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【小説】よかったことだけ思い出せたらいいのに #ミスチルプレイリストをさらし合おう


忘れられない恋がある。


といっても、まだ好きだとか、あわよくばやり直したいとか、そんな感情はこれっぽっちもない。

私はいま、幸せだ。

ただ、あの頃を思い出してはつらくなることがある。

その引き金をひいてしまうのが、あのひとの歌声で。

あのひとっていうのが、Mr.Chiledren(ミスチル)の桜井さんで。

けれど、桜井さんはミジンコほども悪くない。まったくもって悪くない。

ミスチルの曲はすごく好き。むしろ大好き。

だけど、つらかった恋愛とミスチルがどうにも切っても切れない間柄になってしまった。純粋にミスチルの歌を聴きたいのに、よけいな感情が入ってきてつらい。

よかったことだけ思い出せたらいいのに、私にはそれができない。

このnoteは、#ミスチルプレイリストをさらし合おう に参加しています。

ミスチルの曲をもとに小説を構成しているので、各章それぞれの曲をBGMとして脳内再生しながらお読みいただきますと、より一層お楽しみいただけるかと思います。



BGM1.『Over』

私は地方から上京して、学校の寮でひとり暮らしをはじめた。

大学生としての生活にも慣れ、少し友達もできて。唯一の特技であるテニスを続けるため、サークルにも入った。

ちょっと身の回りが落ち着いてきたかなという頃に、彼氏ができた。相手はサークルの先輩で、たしか先輩の方から付き合いたいと言われ、深く考えずに付き合い始めた気がする。

そのわずか2カ月半後、「ほかに好きな人ができたから」という理由でこっぴどく振られることになるなんて、まるでよくある少女漫画みたいだった。ピュアハートなおのぼりさんだった私には、そんな短い期間で心変わりする心理がまったくもって理解できず、慣れない生活の中で気持ちを立て直すのにとても苦労した。

その直後、サークルの同期飲みがあり、私は人目もはばからず、わんわん泣いた。お酒の力もあったけれど、こんなに人前で泣いたのは初めてだった。

やっぱり、都会はこわいし、大人になるのもこわい。大人になるって、こういうことなのかな。

その飲み会で、よしよしとなぐさめてくれた心優しい同期たちの中に、和樹はいた。

「俺の美鈴をこんなに泣かして~」

和樹はただの同期だったけど、酔った赤い顔でそんな冗談を言って、私を笑わせた。

和樹は線が細くて、誰にでもやさしくて、故郷をとても愛していた。平和主義で、友情や仲間をとても大事にするひとだった。

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それからほどなくして、和樹にも災難がふりかかる。

サークル同期内での、恋愛関係のもつれ。

当時、付き合ってすぐの関係だった同期のユラにふられ、こともあろうにユラは同期の他の男と付き合うことになったらしい。ユラは、その同期ともすぐに別れ、幽霊部員になってしまうのだけど。

和樹は繊細な心の持ち主だった。彼女にふられたことに加え、友達にも裏切られたと、ひどく傷ついていた。私は、和樹と件の同期が殴り合いのケンカになりそうなところをまわりにいた男子たちに止められる現場も目撃した。

ひさしぶりに会ったその姿は、みるからに憔悴しきっていた。いたたまれずに話を聞くと、もうサークルをやめようと思っているという。

私は思わず和樹をひきとめた。

それは恋愛感情ではなく、完全に仲間に対する友情だったと思う。彼のテニスに対する情熱を知っていたし、サークルをやめてしまうのは仲間としてさみしいし、一緒にテニスがしたい。もったいない。

ただ純粋に、そんな思いだった。

同じ時期に、同じようにひどく振られるという経験をして、気持ちがわかったことも大きかったかもしれない。

それからは相談にのったり、話をすることも増えた。時々、飲んだ勢いで「付き合おうよ」と言われたこともあったけれど、傷のなめ合いになるのはまっぴらだったから「そういう軽いのよくないよ」と丁重にお断りした。


