『憧れのお姉さんは麻雀がお好き』第1話

あらすじ


田舎で暮らす男子小学生の十日谷和道(とうかやかずみち)。
ゲームは好きだが大人たちが遊んでいる麻雀はおっさん臭くて嫌いだった。
小5の夏休み、お隣の家の大学3年生のお姉さんが帰省してくる。夏休みいっぱいこっちに帰ってきているとのことだった。お姉さんに憧れている和道は緊張しながらも心から喜ぶ。
家族ぐるみでの付き合いがある両家があつまり、宴会を開いていると、和道の祖父が麻雀をしようと提案し出す。始まったよ…と呆れる和道だったが、なんと憧れのお姉さんが嬉々として参加し出した。和道は憧れのお姉さんと麻雀を遊ぶべく麻雀を学び始めるのだった。


概要

「コロナ禍で麻雀を覚えました」そんな声を結構な数聞きました。Mリーグも盛り上がりをみせ、麻雀という文化が一般的になってきたにも関わらず、麻雀を学べる環境は相変わらず少なく、趣味としてのハードルは高い。本作は、そんな読者のための“0から麻雀を学べる漫画”です。


本文

『憧れのお姉さんは麻雀がお好き』

田舎町夏の風景。7月1日。蝉の声が響く。
『小学5年生の夏 世界は楽しい事に溢れていて』
ランドセルを置いてゲームを手に家を飛び出す主人公。

奥に座っている祖父が叫ぶ。
祖父「おーい和道(カズミチ)たまには一緒にやらんか?」「麻雀!」

振り返る和道。
和道「やんねーよ!そんなおっさんの遊び!」
『そんな古臭いゲームに興味なんてなかった』
家を飛び出していく和道。

タイトル『憧れのお姉さんは麻雀がお好き』

公園の前、子供用の自転車が複数停まっている。
その中の木でできた休憩スペースで駄菓子を食べながらゲームをする少年たち(和道+友人3人)。

友人1「麻雀?」
和道「おお、今日もじじいが誘ってきてさ。」
友人2「うちの親父もたまにやってるな。かっちゃんできんの?」
和道「いやー毎晩母さんと父さんとジジイが3人でやってるの端で見てるくらい。ルールはわかんね。」
友人3「麻雀って3人だっけ?4人じゃなかった?」
和道「どうだろ…わかんね…あ、やべ死にそう」
和道のキャラが弾け飛ぶ。
和道「あー」

友人1「かっちゃん1人で突っ込みすぎなんだよ。もうちょい足並み揃えようぜ」
友人2「敵の位置とか見てる?」
友人3「あと武器な。射程考えないと。何で中射程の武器で距離詰めちゃうの?死ぬの?」
和道「いやでもやられっぱなしだとムカつくじゃん」
友人3(画面を覗き込む)「うわっデス数すご」
友人1「熱くなったら負けだよゲームは」
友人2「あとエイムがな…」

言われっぱなしの和道。徐々にふるふると震え出す。
和道「うがーーーー!!!」
叫びながら3人をしばく和道(チョップ、頬を引っ張る、腕ひしぎ)
和道「下手ですみませんでした!!」
和道「でも初心者なんでもう少し丁寧に教えてくれませんかね!!!」
友人1、2、3(キレながら謝ってる…)

友人1「まぁまぁもう直ぐ夏休みだしさ ガンガン練習できるじゃん」
和道「ああ、悪い。俺夏休みは厳しいかも」
友人3「ええ!!?何で??」
和道「ちょっと東京に行くんだよ」
少し誇らしげな和道。
友人3「えー!いいなぁ!旅行!!?」
和道「いやまぁ…ちょっとな。1人で」
友人1、2「………」
友人1「和道が東京ってことはあれだよな。」
友人2「ああ、どうせあれだろ。」
小声でヒソヒソ話す友人1と2。
友人1と2の方に向き直る和道。
1と2がにやりと嫌な笑顔を浮かべる。

