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家を買う(20) 絶望しかない新しい暮らし

 お金をかけて、いろいろ考えて造り上げた「我が家」、引っ越したばかりの頃はここが自分の家なのだという実感が沸かなかったものの、数ヵ月もするとすっかり慣れてしまった。壁紙やら照明やらいろいろこだわったけど、それ見てテンション上がってたのは最初のうちだけ。すぐ見慣れてあたりまえになっちゃった。

 もちろん、できる限り自分が気に入るように、使いやすいようにしたのだから居心地はいい。収納がいっぱいあるから部屋の中がごちゃごちゃせずにスッキリするし、キッチンもお風呂もきれいで広くて使いやすいし、タイル貼りにしたキッチンの壁も、アクセントクロスを貼った部屋もみんな気に入ってる。

 慣れちゃったらときめきが薄れるのは残念なことだけど、しみじみ気に入ってはいる。

 ただしこの住戸に関しては。このドアの外に出なければ。

 上の階からの生活音に悩まされるようになるのに長くはかからなかった。ペット禁止のマンションなのに、犬の吠える声が複数の場所から聞こえた。総会ってやつに出席したら、理事会対古参オーナー軍団のかなり激しい罵り合いを目の当たりにしてしまった。不審人物がロビーの辺りをうろうろしているのを見てしまった。

 部屋から一歩外に出ると、そこは無法地帯だった。分譲マンションに住む人は、賃貸マンションに住む人と比べずっと常識的だとどうして思っていたんだろう。

 そのハコが借り物であれ持ち物であれ、住む人の質にたいして変わりはなかったのだ。これならむしろハズレが多いとわかりきっている賃貸に住み続けたほうがずっとよかった。1000万を超えるお金をつきこんでわたしが手に入れたのは、日々のイライラと将来の不安だった。

 悔しいし悲しいけれど、わたしはこの買い物、大失敗だったのだ。もちろん失敗したからといってすぐに出ていかれない。ローンはほとんど残っていて、一括で返せるほどの蓄えなんてない。

 売却しようにも、この部屋にかけたお金を相殺できるような値が付くわけないと思っている。リノベーションしたから高く売れるってことはない。マンションの価値はあくまでどこに建っていて、築何年で、管理はきちんとしてるのかという基準でつくものだと思う。

 賃貸に出すことも無理。抵当権はローンを組んだ銀行にあり、わたしは厳密に言えばまだこのマンションの持ち主ではない。ローンの支払いが滞れば銀行に住まいを持ってかれるわけ。自分の持ち物でもないのに他人に貸せないわけよ。だいたい、貸せるようになったとしたって、こんな環境のマンション、借り手もつかないよ。

 結論、わたしはここを買ったことを激しく後悔していて、今すぐに出ていきたいところだけどそれも叶わないので、目下ローンの繰り上げ返済をゴリゴリ頑張って手放すタイミングを図っているところだ。

 マンション購入からリノベーションの完了までは夢中で見えなかったけど、あとになって、「あの時こうしていれば」ってことがたくさん出てきたので、ここから先はそのたくさんの失敗を1個ずつ掘り下げていこうと思う。

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