和樹はミスチルが大好きだった。

時々、ユラのことを口にし、その時の感情をミスチルの歌にのせて語る。「Over」は言わずと知れた失恋ソングだ。こんな曲に合わせて元カノの話をされた日には、まだ未練があると思わざるをえない。

それなのに「付き合おう」なんて、軽率すぎる。

私だって、もう誰かの2番目になるなんて、代わりになるなんて、まっぴらなんだ。付き合うなら、好きな人の1番にならなくちゃ意味がない。

この話をするときの和樹は、本当にしくしく泣いてしまうこともあった。別に男だから泣いちゃだめなんてことはない。だけど、そんなに素直に泣かないでほしかった。

先輩との失恋をひきずっていた私は、誰かに必要とされることに飢えていたんだから。誰かに好かれることに、貪欲になりすぎていたのかもしれない。それも、気づかないうちに。


BGM2.『Simple』

和樹からは相変わらず時々、軽く告白されていたけど、まだ付き合う気にはなれなかった。

「Over」の歌詞どおり、男らしさってなんだろうって考えちゃうくらい、ユラに未練があると思っていたから。

ミスチルが生活の一部になっている和樹が教えてくれる曲の歌詞は、どれも和樹の心の内を代弁しているかのように思えた。


そんな中、「Simple」という曲がぐさりとささる。

なんだかんだと理由をつけて、1年近くも和樹からの申し出をつっぱねてきたけれど、シンプルに考えたらいいのかもしれない…とぐらつき始めた。

和樹も私もマイナス思考で似たもの同士だけれど、もしかしたら、傷のなめ合いじゃなく、お互いのつらさを分け合って理解し合っていけるかもしれない。


BGM3.『Sign』

おだやかに晴れた春の日。

テニスの練習のあと、2人で出かけないかと和樹に誘われ、私たちは下町をぶらついた。疲れて座り込んだお寺の境内で、どういう流れだったか告白されて、その日はついに押し切られてしまった。

お寺なのにどういうわけかおみくじが置いてあって、それを引いたら、2人して大凶で、でも「マイナスとマイナスをかけたらプラスだね!」なんて、ふざけて笑い合った。

マイナスとマイナス、足したらマイナスだよね…。ふと気づいた野暮な気持ちには蓋をした。

その日は、マイナス思考な私たちがプラス思考になれるくらい、まちがいなく幸せだった。

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その頃、流行っていたドラマからはミスチルの「Sign」が流れていた。ドラマを観た後、寮の談話室に1人でこもり、電話やメールで和樹と感想を言い合うのが好きだった。

良くも悪くも、和樹との会話やしぐさの中から、わずかなサインも見逃さないように。ちゃんと、ありがとうと、ごめんねを伝えようと、この時は思っていたのに。

灰色だった私の大学生活がちょっとだけオレンジに染まり始めていた。


BGM4.『HERO』

私は、サークルで女子部長的な立場になっていた。

同期と殴り合いのケンカをしそうになったことから、同期内での和樹の心象は良いものとはいえず、和樹自身もサークルにいるのが気まずいとたびたびこぼす。

自業自得といわれればそうなんだけれど、ほっておけなかった私は、自分の立場を利用しようとした。いってしまえば、職権乱用。

特別な行動に移すわけではないけれど、女子部長である私と付き合っているという事実があれば、みんなが和樹を見る目も変わってくるかもしれない。

冷静にみたら、なんというおこがましい考えだったのかと思う。恋は盲目というけれど、それは相手に対してだけじゃなく、自分や周りにも影響をおよぼすのだ。

私は自分の存在意義を示したかっただけだったかもしれないし、「HERO」にでもなったつもりで、だれかの助けになりたかったのかもしれない。だけどそれは、本当のやさしさだったんだろうか。

いまでも考える。

あのとき、和樹と付き合おうと思ったのは、恋愛感情だったのか、ただ優しさという名の傲慢な正義をふりかざしただけだったのかって。もしくは、ひとり都会で生活するさみしさをうめたかっただけなのかな。

