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エミール・クストリッツァ監督「アンダーグラウンド」

 ユーゴスラヴィアという国があったことを知っていますか?
この映画を観た後で曖昧な世界史の記憶を確認することとなった。 

 クストリッツァ監督の作品は去年「黒猫・白猫」を観たので2作目だ。「黒猫・白猫」は音楽というキーワードに惹かれ、もちろん「猫」のタイトルに惹かれて手にとったのだが、ドナウ川沿いのスラヴ民族っぽい人たちのドタバタラブストーリーにかなり笑えた。これについて今回は予告動画だけで割愛する。

 さて「アンダーグラウンド」は1995年制作なので、「黒猫・白猫」より3年前に発表された。

 やはり例の吹奏楽バンドの音楽がジャカジャカ流れていることが多かった。民族性なのだね、きっと。ジプシー(ジプシー・デンジャーではないw)と呼ばれる人達が起源の音楽らしい。こういう音楽は聞き慣れないせいか、ずっと流れていると神経が疲れてしまった。(否定するものではないけど)しかし何日か経って、今はまた聞きたくなっていることに気付く。え・・どうした?
 予告編を見直すとやはりブカブカ・ドンドンと楽隊が小走りでずうっと演奏している。なんだか笑える。(ホドロフスキーの虹泥棒でも楽団がいい味出していたっけ)主役3人で歌うスローテンポの曲はいい♪聞き慣れると恋しくなるのかもしれない。

 なおジプシーやロマ族という呼称をいろいろな映画やドラマで聞いたことがあるが、今回調べてみたらあまりにも複雑多岐に渡るので、齧って終わりにできなくて断念した。集中力ないと頭に入ってこない~。

 アンダーグラウンドは第二次世界大戦でドイツとクロアチア連合軍が旧ユーゴスラヴィア王国(ベオグラードが首都)に侵攻したところから始まる。(ユーゴは南、スラヴィアはスラブの意味。)

 ちょいと横道だけど・・・冒頭で、爆撃によって絶命したり傷ついたりした動物園の動物たちの映像があって(そんなに過激ではない)、不意をつかれたわたしはどどーっと涙腺が崩壊した。戦争ってそういうことなんだな

 話戻る!簡単にまとめると、国王は逃亡し、ドイツを撃退したのはユーゴスラヴィア正規軍ではなくゲリラ組織のチトーだった。チトーは後にクロアチアを併合し「ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国」を設立する。現在のクロアチア、スロベニア、セルビア(ヴォイヴォディナ自治州、コソボ自治州を含む)、モンテネグロ、マケドニア、ボスニアヘルツェゴビナが含まれる。
 ここら辺りで頭がごちゃごちゃ・・・なので、自分の為に地図を(笑)

 クストリッツァ監督は1954年サラエヴォで生まれたそうだから、このユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国時代ということだね。サラエヴォは現ボスニアヘルツェゴビナだけれど、監督自身はユーゴスラヴィア出身と言っていたそうだ。この辺りの監督の想いがこの映画に込められているようだ。

 アンダーグラウンドでは、このチトーが亡くなったあたりまでが描かれている。第二次大戦からチトーの死(1980年)まで、実写の記録画像に加工して登場人物を紛れ込ませているので、妙にリアルな感じがする。

 主役のクロとマルコはチトー率いるゲリラ組織の一員という設定。それにナタリアという節操のないブロンド美人が絡む。クロとマルコは親友同士(ちょいと怪しい親友だけどね)
 政治色はけっこう濃いと思うが、それだけじゃない。喜劇かと思うくらい、ユーモアたっぷりで思わず吹き出したり、口があんぐり・・・とか。また時々悲哀に胸がきゅん。そしてあり得ない設定でファンタジーかと思う要素もある。そういう面でもホドロフスキーのなんでもてんこ盛り映画に似ているかもしれないね。


 マルコに騙されて地下に20年も閉じ込められていた人々。これは題名の所以だね。(なんと時計を遅らせるというマルコ手先の小細工で、皆は15年しか経っていないと信じている。)表紙画像は地下世界で挙げられたクロの息子の結婚式。民族の伝統に従った心尽くしの祝宴だ。
 時代や環境(映画の設定では奇異な環境だけどw)が変わっても、伝統的なしきたりが伝えられていくことは素晴らしいと思った。民族の魂、心が込められているときにこそ、伝統とは伝えられる意味をもつのだろうな。

 ストーリーの詳細には言及しないが、ラストシーンは圧巻だったので動画を載せておくことにする。圧倒的な映像と音楽と言葉の力で涙が止まらなかった。
 マルコの弟のセリフ・・・
 苦痛と悲しみと喜びなしに子どもたちにこう伝えられない。
 昔ある所に国があったと。