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誕生日じゃないけど誕生日


夫は欲のない男である。

昨日は夫の誕生日で、夜ごはんは何か好きなものを作るよ!何がいい?と聞いたけどなかなか思いつかず、考えあぐねた果てに、

「マイさん、何か作りたいものない?」

ときた。

私は料理が好きだけど、息子たち3人抱えてのごはん作りは大変だから、なるべく簡単なのがいい。とはいえ、せっかくだからおいしいものが食べたい。

となると、うちの選択肢は「焼肉!」となる。


∞∞∞∞∞


夫との出会いは職場。私が新卒で配属された部署の先輩だった。

夫の第一印象は、

「いいパパやってそう」

私の予想では3歳くらいの子どもがいるはずだったんだけど、のちのち、その予想は外れてほっとすることになる。


お互いお酒が好きで、職場の飲み会でよく話すようになった。

夫もふくめて職場メンバーとグループでタイフェスに行ったり、職場のスキー旅行に行ったり、気づいたら好きになっていたのは私の方だった。

夫は欲がない。

何回か2人で出掛けた先のカフェで私がしびれをきらし、

「◯◯さんみたいなひとと付き合いたかったなぁ」

と、もはや告白同然の発言をして、

「じゃあ、おれどうですか?」

となり、付き合うことになったくらい、欲がない。


そんなこんなで、あっという間に結婚となった。

規模も小さくアットホームな職場なので、休日にはみんなで家飲みすることも想定されたし、私は職場以外の友だちも家に呼んでわいわいするのが好きだったから、2人で暮らしはじめてすぐに大きなホットプレートを買った。焼肉はもちろん、たこやきとか、いろんなものが焼けるやつ。

息子3人になった今もよく使っているし、今後、息子たちが大きくなっていったらますます出番が多くなる予感がびんびんする。


∞∞∞∞∞


話を過去から昨日に戻そう。

昨日は役所に用事があったので、午前中は末っ子を連れて出かけ、帰りにお肉がおいしいスーパーで「よいお肉」をたくさん買った。

「今日は贅沢するぞ!」って気合いが入ってるときのスーパーって、超ミラクルスーパー楽しい。しこたま買っても、外で焼肉するよりも安くて、しかも、いいランクのお肉が食べられる。

お昼ごはんのあとに末っ子がめずらしくすんなりお昼寝したので、私はいそいそとコーヒーをすすりつつ、夜ごはんの下準備にはいった。

サンチュを洗って、パプリカを切る。パプリカは今年の流行りだから、子どもたちも勢いで食べるだろう作戦。パプリカを鉄板で焼いて焦げ目をつけ、かんだらじゅわっと汁がでてくるあの感じが好き。

それから、この前noteにも書いたトマトの食べるドレッシングをしこむ。


そして、長男が好きなナムルサラダも作っておいた。

あとは、ケーキを買って、夫が帰ってきたらお肉を焼くだけ…!

あまりの快挙に、noteでもつぶやいた。

ここまでは、完璧だー!と思っていた。このときまでは…。

めちゃめちゃ余裕こいてた自分をのろいたくなる。


∞∞∞∞∞


長男と二男をお迎えにいって、その帰り、一緒にケーキを買うつもりだった。

いきつけのケーキ屋さんがあって、お祝いとか、急にロールケーキが食べたくなったときとかによく利用する。

あのケーキ屋さんのクリームがおいしいんだよなぁ…と想像して、でへでへしながら保育園まで車で向かい、ガチャっとパーキングにギアを入れた瞬間に思い出した。

今日、あのお店、定休日やん…(エセ関西弁)


ちんたら帰りの準備をする息子たちを、「ケーキ買いにいくよ〜」をおとりにして急がせる。頭の中では、ケーキをどこで調達するかフル回転だ。

よく知らないケーキ屋さんにいくのはデンジャラスな気がするし、何より私には運転テクがない。よく知らないケーキ屋さんの、せまい駐車場で立ち往生したら、それこそ目も当てられない。(実際に、子ども用品店の駐車場で立ち往生した経験があり、今思い出しても汗がにじむ)

