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ドコモの新プラン報道発表資料が攻めてると思った話

少し前にプレスリリースを書く機会があり、初稿への広報の赤入れの仕方が、わかりやすさを優先した結果、専門性をないがしろにしているように見えて納得できず、何往復かして着地した。

たかが言葉、されど言葉。語や話す順番、ひらがなか漢字か。専門用語をどう砕くか。読み手の解釈は制御できないからこそ、書き手は極限まで言葉を研ぎすまさなければ、伝えることさえままならないと感じた。

で。そんなタイミングでドコモの新プランahamoの報道発表資料を読んだ。簡潔で強い意志。硬い文章なのに躍動している。最近読んだ文章の中でもダントツに印象深く、その記憶をここに留めておきたい。

プランの内容云々より、とにかく文章表現だ。

株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)は、ニューノーマル時代を切り開いていくデジタルネイティブ世代にフィットした、月間データ容量20GBを月額2,980円(税抜)でご利用いただける新たな料金プラン、「ahamo(アハモ)」を2021年3月に提供開始いたします。

これまでメインの顧客だった50-70代を冒頭から完全にシャットアウト。
良くも悪くもドコモらしかった全包囲的な戦法、つまりこれが結果として「細かいことはよくわからないが金はあるのでとりあえず払う」というサイクルと比較的高齢のユーザー層を形成したのだが、その戦法を捨てた。
自分たちが獲得できていないユーザー層を明示し、弱みを白日の元にさらけ出した導入部。必要なことしか書いていないからこそ、読み手は書かれていない背景の広さと深さと闇へ思いを巡らせる。つかみのお手本だ。

ahamoは料金やサービス内容について、しっかり納得してご契約いただくことをめざした料金プランです。そうしたコンセプトに基づき、新規契約事務手数料やMNP転出手数料、細かい割引の条件などを極力なくしたシンプルな料金プランといたしました。
また、ahamoは実店舗ではなく、オンラインで受付いたします。

ショップでお勧めらしいプリインアプリを入れられ、月末に退会することなど忘れているので知らぬ間に月課金が始まる。というモデルによりこれまで相当チャリンチャリンしてきただろうに、デジタルネイティブ世代に同じ手は通用しないことをこの十数年で痛感した結果、若干自己否定的な背景も垣間見える表現が選ばれた。何ポイントかわからない極小サイズの文字が長々と並ぶプラン説明を、ショップの方がアナウンサーのように流暢な早口で儀式のようにしゃべることは、シンプルではないのだ。
そしてチャリンチャリンモデルの拠点であるショップを捨てた。つまり、ショップにやって来る50-70代の皆様はお呼びではないという意思表示。導入部に続いて早くも2回めの主張である。
また、「ターゲットの行動様式に合わせる」形式が新しい。デジタルネイティブ世代(を含むドコモユーザーにいない層の人々)の日常的な手続きや活動の一部がオンラインで完結していることを理解した上での歩み寄りは、「サービスやコンテンツを出せばユーザーは使うだろう」というこれまでの姿勢とは明らかに異なり、今の時代に当然求められる手法をほぼ初めてとったのではないか。

---中略
受付拠点や提供サービスの絞込みをおこなうことで効率化を図り、これらのサービスを月額2,980円(税抜)でご提供します。

とうとう言ってしまった。顧客タッチポイントとしてショップを重視していたにも関わらず、そこのコストが高かったことが透けてというか完全に見えている。見せている、が正しいのか。
既存ビジネスモデルの否定であり、ここから脱却したいからついてきてくれという懇願にも見える。
そして金額に目を輝かせてショップにやって来るであろう50-70代を完全にシャットアウトする力強い3回めの主張。

短い文章量でも読み手の想像力をかき立てることができる、いい文章の例だと思う。特に、新しいターゲットを明示することで、「既存のお客様にはこれからも顧客でいてほしいと思っているが今回のプランの主要顧客ではない」ことを伝える書き方は、日常のコミュニケーションにも使えると感じた。
在宅勤務を含む働き方は、コミュニケーションの文字化を加速させている。ニュアンスや顔色を察知してもらう代わりに、伝えたいことを適切に文字化できることがコミュニケーションスキルとして重視される。Slackのスタンプだけで会話は成り立たないのだ。

改めてこれを書ける人がいるドコモはすごいなと、携帯電話を持った時からドコモ歴22年の私は思い、早速先行エントリーした。

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