たぶん、すべて。

和樹は真面目すぎるくらい真面目で、頭がよくて、私には考えもつかないような哲学的なことを言う。虫も殺せなくて、部屋に入ってきた大量のアリを1匹ずつ外に出していた姿にはちょっとあきれたけれど。

そんな和樹に、だんだん惹かれていったのは私の方だった。


BGM5.『PADDLE』と『靴ひも』

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サークルでの立ち位置は不安定だったものの、私たちにはテニスがあった。

私と和樹はテニスが好きだった。お互い地方から上京し、一人暮らしだった私たちは、サークルの仲間をまるで家族のように思っていた。試合に向けてみんなで汗だくで練習するのも、飲み会でバカ騒ぎするのも、恋バナで盛り上がるのも、どれもこれも大切で。

テニスの試合やサークルの合宿やイベント、大学の試験、実習…。

「靴ひも」を結ぶ時間も惜しんで駆け出した日々。

たんたんと「PADDLE」をこいで、虎視眈々と平穏な日々をめざして、大学生活はせわしなく進んだ。

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そうして何年かサークルで過ごすうちに、和樹が同期とケンカしてたことや、ユラのことなんて、みんなの記憶からうすれていった、と思う。

その傷はかさぶたになって、少しだけ、傷跡をのこして。


BGM6.『くるみ』

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もしかしたら、その傷跡をいつまでも気にしていたのは私だけだったかもしれない。ひとりだけ、傷あとがうまく治らずに、じゅくじゅくと膿んでいるのも気づかなかった。

好きな人の好きな曲というのは、どうしたってそのひとの内面を、むしろ本心を、直球で表しているような気がしてしまう。その頃、和樹は「くるみ」という曲を絶賛していた。

「ねぇ、くるみ」と語りかけるイントロは、「ねぇ、ユラ」と、元カノの名前を丸々あてはめて歌っているように聞こえる。歌詞を全体的にみたら、過去は振り返らずに歩きだそうという前向きな内容なのだけれど。

それでも。どうしても、ユラのことを思い出してほしくなかった。

「ユラには幸せになってほしい。いつでも味方でいるつもりでいる」

なんて、聞きたくなかった。

「HERO」にでもなったつもりかよ。

…あれ?どこかの、だれかみたいに…?


ユラがサークルにいた短い期間、私も彼女と友達として付き合っていたからわかる。天真爛漫で、まっすぐで、小さくて、かわいくて、同期だけじゃなく先輩も含めて幾人もの男子がとりこになっていたのを知っていた。

ユラがうらやましかった。

私だって、だれかの愛をひとりじめしたかったのに、即行でだれだか知らない女に負けた。

和樹にとって私がユラ以上になれるはずがないのに、和樹が私と付き合いたいと言ったのは、結局は穴埋めだったんじゃないか。何年たっても、ずっと胸の中に鉛色の思いがたまっていく。それが、時々真っ赤なマグマみたいになって噴き出して、心が半熟卵みたいに不安定になった。

そのたびに和樹は弁解し、「美鈴が1番に決まってるじゃないか」と眉毛をへの字にしていた。

「信じたい」という想いと「信じられない。もう傷つきたくない」と自分を守りたい気持ちがせめぎ合って、いつも後者が勝ってしまう。いつだって、傷つかないための予防線をはりめぐらしていた。

私は和樹を守りたかったのに。HEROになりたかったのに。それをまっとうするにはあまりに私の心が弱すぎた。


BGM7.『しるし』

いつの間にか、弱っていた和樹の心は回復し、私の気持ちが不安定になる頻度の方が明らかにあがっていった。

同時に、和樹の別の面も垣間見えるようになった。典型的な、釣った魚に餌はやらないタイプ。ほかのみんなには優しいのに、私と2人きりのときには優しくないことばかり言う。会話が成り立たない。息が苦しい。