あそこしかない。

大型のショッピングセンター。

あの中にはいくつかケーキ屋さんがある。もし万が一、子どもたちが気に入るケーキがなかったとしても、センター内のスーパーでスポンジと生クリームと、何かしら季節のフルーツを買えば手作りケーキ的なものでなんとかしのげる。つぶしがきくとはこのことだ。


車の中で、

「いつものケーキ屋さん、今日お休みだから、ショッピングセンターにいこう」

と子どもたちに説明する。

でも、いつものケーキ屋さんに行くことしか頭に描けない6歳と3歳は、

「え?なんでショッピングセンターいくの?ケーキは???」

と、全然理解できないご様子。

「だからね…」

ショッピングセンターに着くまでの車内で5万回くらいは説明した。


ショッピングセンターに到着して、実際にケーキ屋さんをみてみると、まだケーキはたくさん残っていた。二男はちょっと手作りケーキにも未練があったみたいだけど、長男が買ったケーキがいいと言って、めずらしく二男もそれでいいと言った。

ちなみに、夫の希望でホールケーキじゃなくそれぞれが好きなカットケーキを選ぶことになっていた。

子どもたちはそれぞれモンブランと、くまちゃんのチョコケーキを選び、夫の分は希望どおりのイチゴのショートケーキにした。

私は、彩りもあざやかなケーキたちをガラスケース越しににらみつけ、自分の分を迷っていた。

すると、ガラスケースの上に、メッセージプレートとロウソクが見本で置いてあるのに長男が気がついた。

「これ、つける?」

「カットケーキでもつけてもらえるのかな?もし大丈夫だったら、『とっとお誕生日おめでとう』って書いてもらって、つけてあげてもいいね」

「この、数字のロウソクの、つけたい」

長男がさしたのは、数字の形をしたかわいいロウソクだった。1本180円もする。あたりまえだけど、夫の年齢は2桁なのでロウソクは2本必要で、180円×2本=360円(税別)となり、なんかケーキ1個買えちゃうくらいの金額になる。

昨日から増税だし、なんかそれは、いや…。

「太いロウソク4本と、細いの2本にしてさ、太いロウソクで40歳、細いロウソクで2歳、あわせて42歳ってことでどう?」

「いやいや、わけわかんない」

最近、冷静に返すようになってきた6歳児。うん、まぁたしかに意味はよくわかんない。(そして夫の年齢がばれた。)


そうこうしてるうちに、二男の雲行きもあやしくなってきた。

「じろちゃんも、たんじょうびなのー!」

「えっ!じろちゃんは誕生日、1月だよ?」

「ちがうの、きょうなのー!」

「ええ!今日はとっとの誕生日だよ。じろちゃん何歳になるのさ??」

「3さいー!」(いや、それ今の年齢…)

よくわからないけれど、メッセージプレートのチョコが食べたいのかな?と思い、

「とっとのプレート、きっとじろちゃんにくれると思うからそれでいい?」

と聞くと、

「ちがう!もう!おこった!」

…どうやらそういう問題じゃないらしい。いつものとおり、おこられた。

ちょっとまて。みんなおちつけ。

ケーキ屋さんのガラスケースの向こうでは、お姉さんが「このひとたち、いつまで迷ってんのかな?」と気づかいの目線を送ってくれている。

疲れてきた私は、近くにあったベンチにみんなを座らせて、話し合いをはじめた。


長男と私とで二男を説得するが、あいかわらず、今日は自分の誕生日と言い張って聞く耳をもたない。

二男は、自分のケーキにもロウソクとプレートがほしいし、お誕生日がしたいのだ。

この状態になると、「しょうがないなぁ…」と、常識の許す範囲でできる限り二男の希望を叶えるパターンが多いんだけど、このときばかりはなんだかそれはいけない気がした。

だって誕生日は1年に1回だから特別で、うれしくて、わくわくするのだ。

そのことを、二男に伝えたかった。


すると、

「ちょっとすみませーん」

軽いテンションのおじさんが、ベンチで三悶着くらいしている私たちに話しかけてきた。

ちょっとそれどこじゃないんですけどー??という言葉を呑み込み、あやしい勧誘なのではと身構えたが、どうやらそうではなく。私も知ってる地域の文化祭的なやつで劇をやってるひとだった。

