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目の前に夢中で通り越した日の 【群青日和 #32】

【試合結果】
5/8(水) 東京ヤクルトスワローズ
●2-6
[勝]吉村
[敗]石田健

◇ ◇ ◇

空模様が急に機嫌を損ねて、あっという間にぐずついてぽろぽろと大きな粒の雨が落ちてくる。
なんとか洗濯物を取り込むのは間に合った。

中継映像が引きの映像になると、スタジアム上空に濃いグレーとピンク色の混ざったすごい色の雲が垂れ込めている。
時間差でそちらも崩れそうだ。
気圧の上下をお知らせしてくれるアプリを開くと折れ線グラフががくんと右肩下がりになっていて、見ているだけで首を右に傾けたくなってしまう。
朝からおでこから首筋にかけてぼんやりと鈍痛を感じていたのだけど、原因はこれか。

……ぼんやりし過ぎてスタメンを確認しそびれていた。
一昨日スタメンから外れていた度会が1番に入って、捕手が戸柱になりあとはそのまま。

風は一昨日と変わらず、いやそれ以上に強そうに見える。
屋根の無い本拠地球場である以上は、自然との付き合い方も慣れていかないと。
ハマスタで暫く守備機会の無かった度会のことが少しだけ気がかりになる。
センターには桑原ではなく蝦名が入っていることに、なんとなく意図を感じた気がした。

◇ ◇ ◇

6回表、1点ビハインドの展開。
この回からマウンドに立った中川虎大が打たれ、打たれて、フォアボールで満塁に。その後長岡をピッチャーゴロに打ち取るも、あとアウト2つがなかなか取りきれない。

中村に押し出しのフォアボールを与え、北村の打席を迎える。
ピーク時よりも雨粒は小さくなった。
しとしとと雨が落ちてくるハマスタ上空、ライト方向に打球が上がる。

んっ、と嫌な予感がしてしまう。
度会が前に出て、後ろに少し戻り、また前に出て、自信なさげに少し低い位置にグラブを構えて、いや低すぎる。次の内野への送球に気がいっているような、と思ったら打球はグラブを通り越してその後方に弾んだ。

返球後、すぐに蝦名が度会のそばに駆け寄る。
度会はどこか遠くを悔しそうに見つめて、何か答えている。

ベンチから三浦監督が出てきて、マウンド上の中川虎大に交代を告げた。
今シーズン、故障者を抱えながらも早い時期から今まで実績を積んでいない若手投手に機会を与えられているのは良いことなのだけど、いかんせん今のところチャンスを掴めている人が少ない。一人でも多く掴んで欲しいものなのだけれど、そう上手くはいかない。

画面下部にリリーフ投手リストが出てきて、この後の継投は誰になるかなと思案しているところに再びセンター・ライトの二人がカメラに抜かれる。
蝦名はまだ度会のそばで声を掛け続けている。
ずいぶん頼り甲斐のある表情をするようになったなあ、蝦ちゃん。
彼も何度もチャンスを与えられ、掴み損ね、を繰り返してきた。
打撃と守備、両方で何度も何度もミスし、課題を抱えては関内と追浜を何往復もした身。度会の気持ちはそりゃもう手に取るように分かるんだろう。

度会はライトの定位置に戻ると、グラブで自分の頭を小突いて、大きく息を吐いて空を見上げた。

中川虎大の後、火消し役としてマウンドに上がったのは昇格してきたばかりの坂本裕哉。見ないうちにずいぶん堂々としたマウンド捌きをするようになって。

代打青木にも臆さず、どんどん球を投げ込んで5球目。
低めストレートを投じて、ただ当てるだけのバッティングしかさせなかった。
目の前に力無く弾んだ打球を落ち着いて戸柱に送球、そして戸柱は一塁へ転送。
1-2-3のダブルプレー完成。
お見事!
坂本は一仕事終えて、凛々しい顔でマウンドを降りてくる。

イニングが終わり、ベンチ最前列に戻った度会が再びカメラに抜かれていた。
潤んだ目で遠くを見て、俯くと右手で前髪を後ろに流しながら、両目を拭う。
タフな日々だねえ。
でもこれも、一軍の舞台じゃないと経験できないこと。
昨日センターを駆け回っていた桑原も、サードでどっしり腰を落としている宮﨑も、ゴールデングラブ受賞経験者だけど最初からそうだった訳じゃない。

いつも君がすぐに駆け寄っていく先輩「陽太さん」もそう。
去年はひとつのプレーが悪い意味で注目を浴び、打撃も低迷。9月8日登録抹消。以降は一軍に上がってくることが無いままにシーズンを終えてしまった。
今日のビッグプレーも、いろんな場面、いろんなミスを乗り越えてきた過去があってのこと。

度会に寄り添う先輩は蝦名だけではなかった。
外野を守っていたもう一人の先輩、筒香もずっと声を掛け続けていたという。

ファームで落ち着いて守備練習させろ、という声も見かけた。
それを決めるのは首脳陣だ。

今、彼が一軍に居るのはその理由があるんだろう。
そして一軍に居る他の先輩達は、ちゃんと目を配り心を寄せている。
失敗は今のうちにしないと、どんどん出来なくなる。
生傷をこさえないと、転んだ時どう立ち上がるか分からないままだから。
練習はファームでやれ、と言いたいのも分かる。
でも、一軍じゃないと得られない経験も確実にある。

先輩達も、私も、ちゃんと見ているから。
たくさん転べ、何度泣いたっていい、その度顔上げて起き上がってこい。

「陽太さん」も何度も何度もそうしてきたんだよ。


【追記】

ミスしてしまったものはしょうがない。次どういう姿勢でグラウンドに来るかが大事、それを周りも見ている。自分自身で気付いていかないと、それまでの選手になってしまう。また落ち着いてから声をかけたい

やっぱり、声掛けなくてもちゃんと見てたし心も寄せてくれてたよね。

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