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面白い人探しから 〜トラベルジャーナル2023年7月17日号掲載コラム

まいまい京都/東京は、旅行業界専門誌「トラベルジャーナル」でも毎月連載中。今回はトラベルジャーナル2023年7月17日号に掲載されたコラムをnoteにて公開いたします。TRAVEL JOURNAL ONLINE https://www.tjnet.co.jp/

ぶらっとまち歩き着地型プランニングガイド vol.4 (2023/7/17)

面白い人探しから

まいまい京都のツアーは「どこへ」よりも「誰と」を重視する。従来の行政系まち歩きで多いのは、まずどこを歩くかルートを決める。そこに簡単なタ
イトルを付けてガイドを募集。公募しても面白い人は集まらないので研修する。

私たちは逆だ。まず面白い人を探す。そしてツアータイトルを徹底的に考える。これが決まれば企画は半ば終わったようなもの。あとはタイトルに合わせてルート等詳細を詰めていく。大事なのは面白くない人を育てようとしないこと。1日なり1週間なり研修したところで、そんな付け焼き刃の知識では面白いはずがないのだ。

つまり「誰にガイドしてもらうか」からすべての企画は始まる。食事は誰と共にするかで楽しさ、味の感じ方が変わる。まち歩きも同じで、誰と行
くかで同じ場所でも味わいが変わる。例えば同じ下鴨神社を訪ねるツアーでも「森の案内人と訪ねる奇跡の原生林、川が織り成す糺の森へ」と「神職と特別参拝!国宝本殿、開けずの間と『玉座』を拝見」。わずか数十文字のタイトルで、ガイドによって見る世界が全く違うことが分かるだろう。

私たちがガイドを依頼したいのは、庭師や神主さんのようにガイドのプロというよりその道のスペシャリスト。そしてその道に詳しいだけでなく、
自の視点
対象への愛情を兼ね備えた面白い人だ。では、そんなユニークなガイドさんをどうやって見つけるのか。好きなことを仕事にしているとも限らず、趣味で極めている方もいる。探すのも一朝一夕にはいかない。SNSや本、テレビ、イベント、知り合いの紹介。取材に来た記者であっても、休
みの日にたまたま訪れたマッサージ店の施術者であっても、独自の視点や経験を持っていて、私たちが面白いと感じたらその場でスカウトする。この地道なスカウト活動が企画の礎だ。担当は昼夜・方法を問わず、それこそ息をするように面白いガイドさんがいないか目を光らせている。こう
したメンバーの嗅覚と努力、さまざまな紹介や縁があって、現在まいまいでは累計600人以上のガイドさんがまちを案内している。御用庭師落語家
考古学者建築探偵廃線マニア地元のお母さん......。それぞれの視点と愛情を核に、600人いれば600通りのまちの楽しみ方がある。

人生経験の合計で、まちは人々が生きた経験の総体だ。積み重なった人の営みをどう切り取るかによって、まちはいかようにも違った顔を見せる。
圧倒的な人々の足跡が蓄積された京都。現代を生きる数多くの暮らしが溶け合う東京。人の営みほど面白いものはない。だからこそ同じ場所でも人の
数だけ多様なツアーが可能となる。京都や東京にとどまらない。そこに独自の視点と好奇心を持って接する人がいれば、全国で私たちのようなツアーは開催可能だと信じている。

以倉敬之(いくら たかゆき)

合同会社まいまい代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、イベント企画会社経営をへて、2011年「まいまい京都」創業。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演。共著に「あたらしい『路上』のつくり方」。京都モダン建築祭実行委員、神戸モダン建築祭実行委員、東京建築祭実行委員。


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