『憧れのお姉さんは麻雀がお好き』第2話

本文

『専門用語ばっかり使うんじゃねぇよ』

燈宅。
寝巻きのまま伸びをしながら階段を降りてくる燈。
燈「おはよ~」
燈母「あんたもう10時よ?蓮子ももうとっくに学校行ったわよ」
燈「小学生すごいね~」
燈母「あんたももうすぐ就職なんだからしゃんとしなさいよ。昨日結構飲んでたけど大丈夫?」
燈「うーん大丈夫~」
腹を掻きながらダイニングの椅子に座る。
燈母「あんた…だらしないねぇ」
呆れ顔の燈母。
燈母「ご飯食べる?」
燈「食べる~!」

和道「と、言うわけだ。麻雀教えてくれ」
蓮子「ガキ過ぎて笑う」
教室の和道と蓮子。
真剣な顔の和道と呆れ顔の蓮子。

蓮子「お姉ちゃんと一緒に遊びたくてルールも知らないゲームに強引に混ざり込んで、負けてキレるとか」
蓮子「ガキ過ぎて笑う」
和道「2回も言わないで!!」
自身の痴態を客観的に説明され羞恥心で顔を押さえる和道。

蓮子「だいたい教えるったって私もほとんど知らないよ?点数とか役とか分かんないし」
和道「でも何やるかくらいはわかるんだろ?俺は何もわからん!!」
蓮子「偉そうに言うことか?」
さらに呆れ顔の蓮子。

蓮子「おじいちゃんとかお姉ちゃんに教えてもらえばいいじゃん」
和道「ジジイはともかく!」
和道「燈ねぇに教えてもらうのはめちゃくちゃいいなって思った…!」
燈に手取り足取り教えてもらう想像をする和道。
和道「でもこっちの方がいいなって思って!!」
大勝ちして燈に尊敬され姿を想像する和道。

蓮子「うわあガキ過ぎて引く」
和道「また言った!」

蓮子「ていうか私じゃなくても麻雀できる人、多分いっぱいいるよ?」
和道「そうなの?」
蓮子「田舎って娯楽少ないから」
ため息をつく蓮子。

和道「でもまぁ、教えてもらうなら蓮子がいいな」
蓮子「!」
ドキッとする蓮子。
和道「だって蓮子教えんの上手いじゃん。夏休みの宿題とか蓮子がいないと終わらねぇし」
ケラケラと笑う和道に対して顔を赤らめて照れる蓮子。
和道の肩を殴る蓮子。
和道「いってぇ!なんだよ!!?」
蓮子「…仕方ないから教えてあげる!塾がない日だけだからね」
蓮子の友人(れんちゃんちょろいなぁ…)
後ろの席で会話を聞いていた蓮子の友人が呆れている。

放課後、和道の部屋。
ゲームやおもちゃが転がっている少年らしい部屋。
中央に祖父からパクった麻雀牌の山がある。それを挟んで座る和道と蓮子。
蓮子「はいじゃあ!蓮ちゃんの麻雀講座を始めますっ!!」
メガネをかけてポーズをとる蓮子。
和道(ノリノリだ…)

蓮子「ではまずは麻雀の歴史から!!」
図書室で借りた麻雀の本を開く蓮子。
和道「え?」
蓮子「麻雀は150年くらい前に『葉子(マーディアオ)』っていうカードゲームと骨牌(パイゴウ)っていうドミノみたいなゲームを組み合わせてできたっていう説が有力です。日本に伝わったのは1909年で雑誌などに紹介されて広まったとされています!!」
※諸説あります。

和道「はい!」
元気よく手をあげる和道。
蓮子「はい!和道くん!」
ノリノリの蓮子が和道を指さす。

和道「そんなんどうでもいいからルールとどうやって勝てるかを知りたいです!!」
蓮子「……」
和道「……」
蓮子「うん。正直あたしもこの辺はいらないかなって思ってた」
メガネをとる蓮子。

蓮子「それで?逆に今何がわかるの?」
和道「えーと…ここから取って自分のところから1個場に出す?」
和道、牌からカードゲームのようにモンスターが出てくる想像。(読めないやつ!召喚!!)
蓮子「OKつまり何も知らないのね」

蓮子「これはね。場に出してるんじゃなくて捨ててるの。捨て牌っていうの」
和道「へぇ。」
モンスターが墓地に送られる想像をする和道。(読めないやつを墓地へ!!)
蓮子「それで手元にあるのが手牌。ここを揃えるゲームだよ。」

蓮子が牌を一つ手にとる。
蓮子「あ、そもそもこれ自体のことを“はい”とか“パイ”って言うのね。」
和道「パイ…」
和道がつぶやく。乳を想像する和道。
蓮子「和道最低」
引いた顔の蓮子。
和道「なななななな何言ってんだ俺別に何も!!」
蓮子「次エロいこと考えたら引っ叩くからね」

