。

あんなに痛かったはずの陣痛を思い出そうとしてみたけど、ほんのりと覚えているくらいでよく思い出せないのが不思議だった。


二男と私が食べたいもの

そんな思い出話に花を咲かせながら、今日は1日どうしようかと家族会議が始まる。

夫はスキーウエアが古くなってきたから新しいのを探しにショッピングモールにいきたいなぁと言い、じゃあお昼はどうする?となって。

朝ごはんのお餅がまだ口の中でもちもちしてるのに、昼ごはん、下手したら夜ごはんのことまで考え始める。休みの日って、日がな一日食べることばかり考えてるよね。それはそれで、食いしん坊な私は楽しいんだけど。


さっそく今日の主役二男に

「お誕生日のごはん、何食べたい?」

と聞くと、うーん、と唸ってだまってしまった。横から長男が、

「や…や…」

とつぶやいている。

長男は焼肉が大好物だから、「やきにく」って言いたいんだろうな。でも、今日は二男の誕生日だから、根気強く二男の答えを待つ。

……

「ヤンヤンつけボー!」

がくぅ。そこはやはり、4歳。兄の絶大なる影響を受けて、「や」から始まる好きなものを力いっぱい連想してしまったもよう。


結局、待てど暮らせど希望のごはんは思いつかず、

「チョコのケーキがたべたい」

というシンプルな結論にいたった。

オーケー!今日は二男が食べたいものを食べよう!


夫が「マイさんは?」と聞いてくれたので、私はいつもは行かないロイヤルホストでお昼ごはんが食べたいと希望を申し上げた。

「子どもの誕生日=母である私もがんばった日」なので、いつもよりちょっとリッチなファミレスの、ちょっとリッチなランチくらい食べたってバチは当たらないと思う。


かくして、午前中は夫のお買い物、お昼過ぎには予定どおりロイホに到着し、いつもは頼まないようなリッチランチを食べた。

長男と二男はお子様ラーメンセットにコーンのポタージュまでも追加して、汁物オンザ汁物でご満悦だった。

ロイホの“おこさまコーンのポタージュ”は大人のくらいたくさん入っているのに、普通のコーンのポタージュの半額ほどの180円(税別)だから小学生以下のお子様はぜったいに頼んだほうがいいよ)


夜はケーキを食べることもわかっていながら、“ロイホのパフェは絶品”という誘惑に勝てず、みんなでシェアして大きな林檎のパフェまで食べた。

私としては、この時点でわりと満足してしまって夜のケーキいらないのでは…などと弱気になっていたのだけど。

念のため二男に聞いてみたら、

「くまさんのチョコのケーキがいい」

と初志貫徹してらっしゃる。

よし、次はいつものケーキ屋さんへいこう、と動きたくてしかたない三男をよいこらしょと抱えロイホを後にした。

今日はつくづく、食べ物のことばかり考えている。


懲りないひと

車の中で二男と三男がお昼寝して、やれやれと穏やかな空気が車内に流れていた。しばらくドライブしてから、例のケーキ屋さんに向かう。

わが家の行きつけのケーキ屋さんは、夫の誕生日のとき定休日だった

今日は月曜日なので普段なら定休日だけど、ケーキ屋さんとかそういうお店は定休日が祝日の場合は営業しててくれてるものである。そういうもんである。

そうやって微塵も疑わず、いつものケーキ屋さんの前に5人で立ったとき、我々の間にぴゅうっと冬の乾いた風が吹いた。

「定休日」と書いた紙が、その風にぴらぴらなびいている。


…えーと。やっちまった。

夫はできたひとなので、そんな私を責めたりしない。そんな私の扱いに慣れてると言った方が正しいかもしれない。

「ケーキ買えないのぉ?」と長男と二男が不安げに見上げてくる。

「チェーン店なら、あそことか、あそことかにあるよね…」

あわてて近場のケーキ屋を提案すると、

「隣町にもケーキ屋さんあったよね?」

そんなにスイーツ好きでもない夫の口から、意外にも隣町のケーキ屋さんの名前がでてきた。

それは、かなり前から行ってみたいと思っていたんだけども車じゃないと遠く、でも駐車場があるかどうかあやしいという、私にとってちょいとハードルの高いケーキ屋さんだった。

