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葬儀後に笑う葬儀屋の従業員

何年前でしょうか。
まだ私が制服を着ていたころですから、4,5年前。
遠縁にあたる人の葬式に出席した時の話です。

葬儀は粛々と行われていました。
泣いている遺族もおらず、穏やかな雰囲気でした。

しかし、一人涙を流した人がいました。
葬儀屋の従業員である男性です。
葬儀の最終場面、棺を霊柩車に移動させる彼が
「では、運ばせていただきます。」
と泣きながら言ったのです。
そして、運びながらすすり声をあげていました。

私は、ちょっと大げさだな、と思いながらも、遺族と同じように悲しんでくれているというところに少し好感が持てました。

葬儀終了後、私は火葬場について行くほどの近縁でもなかったため、火葬場までいく霊柩車を見送っておしまいです。

ロビーに残ったのは、私たち家族ぐらいでした。
そこで、ロビーの壁に故人の方の略歴の大きいポスターが貼られてあったので、家族と眺めていました。

すると、
あっはっはっは
と、どでかい笑い声がロビー中に響き渡りました。

何事!?と思い、声のする方を振り向くと、
なななんと、葬儀屋の従業員二人でした。
そのうちの一人は、なんとさっき涙をこぼしながら、かすれた声で、
「では、運ばせていただきます。」
と言った中年太りの男性でした。

私は、あっけにとられました。

私たちがまだ、葬式場に残っているとは思わなかったのでしょう。
彼は、私たちに気づくとはっとして口をつぐみました。
私たちに気づいた時のリアクションと言ったら、もうすごい表情でしたよ。「やっちまったー」とか「え゛」とか「なぜっ」とかいろいろな感情が入り混じっていました。

隣にいた葬儀の司会をしていた女性は、笑いをこらえるように目を細めていました。
そして何事もなかったように涼しい顔で私たちの横を通り過ぎ、奥にあった従業員扉に、逃げるように入っていった男性とは反対に、私たちに一礼して入っていきました。

あ→あ↘あ↗仮面がはがれたなって感じでした。
正直、この葬儀屋の葬式中と式後のギャップには驚きました。
これが、葬儀屋の裏の顔なのか、と。
やはり悲しいという演技をしただけだったのだな、と。
不覚にも「いい人」だと思った自分を反省しました。

私は、故人とあまり深い中ではなかったため、怒りは生まれませんでしたが。少しがっかり、というか。
葬儀屋の人たちは、ちゃんと私たち遺族に寄り添う同情してくれるような存在だと、なんとなく思い込んでいた分、ショックでした。
近縁の方が見ていたらもっとショックを受けたでしょうが。

しかし、考えてみると、知り合いでもない人の死を悲しめるなんて逆に怖いです。
この出来事から私は葬儀屋の人たちは、普通に仕事でやってんだよなと割り切って考えるようになりました。
仕事がひと段落ついて、従業員同士の談笑なんてあって当たり前です。
どんな気持ちで赤の他人の葬式に参加しているのだろうか、という疑問を持ったことがありますが、お金が発生するのに、情もくそもありません。
葬儀屋が一緒に悲しんでいるアピールをするのはどうかと思いますが。
期待した私が間違っていました。

ところで、接客業をしている人が、普段どのようなプライベートを過ごしているのかとか、仕事じゃなかったらどのように人に接しているのかとか、気になるものです。
仕事で、めちゃくちゃ客を丁寧に扱っている人ほど、裏の顔を見てみたい。
猫をかぶっている人ほど闇が深そうという偏見も相まって。

しかし葬儀屋も働いていくと、死人を見すぎて頭がおかしくなってしまうのでしょうか。
霊きゅう車を見送った直後にあんなに大声で笑えるとは。
びっくりでした、ちゃんちゃん。



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