私のことは、もう女としてはみてくれていない感じがして、繰り返しケンカした。夜中に言い合って、和樹の部屋の暗い玄関でひとりずっと泣いていても、和樹はベッドから抜け出してはきてくれなかった。私は小さく小さく背中を丸めて、このまま消えてしまいたいと思った。

和樹は将来に向けての勉強が忙しくなり、あまり会ったり出かけたりしなくなった。和樹の心が離れていくのを感じながら、私も大学の卒業試験や資格試験の勉強があったので、集中することで気持ちをまぎらわす。試験が終われば、また和気あいあいとした関係にもどれるはずだ。


けれど、2人とも無事試験に通っても気持ちはすれちがったままだった。それでも、これはお互い心を許し合ったからこその慣れ合いみたいなものなんだ。そう自分に言い聞かせていた。

大学時代のほとんどを和樹と過ごし、なんとなくこのまま結婚するんじゃないかなと、淡く思っていた。私はそれまで誰かと長く付き合ったことはなかったし、「付き合う=将来的には結婚」という図式を短絡的に描ける女子だった。

ミスチルの「しるし」は、「14歳の母」というドラマの主題歌にもなっている。子どもとの強い絆だけじゃなく、パートナーとの強いつながりをうたっているような気がして。歌詞を自分に言い聞かせていたのかもしれない。長い時間を共に過ごして、和樹の色んな面を理解したような気でいた。

一緒にいられなくても、味方でいるよ。

この時点で、和樹との間柄は恋じゃなく、兄弟や従兄弟みたいなつながりになっていたのかもしれない。


BGM8.BGMなし(ミュート)

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私たちは大学を卒業し、社会人になっ た。

相変わらずケンカも多く、何度か別れ話もでたけれど、そのたびになぜかよりを戻してしまい、腐れ縁が続いていた。

私は大学の寮をでて、晴れてひとり暮らし。逆に、和樹は職場の寮に入ったので、週末は私のマンションでダラダラ過ごす。

このままではいけない。

サークルの仲間たちの中には結婚するカップルもちらほら現れていたし、和樹との将来をちゃんと考えなくてはと思っていた。

それらしきことを和樹から言われたことはなかったし、私からそれとなく切り出しても「今はその気はない」とはっきり言われる。

和樹としては、仕事もまだ軌道に乗っていなかったし、そんなことを考える余裕はなかったのだろう。数年後には必ず海外赴任する職種だったのも、ネックだったかもしれない。

でも、「こんなに長く付き合ってきたのに、結婚する気ないんだ…」という絶望感は私を真っ黒に染めた。そのたびに、また傷が深くなって、溝も深くなる。

私はもう、限界だった。


苦しくなってサークルの同期に相談すると、

「ああ、あいつ、もう美鈴とは別れるって、けっこう前からずっと言ってたもんなぁ…」

頭が真っ白になった。

私だけだったんだ、ずっとこだわっていたのは。

HEROどころか、亡霊みたいなって、恋とか愛とかの幻にずっとしがみつこうとしていた自分がはずかしくて、情けなくて、また消えたくなった。

私の頭の中ではもう、ミスチルの曲は鳴らなくなっていた。ミュートボタンをおしたテレビをみてるみたいに、桜井さんが懸命に歌っているのはみえるけど、もう、音は聴こえない。


その頃、和樹の顔よりも、職場の先輩の優しい顔がちらちらするようになった。

大井さんは同じ部署の先輩だったけれど、その春、他部署へ異動したばかり。私は同じ部署に大井さんがいなくなることが、毎日会えなくなることが、とてもさみしいことに気づく。

その日は、仕事後に近くの焼き鳥屋さんに飲みに行った。2人で飲みにいくのは初めてだった。相談にのってほしいと最初にメールしたのは、私。

結婚を考えていたひとがいること。でも、彼はそうは思ってくれないこと。

大井さんは真剣に向き合ってくれた。ただただ、「それはつらいねぇ」と話を聞いてくれた。焼き鳥のしょっぱさと、レモンサワーの刺激と、大井さんのやわらかな笑顔が身にしみた。

