トヤマイゴ(6) 黒部ダムにて
ついにあの黒部ダムに到着した。ダムの堰堤を歩く。天気はすっかり良くなっていて、迫力あるダムの放水には虹。
ほんとうに大きな、そしてほんとうに美しいダムである。このダムがくらしの電力を生んでいるのだ。
さて、堰堤を渡りきったところには黒部ダム駅がある。ここでわたしは逡巡した。この黒部ダム駅から長野県の扇沢までは関電トンネルとなっていて、トロリーバスが走っている。小説「黒部の太陽」の主な舞台となったのはこのトンネルである。
まさに今わたしがいる黒部第4ダムの建設工事の資材を運ぶために掘られたトンネル。掘ってみたらば途中で立山の湧水がじゃんじゃん出てきてしまって工事が一時頓挫したいわくつきのトンネルである。黒部の太陽かぶれのわたしは、どうしてもこの関電トンネルを通りたくてしょうがない。数多くの人夫の行く手を阻み、飲み込んだ破砕帯はまさにこのトンネルの中にあるのだ。行きたい。
でも残り時間はあまりない。せっかくならダムもじっくり見たいし・・・。どうしよう。
ええい、今度いつ来れるかわからんし、乗っちゃえ乗っちゃえ!
ときっぷ売場へ直行、扇沢行きのきっぷを購入しようとしたところ、窓口のおねーさんに不思議な顔をされてしまった。普通、ここから扇沢へ向かう人は、その後長野へ抜けるのが目的なので扇沢から先のきっぷも買うわけだ。そして扇沢自体は特別何かがあるという場所でもないので、あからさまに「この人なんで扇沢?」といぶかしげな表情である。わたしは扇沢へ行って、またこっちへ戻ってくる。トンネルを通ることが目的なのだ。双方はきっといつまでも分かり合うことはできないだろう。
そんなこんなで関電トロリーに乗車。
走行中に県境を越え、長野県に入る。北海道に住んでいると、この「県境越え」というのがカンタンにはできないので感慨深い。そして、関電トンネル内にある破砕帯を通る。
立山トンネルと同じく、破砕帯の区間は青いライトで照らされている。きっとこんなところに心打たれているのはわたしだけだろうな。
扇沢に着き、またすぐにトロリーに乗ってダムに戻る。滞在時間ちょびっと。さらば扇沢。焦って行動したせいか、ダムに戻ってみたら少し時間に余裕があることがわかったので散策をする。食事をするような時間の余裕はなかったので、たまたまやっていた特別展を見て、ダムをいろんな角度から拝み、名物ハサイダーを飲む。
復路のケーブルカーへ。なぜかケーブルカーの次に乗るロープウェイの整理券を渡される。48番。
これは先着順に番号をふってあるものじゃなくて、この番号のロープウェイに乗ってください、ということらしい。またいろんな乗り物を乗り継いで時間をかけて富山まで戻る。普通ならうんざりするところだが、あまりに特異な体験なのでテンションは上がりっぱなしだ。飽きない。12時20分、黒部湖ケーブルカーに乗ってダムを離れた。
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