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PICRC 〜国際サンゴ礁センター〜

1日目は島で唯一の水族館PICRC(ピクルック・国際サンゴ礁センターの一部)へ。ここは一見普通の水族館のようだけれど、実は日本の水族館とは少し違っている。そもそも国際サンゴ礁センターは日本の無償資金協力によって2001年に調査目的として設立された研究施設なのだ。その一部を水族館にしたのは地元の子どもたちが海を守れるように海について学べる場所にしたかったから。娯楽施設ではなく、未来の海を守るために建てられた施設なのだ。

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国際サンゴ礁センターという名の通り、もともとはサンゴ礁を守る目的で建てられたこのセンター。では、サンゴ礁はどのような原因で壊れてしまうのか。酸素濃度や、台風、魚のとりすぎなど色々な要因が挙げられるが、やはり大きな問題は水温の上昇。

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サンゴは褐虫藻を体に共生させその光合成生産物をエネルギーにしているけれど、水温が上昇するなどの環境ストレスによって褐虫藻の光合成系が損傷されると、サンゴが褐虫藻を放出し、白化してしまう。環境が回復すれば再び褐虫藻を獲得してサンゴは健全な状態に戻るけれど、環境が回復せず白化が長く続くとサンゴは死んでしまう。その回復までに要する期間がパラオのサンゴ礁では9〜12年。2050年以降はそれが元に戻る時間が取れず毎年白化するだろうと言われているのだそう。だからこそサンゴを守るために今、何をすべきなのかをこのセンターでは発信し続けている。

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パラオでは海の生きものを守るために旅行者であっても天然成分のみで作られた日焼け止め以外は使うことができない。国内で販売されている日焼け止めももちろん天然成分100%のものだけだ。もっともパラオの女性に聞いたら「そもそも日焼け止めは塗らないわ。」と言っていたけれど。「それよりもココナッツオイルの保湿が良いわよ!」とニコッと笑った笑顔があまりにも素敵で、翌日すぐにココナッツオイルを買ってしまった。

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このPICRCは三重県の鳥羽水族館と友好協定を結んでいる。写真真ん中はPICRCのイムナン・ゴルブーCEO(左)と鳥羽水族館の奥出館長(右)。この面会の様子は後日パラオの新聞にも写真付きで掲載された。

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そしてその鳥羽水族館からJICA海外協力隊(民間連携)シニア隊員としてPICRCに赴任していた(現在はコロナの影響により一時帰国中)のが、杉本幹さんだ。

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もともと研究施設だったこともあって説明書きはしっかりしているけれど、展示の「見せ方」に関しては国内に他に水族館はないので参考にするものものなく、そのあたりのアドバイスをするのが杉本さんの役割だ。

例えばこの水槽。砂と同化して体が見えづらい魚の水槽なのだけど、杉本さんが来る前は普通の水槽の中で魚は体がバレバレの状態だったのだとか。それをより魚の色に近い砂を置くことでいかに擬態が上手なのかをわかりやすくしたそう。

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そしてとってもこの仲良しな2匹のウミガメ。名前はなんていうの?と聞くと「ウミガメ」という返事。日本では水族館の動物に名前がついていることが多いけれど、ここではそんなアイデアは全くなかった。でも名前がついていることによってお客さんは愛着がわき、「ゴリラのシャバーニに!ジュゴンのセレナに!会いに行こう」となったりするもの。こんな良いキャラのウミガメなら尚のこと人気者になるだろう。ということで、名前の募集も始まっていた。

それにしてもウミガメを見る館長の楽しそうな顔。癒し・・。

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聞けば聞くほど、これまで何気なく見ていた日本の水族館には実はたくさんの工夫やアイデアが詰まっていたことに気付く。解説が置かれている場所も、明るさも何もかも考え尽くされていたのだ。

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ちなみに鳥羽水族館にいるパラオオウムガイは全てここから来たもの。

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ドンキホーテにある水槽の魚もパラオから来ているのだとか。

DSCF6643のコピー

そしてこの水族館にいる魚たちは全て職員さんたちが海に潜って1匹1匹とってきたものなのだそう。何種類、何匹というデータがなかったので、杉本さんは目視で数えたという。

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そんなアイデアあふれる杉本さんだったけれど「まだ実はあまり口を出さずにいるんです」という配慮もとても印象に残った。現地のスタッフにはそれぞれの考えや誇りがあるので、こちらがこうした方が良い!と押し付けることはせず、「ここどうしたらいいかな?」と聞かれ時に「これはどう?」と提案できるアイデアをたくさん持って機会を待っているのだ。そういう人間関係を築くコミュニケーション能力もさすがシニア隊員だ。

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より魅力的になった水族館は子どもたちの気持ちをこれまで以上に惹きつけることだろう。そして海の生き物について知り、より好きになった子どもたちの行動もまたきっと変わってくるのだろう。

水族館で聞いたプレゼンの最後に出てきた言葉がとても心に残っている。

The great aim of education is not knowledge but action.
(教育の目的は知識を得るということではなく、行動を起こすことだ)
                                                                                      -Herbert Spencer-

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ちなみに取材が終わった後に話していて、なんと杉本さんは魚好きな息子の愛読書の著者であったことが判明。

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世界は広いようで思っていたより狭いのかもしれない。

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