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新しい日々も 拙い過去も【群青日和 #41】

【試合結果】
5/21(火) 東京ヤクルトスワローズ
◯7-0
[勝]ケイ
[敗]小川

◇ ◇ ◇

ビジター観戦の楽しみ、といえば。
見慣れない、相手チームの選手達や球団マスコットに彩られた道のり
普段通っているスタジアムでは食べられない球場メシ
もちろん、これも楽しみなんだけど。

私が一番好きなのは試合前に行われるビジターチームの練習時間や、プレイボール直前、先攻となるため野手達がベンチ前にずらりと並んで素振りをしている時間だ。
ファインダーを覗きながら、さて今日の元気そうな人は誰かな、どんな表情をしているかな、なんて彼らを眺めるひとときは本当にワクワクする。

ベンチ前に目を向けると、ひときわ締まった表情でバットを振り込む選手が居た。

2年目の内野手、林琢真。
学生時代からの本職はセカンドだがプロ入りしてからはショートの守備にも取り組み、ルーキーイヤーの去年はショート起用でのスタメンも多かった。
今シーズンはオープン戦から新人の石上泰輝の活躍がめざましく、結果的にショートの開幕スタメンを石上に明け渡す形になった。

ではセカンドは?というと、ここ3年間ずっと「4番・セカンド」として牧秀悟が守ってきた。しかし先週末の試合で故障していたことが分かり、今日の試合前に牧はプロ入りして初めての登録抹消を受けていた。

スタメンが発表され、予想通り牧秀悟の代理としてセカンドの所には林琢真の名前が連ねられた。スタメンでの起用は4月7日巨人戦以来、実におよそ1ヶ月半ぶりだという。

一点を見つめて、集中を高めてバットを振っている。
代走や代打、守備固めで名を呼ばれることが続いていた中、よくぞ腐らず下を向かず準備してきてくれたなあ、どうか起用機会が巡ってきてほしい、そう思っていた矢先のこと。
状況の変化、誰かのピンチは誰かのチャンス。

◇ ◇ ◇

2回表、先頭の宮﨑からヒットが繋がり、一死二三塁。
8番の林に打順が回る。

初球、そのフォークが落ちきらなかった。

この状況で求められがちな『最低限』よりも良い結果を求めたスイング。
最低限を目指してしまえば、最低限かそれ以下の結果しか出ない。

大振りせず強く引っ張り込んで運んだ打球は、一塁線に沿って転々と転がっていく。

塁上の二人はホームインし、林は二塁を回ってもなお止まらずにトップスピードに乗ったまま走り続ける。
行けるか、三つ行けるか、来い!
カメラを構えたまま叫んだ。
そして、林は三塁に頭から滑り込んでくる。
タッチは、セーフ。

「自分にも結構大事な打席だった。何としても1点取りたかったので、打てるボールを待って打った。打席をもらえることがありがたかった」

伝わってきた、伝わってきたよ。
試合前の素振りから、今日最初のこの打席から、必死の走塁から、今まさに私の目の前で拳を突き上げ肩で息をしているその姿から。

スタメン起用された4月7日の試合では2打席無安打。初回の守備では失点のきっかけとなるエラーを記録。
それが原因かは分からないが、3打席目に立つ前に代打を出されてベンチに退いた。

歯痒かった過去の自分を振り払うように、今日この日に得たチャンスになりふり構わず喰らいつく林琢真の姿に、胸が震えた。

「かましてこい」と、戦列を離れる牧に言われたらしい。

明日から、飢えていた分もっともっとかましてやれ。

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