手紙を書くのが好きなあなたへ

メールやLINEで日々やり取りし、色紙ですらデジタルのサービスを活用できるようになったこの時代、それでも紙とペンを用意して手紙を書くことを私は愛しいと思う。
そしてあなたが大切な人に対して手紙を書こうとするということは、きっとあなたもそのアナログな行為に愛着があるからだと思う。

あなたの書く文字が好き。
あなたの選んでくれた便箋が好き。
少しだけ曲がって貼られている切手があなたらしいと思う。
どんな時に、どこであなたがこれを書いたのか、想像する時間が好き。
少しかしこまって、でも懸命に伝えようとする言葉たちが愛しい。

時に消しゴムの消し跡や、汗で紙がよれた跡は、ピッタリと気持ちに重なる言葉がなくて迷っている様子を伝えてくれる。文末がくっきりと黒いマルで閉じられていると、私までその強さに安心してしまう。
字はいつも自信なさげに控えめに、あるいは堂々と真正面から向かってくるように私に語りかけてくる。不思議なことに、ちゃんと頭の中であなたの声で読み上げてくれるというサービスまで付いて。

便箋を前にすると、正直な傷つきやすい心が出てくるんじゃないかな。それと同時に生まれる優しさは、誰のことも傷つけたくないというやわらかな正義感だと思ってる。
だから手紙はびっくりするほど素直で、恥ずかしげなあなたの顔が思い浮かんで、気を緩めたらなぜだか泣きそうになっているときもある。

真っ直ぐすぎるあなたは眩しすぎて、でも不器用さは人間らしいあなたを縁取っていて、手紙はいつもまるごとあなただった。
あなたにもそうやってありがとうと伝えたいのに、私にはそんな余裕は、純真さはあるのかと不安になる時がある。きっとないだろうと悲しくなる時がある。

だからあなたには伝えておきたい。言葉ってすごいとかありふれたことを言ってがっかりさせるかもしれないけれど、今までのいろんな言葉たちはきっと届いていると思う、と。

この間、届け先のない手紙の集まる、漂流郵便局を知った。
私は私達にはそれが必要なのだと、なにかもよくわからないまま直感的に思った。つまるところ、それがこの手紙のなりそこないのような、それでいて誰よりも手紙然としている言葉たちの集まりの始まり。
この言葉たちが誰かに届く日が来たとして、それがあなたが想っていた相手かも、あなたが伝えようとした意味で伝わるのかもわからない。
それでも必要だったから、自分専用の漂流郵便局が欲しかったから、言葉たちは消えていくことはなく、ただひっそりと埋もれているだけの存在を許された。

あなたのまっすぐな目とこころがすくい取ったあらゆるものたちが、届け先がなくてもこの世に言葉として積もっていけばいいのに。
これからも、思いがけない手紙に彩られる人生だったら素敵なのに。
だからまずあなたに手紙を書きました。
これからもまるごとのあなたが映し出されるのが見たくて。
どうぞそのまま愚直なまでに必死に言葉を紡いでくれるあなたでいてほしくて。

そんな私の願いがまずあなたのもとに届きますように。

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