友人1、2「このストーカー野郎。」
和道「何だとコラァ!!!」
キレる和道。2人を追いかける。
ふざけながら追いかけ合う4人。だんだん笑顔になっていく。
放置されたゲームと食べかけのお菓子。

時間経過。
夕暮れ時、チャイムが鳴る。
遊び倒して全員ドロドロの少年たち。
友人1「とにかく夏休みになったら修行だからな!できる範囲で!」
友人2「4人でS+いくから!」
和道「わかったって。じゃあまた明日な。」
友人「おーまたな。」
友人たちと逆方向に自転車を漕ぎ始める和道。

田舎の風景を自転車に乗って帰る和道。
「かーずーみーちー!」
駅の前を通り過ぎるところで、大きな声が聞こえる。
自転車を停めるとツインテールの女の子が駆けてくる。
和道「おお、蓮子じゃんどうしたの?」
蓮子「塾。隣町の。さっき終わったの。そっちは?」
和道「公園でゲームしてた。」
蓮子「またー?毎日飽きないね。」
和道「そっちこそ勉強毎日飽きねぇな」
蓮子「勉強って飽きるとかじゃなくない…?私、中学受験するし仕方ないよ。」

隣を歩く蓮子のペースに合わせて自転車を押す和道。
蓮子「あ、そういえば隣町で和道んとこのおじいちゃん見たよ」
和道「じじいが?」
蓮子「うん。駅ビルの麻雀屋さん入ってってた」
蓮子「なんかコソコソしてたよ」
和道「またじじい勝手に…歳なんだからあんま出歩くなってのに」
蓮子「和道が遊んであげたらいいじゃん」
和道「やだよ。あんなんカッコ悪い。ルールもわかんねぇし」
蓮子「あたし教えてあげようか?」
和道「え、ルールわかんの?」
蓮子「まぁ少しだけ。」
和道「おっさんくせ」
蓮子殴る。
和道「いってぇ!」

和道「ところで蓮子、最近燈ねぇと連絡取ってるか?」
もじもじしながら和道が尋ねる。
蓮子「お姉ちゃん?昨日電話したよ?」
和道「けっ!!これだから妹はよ!!」
蓮子「まだお姉ちゃんのこと好きなの?」
和道「いいだろ別に!俺が燈ねぇを幸せにすんだよ!」
和道「だから夏休み東京に会いに行こうと思っててよ。」
蓮子「うわっストーカー臭っ」
和道「なんて事言うんだお前。純愛だぞ。」
蓮子「犯罪者はみんなそう言うのよ」
蓮子「だいたい相手にされてないでしょう小学校5年生なんて。お姉ちゃん今21だよ?」
和道「歳の差なんて関係ねぇ!」
拳を固め、フンと鼻息を鳴らす和道と呆れ果てた蓮子。

蓮子「ていうか…」
蓮子「今年の夏お姉ちゃん帰ってくるよ?」
和道「……」
飲み込めずに沈黙する和道。
和道「早く言えや!…ウッソまじ?」
蓮子「うん。夏休み丸々。」
和道、天へと昇るような恍惚とした表情。

蓮子「…大丈夫?」
和道「で、いつ帰ってくんの??」
蓮子「確か今日。」
和道「何ィ!?こうしちゃいられねぇ!!」
慌てて自転車に飛び乗る和道。
蓮子、和道の自転車の後ろに乗る。
蓮子「ウチまで送って!」
和道「危ねぇ!」
蓮子「いいでしょお隣なんだし!」

わちゃわちゃしながらたどり着いた蓮子宅。
日は暮れ、カエルの鳴き声が響く。

和道「どこだ!!燈ねぇどこだ!!」
蓮子「うっさいな!夜には着くって言ってたよ!」
ちょうどその時前方から車が来て2人の前に停まる。
車の助手席のドアが開く。
和道、呆然として自転車を倒す。驚く蓮子。