元の顔のまま蓮子が続ける。顔を赤らめる和道。
蓮子「次は牌の種類ね」
蓮子が手元にある牌を並べる。

蓮子「牌の種類は全部で34種類ね。で、それぞれ4枚ずつで136枚。」
和道「多いな」
困り顔の和道。蓮子「大丈夫大丈夫。サクッと行くよ」

蓮子「まず基本の数牌(すうはい)ね。これが3種類でそれぞれ1から9まであるから合計で27種類ね。」
和道「え!ほとんどこれじゃん!楽勝だな!」

蓮子「まずこれ」
蓮子、萬子を指差す。
和道「読めん」
蓮子「萬子(マンズ)ね。昔のお金の単位らしいよ。」

蓮子「次これ」
筒子を指差す。
蓮子「魔法陣」
蓮子「筒子(ピンズ)。昔のお金がモデルなんだって。」

蓮子「最後これ」
索子を指差す。
和道「…竹?」
蓮子「お、あってる。竹の模様だよ。正確には昔のお金を束ねた竹串らしいけど。呼び方は索子(ソーズ)ね。」

和道「全部金関係…?もっとバリエーション出してけよ…」
蓮子「知らないよ」

蓮子「でこれに中国語で1~9まで1(イー)、2(リャン)、3(サン)、4(スー)、5(ウー)、6(ロー)、7(チー)、8(パー)、9(キュウ)が頭につくの。」
蓮子が筒子の5を取る。
蓮子「例えばこれだとウーピンね。」
蓮子が和道の方を向き直る。
ヘロヘロに溶けている和道。
蓮子「どうしてどこで!!?」
和道「シランコトバガイパイデテキタ…」
蓮子「い、いやいや大丈夫!!すぐ覚えられるから!!いくよ?『イーリャンサンスーウーローチーパーキュウ』はい!」
和道を指さす蓮子。
和道「イーリャンサンスーウーロー…」
蓮子「イーリャンサンスーウーローチーパーキュウ!」
和道「イーリャン…」
蓮子「なんで減るの!?」
言えずにふるふると肩を震わせ出す和道。
和道の背中をさする蓮子。
和道「マージャン、ムズカシイ…」
蓮子「残念ながらまだ麻雀ですらないよ!!和道~!!」

ジュースを飲む2人。
和道「いやあこんなところで外国語の勉強になるとは思わなかった。」
蓮子「いや外国語ったって1~9の数字よ…?そもそも中国発祥のゲームなんだか当然出てくるでしょうよ…」
蓮子「とりあえず追い追い覚えていくとして今のところは筒子の5とかって呼びましょうか」
和道「それは助かる」

蓮子「じゃあ生き返ったところで再開するね」
蓮子「残りの7種類は字牌(じはい)。簡単に言えば文字が書いてあるやつね。」
和道がハッとする。
和道「…また中国語…?」
恐る恐る和道が言う。
蓮子「そうだけどほとんどそのままだから頑張って…!」

蓮子が字牌を手に取る。
蓮子「まずはこの4種類ね。風牌(フォンパイ)って言うんだけど」
東西南北と書かれた牌を指さす蓮子。警戒した目で恐る恐る尋ねる。和道「とうざいなん…ぼくだよな?」
蓮子「トンナンシャーペーだね」
和道「トンナンシャーペー…」
息を飲む蓮子。
和道「トンナンシャーペー、トンナンシャーペー…うん、これなら音で覚えられるな」
ホッとする蓮子。
和道「あと風牌ってのがちょっとかっこいい。」
蓮子「…そう?」

和道「ほんであとは?」
蓮子「あとは三元牌(さんげんぱい)」
蓮子が3つの牌を出す。
蓮子「ハクハツチュンだよ。」

和道「…こいつか」
白牌を恨めしそうに見る和道。
蓮子「?」
和道「發と中はわかったけどよ…これが白ってのが納得いかん!!なんも書いてねぇじゃん!!書けよ!!白って!!字牌だろうが!!」
蓮子「知らないよ!何?「これ予備?」とか言って笑われでもしたの?」
和道「キッショ!!なんでわかんだよ!!!」
蓮子「そんなテンションで言うセリフじゃないでしょ。いや…ほらこの『麻雀素人がやらかす!爆笑ミス10選』ってのに書いてあるから。」スマホの画面を指す。
和道「そんなクソみてぇな記事読んでんじゃねぇよ!!」

蓮子「確かになんで何も書いてないんだろうね。」
スマホを操作する蓮子。
和道「ただの手抜きだろ」
蓮子「えーと。『白牌 何も書かれていない理由』っと」
蓮子がスマホをすいすいと操作する。
蓮子「あーだめだ諸説あるっぽいね。『白牌 由来』…」

検索した蓮子が驚いて顔を赤らめる。
和道「なんだよ?どうした?」
画面を覗き込む和道。
和道「えーとなになに?白牌は正式名称を『パイ…
蓮子「読むなバカ最低!!」
和道の横っ面をビンタする蓮子。
蓮子「うえーん!!和道の変態!!」
蓮子泣きながら部屋を飛び出す。
和道「えー…」

『のちに理由を知った和道は「麻雀って金の話としょうもない下ネタばっかだな…だからおっさんの趣味って思われてんじゃねぇの」と至極真っ当な事を考えたが、そんなことを言うと燈に嫌われそうなので心のうちに留めておくことにした。』

(第2話 了)

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