とくに駐車テクに自信がない私は、夫の誕生日の時もこのケーキ屋さんのことが脳裏に浮かんだものの秒で却下したのだ。

でも、今日は夫が運転してくれる。行くなら今日しかない。

私のゴー!の一声で、夫は件のケーキ屋さんに向かってハンドルを切った。


さいごまで気を抜いてはいけない

そのケーキ屋さんは、昔ながらの街のケーキ屋さんならではの、なつかしくもあったかい雰囲気をかもしていた。

『味と価格に自信があります』

の看板が、なんとも頼もしい。

予想どおり駐車場はなく、道の脇に停車させてもらって、私と二男だけがケーキを選ぶという大役をおおせつかった。


二男は「じろちゃんのけーき」とよろこびを隠せない。るんるん浮かれているのがつないだ手から流れ込んで、私にも笑顔が伝染する。

ケーキ屋さんの扉をカランとあけると、ショーウィンドウのケーキはあまり多くないものの我々5人が食べるのに十分なくらいには残っていた。でも、チョコのケーキは事もあろうにラストワン。

そこへ、もうひと家族入ってきた。

私は焦って、

「じろちゃん、ほら、チョコのケーキがいいんだっけ?」

と、わざと大きめな声でバリアを張り巡らせ、チョコのケーキをキープする。

でも、二男は返事をしない。一点をみつめている。

二男の視線の先には、丸い苺のショートケーキ。くまさんの砂糖菓子が乗ってる、ホールのやつ。


「もしかして、これがいいの?チョコじゃないけど?」

聞くと、振り返った二男の黒目がちなお目々がキラキラしていた。

「うん!」

真ん中に大きく「おたんじょうびおめでとう」と書いてある。二男はひと文字ずつ、ゆっくりと、それを声に出して読んだ。

「だってじろちゃん、お誕生日だから!」

私の頭の中で、カチャカチャカチャちーん!と出来の悪い計算機が鳴って、

カットケーキ × 5人分 < ホールケーキ 

という結果がでたのだけど、二男の満面の笑みに負けた。


貼り紙をみると、「10分程度でお作りできます」と書いてある。老舗の街のケーキ屋さんの対応力高い。

お店の方にお願いして、メッセージに二男の名前を入れてもらう。ふと視界の端に、色んな動物を型どったかわいい砂糖菓子が並んでるのが目に入った。

『きっとこの砂糖菓子って後乗せだよね?きっと会計のときにでも選ばせてくれるんだよね…?』

いつものようにのんきに思って、このときはお店のひとに聞かなかった。


二男とケーキを待ってる間、

「じろちゃーん、よかったねぇ」

見通しが立った安堵感いっぱいで話しかけると、

「うん、だって4たいだからねぇ」

にっこり笑う二男の顔にスポットライトのように夕日があたっている。冬の夕方は、油断してるとすぐやってくる。

「お誕生日のプレゼント、今日はなくてごめんね」

二男の誕生日はクリスマスに近いから、いつもなんとなくなぁなぁになってしまう。もちろん、二男が欲しいものがガッチリ決まっていれば話は早いのだけど、何度聞いても要領をえない。

「ううん、いいんだよ。だってこうして、ケーキがかえるんだもん」

4歳らしからぬ謙虚さだ。むしろ、うぅっと胸がしめつけられて、ヤンヤンつけボー好きなだけ買っちゃる…!もしくは、ヤンヤンつけボーパーティセット絶対みつけだす…!と心の中で誓った。※最後尾の【ちなみに】参照


「そういえば、あの上にのってるお菓子ってさ、くまさんのでいいの?」

ふと思い出して聞いてみた。

「ほんとはライオンがいい」

「そっかぁ、ライオンかぁ…じゃあ後でお店のひとに聞いてみようね?」

そんな会話をしていたら、お店の方が出来上がったケーキをもってきてくれた。

「これで、よろしいですか?」

そこにはすでに、パンダのお菓子が乗っていた。あれ、これ、後乗せじゃないんだ?

えーと…

「パンダさん、でも、いい…?」

恐る恐る、二男に聞いてみる。


……

ちょっと間があったけど、二男はこくりと頷いた。

あれ?いいんだ?

二男の大人な対応に目を丸くしながら、私の頭の中は色んな葛藤が光の速さでぐるぐるしていた。


いやでも、ここは私、母としてもう一歩がんばらねばならないのでは?

この表情、絶対がまんしてるよね?