助手席から現れた綺麗な女性。
和道「燈ねぇ!!」
和道が燈と呼ばれた女性の元に駆け寄る。
燈「和ちゃん」
和道「ちゃん付けやめてってば!」
燈「ごめんごめん。久しぶりだね和くん。」
無邪気そうに笑う燈。
和道「うん。でもなんで帰ってきたの?」
キラキラした目の和道。
燈「今年大学3年でね。来年から就活で忙しそうだから今年は夏休み丸々こっちにいることにしたの。」
和道「えーまじで!!?」
和道(燈ねぇと!夏休み!ずっと一緒!!!)
蓮子(めちゃくちゃ浮き足立ってるな和道(コイツ))

燈「蓮子ちゃんも久しぶり。」
蓮子「いや昨日も電話で話したでしょ。おかえりお姉ちゃん。」
燈「えへへーただいま」
蓮子の頭を撫でる燈と羨ましそうな和道。蓮子は煩わしそうな顔。

遠くから大声が響く。
祖父「燈ちゃんかーー!!?」
ちょうど帰宅した和道祖父。
燈「おじいちゃーん!久しぶりー!」
祖父「おー良く帰ってきたのぉ、燈ちゃん。また美人になって!!幾つになったのかの?」
燈「またまたおじいちゃんったら、今年で21です。」
和道(燈ねぇ嬉しそう、やるなじじい…)

祖父「そうかそうか…こないだまでランドセルを背負ってた燈ちゃんがのぉ…もうおさこも飲める歳か…今晩は予定はあるのかい?久しぶりじゃしみんなでうちに来るといい!」
和道の目がきらりと光る。
和道「それいい!!絶対来て!!」
燈「えーいいの?」
祖父「いいよな!登さん、草子さん」

車の中にいた燈の両親に祖父が話しかける。
祖父「お二人がくれば麻雀も4人でできる!」

麻雀という言葉にぴくりと反応する燈。その反応に疑問符を浮かべる蓮子。
和道(それが目的かじじい。でもナイスアシストだぜ。)

玄関から響く騒ぎ声。
既に出来上がってる両家。
(蓮子は早々に帰宅し寝ました。)
ジュースを飲みながら横目で燈の顔を見る。
酒を飲んでおり、顔を赤めて普段より艶っぽい。
顔を赤くする和道。

祖父「なぁ登さん。どうじゃ1局」
登「おじいちゃん、絶対1局じゃあ済まないでしょ。」
祖父「燈ちゃんは…ルール知らんかったよな」
和道「当たり前だろ!燈ねぇがそんなおっさんくさいの…」
急に話しかけられてキョトンとする燈。

燈「あたし…」
和道「燈ねぇこっちでSwichやろ!」
燈「あたしも麻雀やりたいです!!」

和道「…え?」
祖父「燈ちゃん麻雀できるようになったのか!!」
燈「うん。大学の友達に教えてもらったの。」
泣いている祖父。

和道「はい!!燈ねぇがやるなら俺もやる!!」
祖父「お前はルール知らんじゃろ。」
和道「わかるよ!じじいたちがやってたのたまに見てたから!」
祖父「そうか…じゃあ東風でワシと登さん、和歌子さん(和道母)、道雄(和道父)、燈ちゃん、和道で得点が1番低かった人が交代でええかのう。」
和道(??)

燈「はーい!」
和道「(燈が返事をしたのを見て)オッケー!」

卓を囲む祖父、燈、和道、登。
祖父「親は今日の主役の燈ちゃんでええかの。」
燈「えーありがとうございますー!」

和道(燈ねぇかわいい…じゃなかった。さてどうしたもんか十日谷和道…燈ねぇと遊びたくて混ざったはいいが当然ルールなんてミリもわからねぇ。これ何したらいいんだ?この目の前にあるのが俺の手持ちって感じだよな…)手持ちの牌を眺める和道。
和道(魔法陣みたいなやつ(筒子)と…これは、竹?(索子)あとは三…萬?なんて読むんだこれ(萬子))
和道(あと漢字のやつが西と北…と中…?)
そこで燈が声を上げる。
燈「じゃあ始めるね!」

