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環境が人を変化させるのだなあ。兄妹の対話にて

私には兄がいる。
兄も私も、実家のある大阪から離れて、上京している。

会おうと思えば、すぐ会える距離なのに
お互いの近況は、大阪の母の話経由でしか、知ることがなかった。
連絡をとりあっていなかった。

別に嫌いだとかそういうわけではなく、
用がなかっただけというか、
もともとすごく仲良くしているわけでもなかったし、
連絡する機会がなかったというか。

年一回くらい、帰省のタイミングでお互い生存確認できればそれでいいか。みたいな。

就職で上京するときは、
まあ、何かあれば、兄ちゃん頼ればいっか。
そんな気持ちの保険があったせいか、
あまり不安を感じず、好奇心のまま上京生活をはじめた。

そして、そのまま
その何かが起こることもなく、はや6年以上もたっていた。

もちろん、なにもかもが順調だったわけではないし、悩むこともあったし、やらかして凹んだこともあった。
そういうときは身近な友人たちに頼ったり、電話で両親に話したりして発散させていた。
誰かを頼る、その選択肢に兄を頼ることが浮かばなかった。
そして、兄のほうからも妹を気に掛けるという様子もなかった。

それに兄妹手をとりあって何かを乗り越えるという窮地に陥ったこともない。
兄は兄で、自身の生活を歩んでいるようだったし
私は私で、自由な生活を謳歌していた。
互いに元気ならまあ、それでいいんちゃう?

全然干渉しあわない
実にドライだった。

そのあまりにもドライな兄妹関係を見るにつけ
両親は、心配をして
近くにいるんやから、仲良くしいやなんてこと言っていた。

まあ、言わんとしていることはわかるけど、
連絡するきっかけやら口実やらないしなあなんて思っていた。


それが、最近になって、連絡を取り合うようになった。

最初のきっかけは、私が救急車を呼んだことだった。人生初だった。
結果、大事には至らなかったのだけど
体調不良が今まで経験したことのない尋常な状態だったので、一人暮らしで誰にもきづかれることもなく倒れるまえにと不安になって呼んだのだ。

家族をということで、呼ばれたのが兄だった。

早朝に連絡がきたとおもったら、
救急車ということで兄もビビったらしい。

お医者さんに見てもらって、
特別緊急性を帯びるものではないということだったのだけど、いろいろと検査することになり、その合間の時間付き添ってもらった。
妹は体の違和感と、もし変な病気だったらどうしよう?と不安にさいなまれているのを、兄は横で静かに寄り添ってくれていた。

喫茶店でふたりでいろいろ待っているとき
上手くいかない仕事の人間関係のこと、帰省タイミングで親とぎくしゃくしてしまったこと、その他将来の漠然とした不安のこと
ポツリポツリと話しているうちに、涙がこぼれていた。
これは、けんかじゃないけど
幼いころ、兄妹げんかで、妹の私が勝手にピーピー泣いていたことをぼんやりと思い出した。
そして、少し安心した。
私はもともと泣き虫だった。

そういう不安やらストレスやらが、体調にあらわれてしまっただけのようで、深刻な病気でもなかった。
でもこれは重要なシグナルだなと思った。
今まで、少々の困難やら負荷があっても前向きに、気丈にふるまってきていた。大人になってからはそれが顕著だ。
気丈なふるまいな分、無理をしている部分も往々にしてあるのだろう。
こうやって、シグナルは現れ、見直せと言っているのだろう。
それをきっかけに、私は今の生活のあり方なんかを見直すようになった。

兄も、それまであまり妹を気にはかけていなかったのが、些細な連絡を寄こすようになった。
そして、私は近くに兄がいる心強さをより感じるようになった。

またしばらくたって
試行錯誤、いろいろ頑張ってきたのだけど、
仕事と、あとプライベートの諸問題
自分のできる限りを尽くしてきたのだけど、すこし燃え尽きたというか、想像できる将来の可能性に不安を感じた。
白黒はっきりしてしまって、厳しい現実で落ち込んだ事件もあって
これからの生き方やっぱりこれでいいんやろうかと思った。

会社の昼休み、ひとりカフェでご飯を食べているとき
あ、兄ちゃんに連絡してみよと思い立った。

――するかどうかわからんけど、転職の話聞きたい。兄ちゃんのときどうした?

兄は営業職からコンサル職へと異職種に転職した経験があった。
兄と会ってゆっくり話そうとなったのが先日。

ご飯たべる店探しをしている最中に
兄に仕事の電話がかかってきてて、その電話のやりとりをきいていると
しゃべり方がなんか、コンサルっぽいなあなんて思って、
むかしはもっとおっとりのんびりしてたけどなと
昔との違いを面白く思った。
そっか環境によって人間は変化していくもんなんやなぁ。

ということは、
わたしも上京してから、仕事にもまれながら変化していったものもあるんやろうなと思った。
そして、いま別の変化を望んでいるんやろうなとも。

向かい合ってご飯を食べながら
現状の話、そこからこれまで何をしてきたかの話、本音の話、純粋な興味の話、
いろんな問いかけを兄は妹に投げながら、
それは、つまりこういうことやんな? と思考の整理を促していく。
それもなんか、またコンサルっぽかった。
じゃあ、どうしようかということで

「うん、前進んだらええと思うよ」
兄からの一押しもあった。
変化しようとしている気持ちを尊重をされたようでまた安心した。

妹の相談がおわったあと、
妹から兄に近況の質問をする。
妹に助言しているときとはうってかわって、どこか照れくさそう。

これは妹だけが感じているわけでなく、両親も感じているようだが
最近の兄は家族に対して適当さがなくなった気がする。
それは、兄がおそらく、大切な人を見つけたからなんだろうなと。
家族というものを考えることがあったんじゃないかな。
そんなこと本人は言わないけれど。
昔はもっと、家族全体に対してドライだった。それが温かく変化していたのがなんか嬉しいことでもあった。


そして、私はいま
転職サイトの登録やらして情報をあつめ
今までのキャリアの棚卸しをしているところだ。
その中でひとつ嬉しかったのが、これまでの軌跡を否定するわけではなく、誇りに思えていることだった。
現状に納得はいっていないかもしれない。でも後悔しないように歩んできたな。と

実際に動いてみてどうなるかはわからない。
環境を変えようと言うジャッジになるのか、それとも環境を変えず別の可能性を模索してみるのか。
何かを選択しようとしているこの現状は少しワクワクしている。

変化自体は嫌いじゃない。
環境にあわせて、柔軟に対応してきたほうだと思う。
予想外の環境で予想外の学びがあったことも事実だ。
だからこそ、今度の変化は本音と向き合いながらやっていきたい。

そんなことを思い馳せながら
諸準備をしているのである。

最近急激に寒くなり、季節が変化していっている。
今の仕事も相変わらず考えること山積みだ。
その中で新たな可能性も考えている。
季節の変化と私の思考や気持ちの変化の波にさらされて、
すこし追いつけていないのか
鼻かぜぐずぐず。
コンディションはよくはない。

でも、これ成長痛、もうちょっとだけ踏ん張ろう。


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