「これ、変えてもらえませんか?」

そのひと言がなかなか出てこない。だってもう、パンダさんにクリームついちゃってるし。このパンダさんどうなるの?老舗の頑固おやじの職人さんが怒っちゃったらどうしよう。(あくまで私の妄想です)

実際のってるパンダをみて、二男も気に入ったのかもしれないし…。


そうこうしているうちに、ホールケーキは会計に運ばれていってしまった。

あわあわしながら、それを追いかける。もう一度、会計の横の動物たちと目が合って、私の決心はかたまった。今日はじろちゃんの誕生日だから、じろちゃんのためにがんばるのだ!

「じろちゃん、あれ?ライオンがよかったんだっけ?」

小心者の私は、お店の方にも聞こえるように大き目ボイスで言ってみる。

「うん、トラ!」

「あ、あの、今からそれって変えてもらうのむずかしいですよねー…?」

「あ、大丈夫ですよ!でも、トラは少し大きいから、差額もらうことになるんですけど…」

たしかに、パンダのは150円、ちょっと大きいトラは180円…でも、それでいいのなら!

老舗の街のケーキ屋さんの対応力高い。陳謝!

「差額で大丈夫です!」

あれ、でも、そのときちょっと違和感というか、母の勘というか、が走る。

「じろちゃん、ライオンって言ってなかった?トラ?トラでいいの…?」

「やっぱり、ライオン…」

あ、あ、あぶねーーー

トラとかライオンとか、やめておくれ。

キャベツとレタスみたいに間違えないでおくれ。


かくして、ケーキのパンダはライオンに取り替えられたのだった。

私はちょっと申し訳なくなって、ポケモンのシャンメリーも一緒にお買い上げした。

会計わきの動物のお菓子たちは、そんな私にはおかまいなしに、並んですんと前を向いていた。


誕生日だから誕生日

夜ごはんは夫のリクエスト、

「簡単にあっさりしたもんでいいよ」

にお応えした野菜炒めと味噌汁。それにポケモンシャンメリーで乾杯した。


食後は待ちに待ったホールケーキのお時間だ。

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4たいの目標を記者会見風にマイクを向けて聞いてみる。

「やさちくなる。あんまり、おこらない。」

うんうん、いいね。そしてそれ、私も目標にしてるやつ。

ひとにやさしく、自分にもやさしく。あんまり怒りたくない。

ケーキはそれにふさわしく、苺たっぷりのふんわりとやさしい味わいで、あんなにたくさんお昼を食べたにもかかわらず、みんなでぺろりとたいらげた。


それにしても、誕生日ってなんでこう色んなことが起こるんだろう。

誰も一筋縄では生まれてこられない。無事に生まれてこられたことも、今日の今日まで生きてこられたことも、あたりまえなんかじゃない。

私たちの“今日”は、“奇跡”というありきたりなひと言では言語化がむずかしいほどの、あまたの偶然が重なり合ってでできている。

お誕生日はそんなことを改めて考えられるようにできてるのかもしれない。


今日も今日とて、なかなか一筋縄にはいかないけれど。

たくさんの偶然を重ね合わせて、家族にやさしく、自分にやさしく、生きていく。

そんな日々が4歳の二男の、家族のみんなの、笑顔とやさしい気持ちにつながっていくといいな。

ゆらゆら揺れる4本のロウソクの向こう、しあわせそうな二男がふぅーとすぼめたお口を眺めつつ、心からそう願った。


∞∞∞∞∞

【ちなみに】

二男がご所望だったヤンヤンつけボーとは…

棒状のクッキーみたいなものに自分でチョコとつぶつぶのトッピングをつけて食べられるというとっても夢のあるお菓子で、その性質からこぼさずに食べるのが至難の業で、親にとっては思わず「いやん!」と言ってしまう恐ろしさを含んだお菓子である。

誕生日のごはんにヤンヤンつけボーを希望された旨をツイートしたら、YUKIさんからこんなステキ情報もいただいてしまった。

(まだ見つからないからスーパーにいくたび絶賛探してる…!)


あと私がロイホに行きたかったのは、このnote読んだのがきっかけ。

高級ファミレス、ちょうどよい特別感があってすごくよかった…!

普通のファミレスよりお値段ははるけれど、メルマガ登録でお誕生月の20%割引クーポンもらえたのでがんばれました。4人分登録できるから、年に4回、家族のお誕生日はロイホと決めてしまってもいいな。


〈おわり〉

最後までお読みいただきありがとうございます!また読みにきていただけることが、最大のサポートになります。もしフォローしていただけたら、舞い踊ります♬ ♡マークを押してスキしていただけますと、私の心もハートであふれます♡ またお会いしましょう˚✧₊