牌を取る燈。少し迷って捨てる。
和道(なるほど…あそこからとって自分のとこから1個出すのか。まぁ前にじじいが「麻雀は運も大事」って言ってたしワンチャンビギナーズラックでボロ勝ちしちゃうかもしんねぇよな。そしたら燈ねぇも…ぐへへ)
和道が牌をとる。場が凍る。

和道(え…何?)
祖父「何やっとんじゃ和道。」
和道「え…何か違った?燈ねぇがとって次俺だよな?」
登「ああ!なるほど。和道くん、麻雀は反時計回りに牌をとって行くんだよ」
和道「なんで?」
祖父、登、燈その他((((…何で…?何でだ??))))

登「そういうもんだとしか…」
和道「わかりにくくない…?」
登「うん…まぁ…馴染みがないと…わかりにくいよね」
和道ふと燈の方を見る。

顔を背けて笑いを堪えている燈。
それを見て絶句する。
和道(笑われている…!)
ショックを受けている和道に気づく登。
登「まぁまぁ初めてだし…!」
祖父「そうじゃのー…まぁしょうがないじゃろ。和道、捨てるのはワシと登さんの後な。」
和道「…おう」
祖父が牌を取る。

祖父「!!!」
祖父、明らかに動揺した表情を見せる。
祖父「…リーチ」
登、燈「「え!!?」」
登「早すぎません!!?」
燈「おじいちゃん豪運~」
祖父「うへへへ」

和道(じじいのくせに燈ねぇといちゃいちゃしてんじゃねぇ…!!)
和道(リーチってことはまだ勝ちじゃねぇんだよな?こっから逆転勝ちしてやる!!)

登も同じように牌を取って捨てる。
祖父「ほれ、和道の番じゃぞ。」
和道「わかってるよ!!」
和道(…なんか捨てればいいんだよな…えーと…)
和道改めて自牌を見る。
和道(…?)
和道「ねぇこれ予備混ざってない?何も書いてないやつあるんだけど」
再び場が凍る。
燈が噴き出す。

燈「あはははは!!和くんそれ多分白牌だよ!予備じゃないよ!しょしんしゃあるあるだね~」
登(燈…結構酔ってるな)
涙を流しながら笑う燈。
顔を真っ赤にしている和道。
白牌を捨てる。
祖父「ロン。」

燈、登「「!!!」」
和道「?」
祖父、若干声が震えている。
祖父「すまんの和道。」
祖父が牌を倒す。

国士無双十三面待ち。
登「うっそぉ!!!!?」
和道「え、何?」
祖父「わしゃ明日死ぬかもしれん。」
和歌子「役満で32000点だからー7000点で和道飛んだわね」
和道「え?何?わかんないんだけど。」
和歌子「あんた、点数が0点以下になったから負けなのよ。」
和道「え、うっそ。こんなあっさり終わんの?」

和道「もう1回!もう1回やらせて!!ねぇ燈ねぇ!?」
燈「…おじいちゃんすっごい!!初めて見た!!」
歓喜の燈。ショックを受ける和道。

和歌子、和道を突き飛ばす。
和歌子「さぁ変わって変わって。」
和道「イッテェ!!」
惨めに転げる和道。
燈「和くん、ドンマイ♡今度はルール覚えてからやろうね。」
屈辱の和道。わなわなと震える。オロオロとフォローをしようとする登。

立ち上がる和道。
和道「夏休み中に麻雀できるようになってここにいる全員倒してやるからな!燈ねぇも!!」
半泣きになりながら部屋へとかけていく和道。

呆然とする部屋の面々と1人笑いながら「がんばれ~」と手を振る燈。

『小学5年生の夏休み』
『僕は古臭いと思っていたゲームに』
『少しずつのめり込んで行くことになる』

(1話 了)

2話

3話


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