(大井さんみたいなひとと、付き合えていたらよかったな…)

そんな想いは、もう隠しようがなかった。このまま、大井さんとどこかへいってしまえたらいいのに。


お店から出るころ、だいぶ私の心は軽くなっていた。ひさしぶりに開いた携帯の画面には、和樹からの着信がたくさん並んでいる。

「何回も電話したのにどうしたの?今から美鈴んちに行こうと思うんだけど。」

かけ直した電話に、不機嫌そうな和樹の声。

「…ごめん、今日は、無理」

われながら低い声だった。

「…そういうこと。わかった。わかれるってことね。理由は、聞かないから」

なぜだか、和樹は事情を察したようだった。

「うん、ごめんね」

和樹の声を聞いたのは、それきりだった。6年間も付き合ったのに、あまりにあっけないおわり。本当は、ずいぶん前から私たちは終わっていたのかもしれないけれど。


その後、自分の部屋に置いてあった和樹の私物と、ちょっと前の誕生日にプレゼントされたブランドものの財布は宅配便で送り返した。

ランチタイムに事情を職場の同僚に話すと、

「プレゼントされたものを送り返すなんて、相手にとってはひどい仕打ちですよ」

と非難されたけれど、どうしても手元におけなかったし、売る勇気もなかった。

私がほしかったのは、ブランドものの財布じゃない。

思いやりと信頼だった。

そして、変わらない想い。だけどいつも、今以上を望んでしまっていたのはたしかだった。

私は和樹を信じられなかった。受け止めきれなかった。そんな自分が言う資格がないってことは、自分が1番よくわかっている。


◇◆◇◆◇

エピローグ:BGM9.ふたたび『くるみ』

私は和樹と別れ、大井さんと付き合うことになった。

やがて名字も大井に変わり、男の子3人を育てながら忙しい日々を過ごしている。

風のうわさで、最近、和樹が結婚したという話を聞いた。

少し複雑な感情が頭をかすめた一方で、安堵の気持ちもまた胸にひろがる。

繊細で、ちょっと偏屈な和樹と、一緒に歩んでくれるというひとがいてよかった。

お門違いなのは重々承知で、そんなことを思っている自分がいる。たぶん、従兄弟的な立場で本気でそう思っている。


あの日、私は和樹を傷つけた。

守りたかったのに、傷をいやしてあげたかったのに、勝手に傷ついて、傷つけた。信じてあげられなくて、ごめんね。

あの頃、幼い私はミスチルに恋していたのかもしれない。和樹という人間すべてを、まっすぐにみていればよかったのに。

あの日、素直に言えなかったごめんねを、心の中でそっと思う。

実はその後、和樹からは手紙をもらっていた。

和樹も謝っていた。いつか美鈴と結婚する気でいた。美鈴の優しさに甘えて、優しくできなかった。美鈴なら、笑顔で何でも許してくれると思った。


あの頃、私たちはお互いちょっとずつボタンを掛け違えて、それでも日々の歯車をまわすことに必死で、気づいたらものすごく息のしにくい場所まで離れ離れになってしまっていた。

今でも時々思う。
もしあのまま、無理やり結婚して、海外で生活していたら…。

きっと私は心身を病んでいたにちがいない。

私は淡水魚なのに、無理やり海で泳ごうとしていたから。

私は今、流れのきれいな小川で、ちょっと大きなのと、小魚3匹と、一緒に仲よく泳いでいるよ。

後悔なんてしてない。

私はこの道を、和樹はその道を、進んでいく。

和樹は今も、ミスチルを聴いているかな。


私の頭の中で、ミュートだったミスチルの曲が、また軽やかに流れだした。

今度は誰かの心の声の代わりじゃなく、自分の人生にエールを送ってくれる応援歌として。

〈おわり〉


《私のミスチル偏愛プレイリスト》
Over
Simple
Sign
HERO
PADDOLE
靴ひも
くるみ
しるし
くるみ

#ミスチルプレイリストをさらし合おう

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