抗おうか 美しい鰭で
【試合結果】
9/7(土) 読売ジャイアンツ
●2-3x
[勝]横川
[敗]佐々木
9/8(日) 読売ジャイアンツ
◯8-0
[勝]吉野
[敗]メンデス
◇ ◇ ◇
すっかり見慣れた、背番号41に「SASAKI」の文字。
5月に一軍合流し、そこから抹消されることなくずっとここまでチームを支えてきた。先発投手が緊急降板した試合、勝ち継投を出すわけにはいかない試合、延長戦にもつれこんだ試合。
佐々木千隼の名前が呼ばれる時、そのシチュエーションは様々だ。
共通点は、タフな場面。
ここまで22登板、投球回は30イニングに達している。
登板のうち大体半分は回跨ぎしている気がしていたけど、まあその通りと言って差し支えない。
本来居て欲しい役回りの人が居ないこのシーズンにおいて、千隼の存在には何度も救われてきた。
若く明るいチームに必要としていた、経験と落ち着き。
どちらも望んですぐに手に入るものじゃない。
オールスター後に訪れた9連敗中も、千隼は淡々とチームを支えた。
中1日、中2日、中1日……
連敗が止まったその日には名前を呼ばれない。
「ピッチャー、佐々木」と再びコールされるのは、連敗ストップの喜びから22時間後の同じスタジアム。ベイスターズのスコアはずっとゼロが綺麗に8つ並んでいる。相手側は初回に1、5回表の部分に3と刻まれている、らしい。
そんなことは、千隼自身には全く関係ない。
一死満塁。前のピッチャーが残していったランナーは、絶対に還したくない。
先日出演していたラジオ番組で、ゆっくりとした語り口の中でそこだけは少し強く言い切っていた。
ロジンバッグを握り、右手で軽く放り投げて手のひら、手の甲と器用に弾ませる。
ゆったりしたフォームから、さらに少し間を持って投げる。
手のひらからボールが離れたコンマ1秒後に、虚空に白い煙が残る。
千隼のスライダーは、ある程度予測されるであろう軌道通りに、でも予測のそれよりワンテンポ遅く向かっていく。
大概のバッターは堪え切れずに泳がされ、打ったとてそのボールは内野手の誰かがグラブに収めることになる。
◇ ◇ ◇
映像を見なくともこうして投げている姿を思い浮かべられるぐらい、ここ3ヶ月くらいの間はよくよく千隼の背中を見つめてきた。
だから、彼が貧乏くじを引かされる日が来たって
「千隼のせいで負けた」
なんて絶対に思わない。ぜったいに。
8月12日。
マツダスタジアムで坂倉から被弾したその時は、祐大からの返球をバシン、と空中でもぎ取るように受けた。珍しい。振る舞いにとげとげしさが滲んだ。
9月7日。
東京ドーム、2-2の同点で延長12回裏。
5球でツーアウトまで持ってきた。
全てスライダー。
投げ急いでいる様子はなかった。
もう引き分けで終わらせよう、あとひとつ、という所。
いつもの千隼が持つゆったりした間がほんの少しだけ短いような、と感じたその刹那。
最後はストレートだった。
オコエが振り抜いた初球の行く先は、テレビの音を消しても分かる。
マウンドの上の千隼は大きく目を見開いて、膝を折った。
3年前、オリックスとリーグ優勝を争っていたロッテがZOZOマリンスタジアムで楽天に敗れ、悲願が叶わなかったあの日を思い出す。
自らが打たれた悔しさをその目いっぱいにため、頬を伝うままにしていた姿。
ただその時は「佐々木千隼、いい投手だな。もっと強くなるんだろうな」なんて思っていたけれど。
しばらく立てそうになくても、迎えにきて背中に手を添えて一緒に隣を歩いてくれる仲間がいる。それは幕張でも、横浜でも変わらない。
負けてしまった今日は、明日を勝って終わらせればいい。
抗って、打ちのめされて、また抗って。
佐々木千隼は、まだ見ぬ結末に向けて抗い続けている。
またここから、とスタートラインを引き直せる人にしかやってこない未来があるはずだから。