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こどもの世界はとっぴょうしもない


じつは、わが家でとんでもないもんをおあずかりしていたらしい。

それはとある「木曜日」のことだった。


いつも保育園から帰ると、長男には「お風呂当番」、二男には「くつ並べ大臣」になってもらう。

といっても、子どもたちの気分によって、やってもらえたり、もらえなかったり、まぁやってもらえないことが大半なんだけど。とりあえず、声はかけるようにしている。

その日、玄関でくつを脱ぐなり、リュックを背負ったまま床にごろーんとした長男に向かって、

「お風呂、やってもらえる?」

と聞くと、

「きょうはもくようびだから、おやすみなの」

ときた。木曜日は定休日なのだそうだ。

ちなみに、帰ってすぐごろーんとするのは、彼のデフォルト。

玄関がせまいので、はよ上がって〜と言いつつ、なんだかうまいことはぐらかされたなぁ…まぁいっか、とお風呂の栓をしてピッとボタンをおす。

「オ湯ハリヲ、カイシシマシタ」という上品な機械音を背後に聞きながらリビングに戻った私は、

「なんで木曜日お休みなの?」

と聞いてみる。深い意味はない。興味本位だ。

「あかちゃんのくにではね、もくようびがおやすみなの」

「へー、じゃあこっちの世界では土日が休みだからびっくりしたでしょ」



胎内記憶とか、生まれる前の記憶がある子どもがいるというのは聞いたことがある。

私が仕入れた情報によると、2〜3歳くらいの、おしゃべりが上手になってきた年頃の子どもに「お腹の中で何してた?」とか「生まれる前はどんなとこいたの?」とか聞くと、「おみずのなかでおよいでた」とか「くものうえにいたの」「ままのこえがしたよ」などなど…ちょっとワクワクすることを言ってくれたりすることがあるらしい。

これは何回も聞いてはいけないし、あまり大きくなってからだと、絵本や周りから仕入れた情報に誘導されてしまうからよろしくない。のだそう。

この手の話が好きな私は、自分の子どもが生まれたら絶対に聞いてみようと思っていた。

長男が3歳くらいのとき、お風呂で「お腹の中のことおぼえてる?」と問いかけてみたら、

「んー?なんか赤かった」

という、合ってそうな、合ってなさそうなこたえが返ってきて、その後はあやふやになっていた。(そのときは、お腹の中って内臓だから確かに赤そうだけど、暗いから色とかわからなそうじゃない?と、しらけること考えちゃった)

ちなみに、3歳の二男にはこの前聞いてみたけど、「わすれた」とはっきり断言してた。いさぎよい。


で、長男は現在6歳。

実はこの「あかちゃんのくに」について、たびたび話すことがあり、おそらく生前記憶というよりは色んな情報や自分の想像から創りあげた、長男独自の世界観なのだと思う。

私もこの「あかちゃんのくに」について長男と話すのが好きなので、この手の話がでると電波をチューニングして色々聞いてみる。

この日は長男もノリノリだったようで、次々と衝撃の事実がとびだした。


「あかちゃんのせかいで、さんちゃん(三男)は王さまだったんだよ!」

なんてこと!三男はすごくえらいひとだったのだ。そんなVIPをおあずかりしていたとは…!どうりで貫禄があると思ったよ…。

「王さまは、みんなのまえで話をしたり、たいへんなんだよ」

設定がこまかい。えらいひとはスピーチするっていうイメージもあるらしい。

「あかちゃんはみんな空をとべて、王さまがみんなのまえで話すとき、飛びながらビデオをとるんだよ」

空撮か…!ドローン赤ちゃん。

「王さまは、1日に5時間30分もはたらくの」

王様、時短勤務。ちょっと悠々自適感ある。いや、ライフワークバランスを大切にしてるのかもしれない。国民にそれを推奨するには、まず自分から…!みたいな気概があるのかもしれない。


ここで、ふと疑問がわく。

みんな、あかちゃんのくににいるときから兄弟だったの?

「うん、そうだよ。そのときからずっときょうだいで、ずっといっしょにすんでるよ」

…そうなのかぁ。その頃から、なかよしだったんだねぇ。

自然と顔がほころぶ。ずっと前から兄弟でいてくれたことがうれしいし、それが空想なんだとしても、そんな設定にしてくれている長男の純粋な心に胸がじんわりあったかくなる気がした。

でもちょっと待て。弟が王様ならば、兄であるあなたたちは何をしていたのか。

「ぼくは、おふろやさん」

突拍子もない。

お風呂屋さんって、銭湯?と聞くと、そうではなくてお風呂を作る人なのだそう。

テルマエロマエかー。

じゃあ、二男は何をしていたの?

「じろちゃんはねぇ…なにもしごとしてない」

二男、プー太郎だった。ちょっと、笑いが止まらない。

ちなみに、みんな一緒に住んでいたけど、王様はお城まで仕事をしに通っていたそうだ。別邸ということか…。やはりライフワークバランスを重視してたんだな。


なお、あかちゃんのくにには、あかちゃん小学校から大学まであるそうだ。教育システムも充実。これは王様の功績かしら。

いま三男はあかちゃん小学校の1年生、長男はあかちゃん中学の2年生らしい。どういう計算かしらんけど。そして、学生なのに立派に仕事をしていたことになる。(ちょっと色々矛盾点がありますが、6歳児の夢想ですので、なにとぞ…)

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そんなわけで、いまわが家には、元お風呂屋さんと、元プータローと、元王様の兄弟が共にくらしている。仲よくしたり、けんかしたり、ケンカしたり、喧嘩したりしながら、ときに助け合って、生きている。

そして長男は言ってくれた。

「かっかのところにきたかったから、きょうだいみんなで、ここにきたんだ」

生前記憶かは定かではないけれど、それはすごくうれしくて、ちょっとこそばゆい。誇らしくもあるけれど、ちょっと心配になる。本当に、君たちがここにきてよかったと思えるような、お母ちゃんになれてるかなって。

「でも、もうちょっとやさしいママのところがよかったんじゃない…?」

なんて、つい自虐発言すると、

「ぼくがきめたんだよ」

ときっぱりと言い切った長男。

そうだ、私が弱気でどうする。長男のまっすぐなまなざしに、背筋がぴんと伸びた気がした。

「かっかも、みんながきてくれて、本当にうれしいよ!ありがとね!」


三男がおしゃべりできるようになってきたら、生まれる前のこと、聞いてみるのが今から楽しみだ。

「ぼく、おうさまだったの」

なんて言ったらどうしよう…?

〈おわり〉

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