君が笑うなら。

格安ケータイが大量に出回り
頻繁に機種変更ができた頃。

君の押しに負ける形で
僕たちは付き合い始めた。

すぐ、不安になる君を安心させるために
長電話ができるケータイを買い足した。

そういえば、当時は彼氏彼女との連絡用に
あるキャリアのケータイを持つことが
流行っていたっけ?
だから、流行に乗ったとも言える。

夜になると不安になる君
夜中によく電話したね。
今では、笑える話だけど
しょっちゅう君に怒られた。
ある時は、通話中に僕が寝てしまって
ある時は、通話中に君が寝たから切ったのに
「どうして切るの?」って。
理不尽すぎるよ。

今思うと、
仕事が忙しくて会えない日が続いたこと。
そして、会えないことを正当化していたこと。
これが、不安にさせていたのかな?

ほぼ毎日ある夜中の電話が
僕にとって義務になりつつある頃。
君は言った。
「最近、たまに元カレに会ってるんだ。」
「そっか。」
言えるということは、
やましい事がないんだろうな
という思いと
寂しい思いをさせている
という負い目から
それ以上、詮索しなかった。

それからしばらく経ち
電話が鳴った。
時刻を見ると
もうすぐ日付が変わる。
出ることによる睡眠時間削減リスク
出ないことによる機嫌を損ねるリスク
この二つを素早く天秤にかけた結果
僕は電話に出る方を選んだ。

「もしもし」
いつもより不安感のある君の声
「もしもし。何かあった?」
答える僕。
「話したいことがあるの」
「んー?どうしたの?」
ああ。今日は愚痴を聞かされるのか、、、
と、腹をくくる僕。
「あのね、、、元カレのところに戻っていいかな?」
一瞬にして、思考回路がフリーズした。
何とか再起動をした僕は
提案を受け入れることにした。
寂しい思いをさせている
という負い目があったから。
「うん。わかった。お幸せに」
「ありがとう。あなたも幸せになってね」
もう、理不尽でしかないよ。

それから数年、
連絡を取ることはなかった。

そんなある日
スマホにメッセージが来た。
「久しぶり。元気?」
何度かのやりとりの後
久しぶりに会うことになった。

仕事帰り、
待ち合わせ場所に向かうと
君が居た。
相変わらず綺麗だ。
本人には絶対に言わないけれど。
「変わらないね」
「互いにね」
そんなやりとりから始まり、
僕たちはたくさんの会話をした。
そして、ずっと笑いあっていた。
多分、付き合っていた頃よりも。

そろそろお開きに、、、
という頃合いになった時、君は言った。
「実はさ、結婚して子どもが出来て…だけど別れたんだ。」
情報量の多さとインパクトに
僕は再びフリーズした。
再起動した僕は
「ああ。そうなんだ。」
と、言葉を捻り出す事が精一杯だった。

元旦那が例の元カレということ
子どもがかわいいということ
話したいだけ話した君は
「今は子どもとの時間を大切にしたい、だから恋愛とか結婚は考えていない。」
と、締めくくった。

別れ際、
「また、会おうよ。連絡する。」
と、言い残し、君は颯爽と
人混みへと消えていった。
君に振り回されっぱなしで
呆然とする僕を残して。
やっぱり理不尽だ。

けど、
君が笑顔になれるなら
君が必要としてくれるなら
もう少しだけ付き合うよ。
君の理不尽に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?