劇中で、「孫」という歌をやり、歌詞に合ったスライドショーを映すのだけど、「もみじみたいな手のひら」という部分で赤ちゃんの手のひらをうつしたいらしい。自分の孫は大きくなってしまったので、通りがかりのうちの末っ子に白羽の矢を立てたのだそうだ。

まぁ、手だけなら、いいか。

末っ子があばれてうまく撮れなかったので、おじさんは二男の手を代わりに撮って、劇の宣伝をして、軽やかに去っていった。


…ちょっと、それどこじゃないんだった。

でも、とりあえずこれで少し気分が変わった二男はプレートはいらないよと言い出した。

ぐっじょぶ、おじさん!

気分が変わらないうちに夫の分だけプレートを書いてもらう。私は迷ってる時間もなく、イチゴのミルフィーユを選んで、みんなのカットケーキを買って、サービスで太いのと細いロウソクをもらった。

その後、数字のロウソクへのあこがれを捨てきれなかった長男のために、ショッピングモール内のスーパーの製菓用品売り場にいそぐ。

シンプルな数字のロウソクは、ケーキ屋さんのそれの半額くらい。

42歳なので、4と2を選ぶ長男を横目に、二男が、

「じろちゃんは、3!」

と選びだす。

「それじゃ、342歳になっちゃうよー」

と長男が突っ込むが、それは、「3歳の3」なのだ。

もうそれに抗う元気がなくなってきていた私は、3もカゴに入れることを許した。

二男が長男を膝カックンした衝撃で私にぶつかってきたり、るんるんする二男がケーキの入った袋を頭突きしたり、なんかもう、ケーキの無事なんかまったく保証できないズタボロな状態で帰路についた。


夫はいつもより早目に帰ってきて、例のホットプレートを準備してもらう。

誕生日なのだけど、なぜだかホットプレートを用意するのはいつも夫の役目なので、いつもどおりやってもらう。

子どもたちが、今日のケーキをどうやって買ったのか、武勇伝をわめきちらしている。

炭酸水で乾杯して、やっとお肉を焼いて、子どもたちに食べさせて、自分も食べて。

めちゃおいしい。

ケーキ買うのに苦労したぶん、ものすごく肉の成分が体に沁みわたる気がする。抜け出た魂が、自分の中に戻ってくるのがわかる。


そしてケーキは、こうなった。

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もりもり。

二男は、「3歳がんばってるで賞」にした。


私が幼稚園のときの園長だったおじいちゃん先生の口ぐせは、「あんたはえらい!」だった。

ことあるごとに私たちを褒めたたえてくれたのを今でも思い出す。

その話をすると、2人とも

「もういっかい言って??」

と延々とリクエストしてくるので、私は「あんたはえらい!」を連発した。


3歳の二男は、うまくいかないイライラとたたかいながら、日々がんばっていてえらい!がんばってるで賞。

ケーキ屋さんで二男の説得に協力してくれた長男もえらいし、抱っこ紐の中から空気読んで静かに傍観してくれた末っ子もえらいし、がんばってみんなをまとめてケーキ買ってきた私もえらい。

で、誕生日なのに、ホットプレートをもくもくと洗って片付けてる夫もえらい…!

つくづく、欲のない男である。


本当は、子どもたちを寝かしつけたら夫婦でコーヒー淹れて飲もうねって言ってたけど、私は子どもたちと一緒に安定の寝落ちをしてしまった。

薄れゆく意識の中で、

「あんたはえらい!」

の園長先生の声が、ずっと響いていた気がする。

夫よ、いつもおつかれさま。健康に気をつけて、この1年もともにがんばろうね。


〈おわり〉








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