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隣に座ったおばちゃんが話してくれた唐川菩薩のおはなし

プロ野球開幕だぁ!便乗してWEBサイト開けるぞ!!
と、意気込んで自分のサイトを開いて早4ヶ月。
その後大した変更もなしに、私は一体何をしているんだと振り返りながら、反省してみる。
そして今日からプロ野球はオールスターを終えて後半戦に突入ですよ。早い。

だから、ってnoteをはじめてみたのである。ホントはちゃんと、もっと自分で文章を書ける場所を作るつもりだったのである。
でもなかなか、ぐずぐずしてしまったのである。
こうして野球に背中を押してもらうのも謎だけど、まあ好きっていうのはそういうことですよね。
そもそも全然知らない人=選手に肩入れして応援してしまうってのも、不思議です。

思い出すのは、Mのロゴの帽子をかぶっている私に、隣に座ったおばちゃんが「あなたもマリーンズが好きなの」と話しかけてくれたときに聞いた唐川菩薩のおはなし…

「数年前、私は友達と野球をみ始めたの。友達が千葉に住んでいたので、なんとなく誘って、シーズン中、何度かマリンスタジアムに行って試合をみるうちにだんだんマリーンズというチームが好きになっていた。
秋になって、私は友達にマリーンズのキャンプに誘われたの。マリーンズは千葉の南のほうにある鴨川というところで秋季キャンプをしていたので、私は東京駅からバスに乗って向かうことにした。自分で車を運転して途中眠くなったりしてしまってはいけないと思ったから。

その頃私は本当に『疲れて』いたんです。毎日怒鳴り声が響く職場で、一緒に働いていた人は次々に辞めていった。辞めていった人は、ターゲットにされるみたいに、私や周りの人から見ても全く意味がわからない変な理由をつけて怒鳴られるようになって、それは次第にエスカレートしていった。『おかしい』、『納得できない』っていつ言おう、いう時はやめる時なんだな、なんて思っていた。でも仕事は山のようにあって、区切りがつくまではこなさないといけないって思っていたから、すぐにはできなかったんです。私は毎日毎日、ずっと重い気持ちを持ち運んでいた。鴨川へ向かったのはそんな日々の中の一日だったんです。

海を渡り、山を越えて、バスはグラウンドへ向かっていく。2時間くらい乗っていたのかな。私は鴨川の市街地の手前のバス停で降りた。周りは畑だったような気がするけれど、少し歩いたところにグラウンドはあった。
入っていくと、ちょうど午前中の練習が終わったところだった。遠くに見えていた選手がこちらのクラブハウスに戻ってくる。
するとその選手にファンがいっぱい群がった。サインをもらっていた。
ちょうどそのとき、友達が到着したの。『私もサインもらう!』そう言って、帽子を持って列に並んだ。その選手はゆっくりとひとりひとりにサインを書いていた。唐川選手だった。そして友達の帽子にサインを書く番になった。差し出したペンで書くけれど、黒い帽子であんまり色がつかなくて、『見えるかな?大丈夫ですか』。そういって唐川選手は友達にペンを返した。
なんて穏やかで、親切な人なんだろう。私はこんなに並んでいるファン一人一人に向き合うスターにびっくりしたんです。
そしたら友達がね、『あなたもサインもらったら?』って言うんです。
えっ私も!?
何だかね、その頃本当に、疲れすぎていて『自分』ていうものを忘れていたのかもしれない、と今となっては思うんです。
『私も…いいのかな…』。そんなことを言って、私も列に並びました。
少しして、私の番になった時、私は『お願いします』ってノートを差し出した。そしたら、『右左、どっちに書きましょう?』そう言ったの。どっちでもよかったよね。でも私はこっちで、と右のページを差した。唐川選手はさらさらとサインを書いてくれたんです。
それだけ、といえば本当にそれだけなんだけれど、私はファンの列から抜けたところで、こどもみたいにやった〜!ってちょっと踊っちゃった。だって、サイン書くのに左右どっちのページに書く、なんて会話ができるって本当に素敵な人だと思わない?

その日、帰りのバスは事故渋滞に巻き込まれて5時間くらいかかってやっと東京駅に着きました。
でもね、そのノートを持つとぱららーんと私の周りの空気は明るくなった。それまで毎日ずっと持っていた重たい気持ちがすっと消えた。次の日からまた仕事なんだけどね。でもその日、そのときのことが忘れられないんです。だからこっそり『唐川菩薩』って呼んでるの。へへ。
ちゃんとその会社は辞めました。感情で他人をどうにかしようとするような、話しても理解ができない人とは無理につき合わなくていいんじゃないか、別の場所で頑張ったらいいんじゃないかと思えるようになったのは、その日、唐川選手に元気をもらったおかげかもしれないのよ。」

おばちゃんは笑って、「優勝、みたいわね」と言って手を振って電車を降りていった。

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