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縛られずに でも腹くくり【群青日和 #16】

【試合結果】
4/17(水) 広島東洋カープ
●1-5
[勝]塹江
[敗]濵口
[S]栗林


◇ ◇ ◇

さて、と今日の業務を終えてPCをシャットダウンし、キーボードとマウスをモニター台の下に納める。試合はどうなったかな。

一球速報のアプリを立ち上げると、ちょうど牧秀悟の打席だった。
アドゥワ誠の初球「スライダー 128km/h 見逃し」が表示されて、そのまま画面は止まったまま。
「見逃し」の文字を見て、本当になんとなく、坂倉はまた同じコースに要求しそうだなという予感があった。
変化球でカウントが取れたなら、状態の上がりきっていない牧は一方的に追い込まれるのを嫌い、また同じ球が来れば必ず手を出してくる。
それでツーストライクまで追い込めれば尚良い。

ただ不思議なもので、バッターの状態というものは下り坂まっしぐらだったものが、たった一球でくるんと反転して上り調子になっていったりする。
もう一度同じ球種で来るなら、その球を仕留められれば。

一球速報の画面はまだ止まっていて、こちらと睨み合ったまま。

じっと見つめていると、打球方向を示す赤い曲線がレフトスタンド方向へ大きく伸びる。ホームベース付近に黄色い文字が弧を描く。

HOMERUN!!

もう一度同じ球種で来るなら、その球を仕留められれば。

「スライダー 128km/h 左本」

同じ球種、同じ球速帯。
真ん中に入った初球より、ほんの少し低め。
その球を、見逃さなかった。

オフィスから出て、ちょうどやって来たエレベーターに乗り込む。
追っかけ再生でシークバーを牧の打席まで巻き戻す。
綺麗に振り抜いたスイングじゃない。
球をぎりぎりまで長く見て、泳ぎそうになる上体を膝を使って上手く踏ん張り、バットで球を運ぶように。
実況席からはレフトフライに見えたんだろう、打ち上げた、と言っている。
レフトが、下がって、下がって、そのまま
ボールは落ちてこないまま、2階席に飛び込んでいった。

ダイヤモンドを一周しベンチの左端で待つ三浦監督とハイタッチすると、右腕でぐっと自分に向けて、小さく強いガッツポーズ。
一階に着いてドアが開く前に、私も牧とまったく同じガッツポーズ。
よっっっしゃ。

◇ ◇ ◇

6回表の攻撃、一死一二塁。
ショートのスタメンで出ていた石上に対して代打楠本が告げられた。
あれ。まだ2打席しか経ってないのに。
昨日までならおそらくこのまま行かせていただろう。
選手起用の潮目が変わったのを感じた。

本拠地とビジター球場を行ったり来たりしながらセ・リーグ5球団全てと当たり、新人選手が最初に体がきつくなってくるであろう頃合い。
クリーンナップの後ろ、6番・8番にも入ったし、2番に入る日も少なくなかった。
少しずつ頭と体がズレてきて、石上のスイングはどんどん小さくなってきてしまった。それでもミート力のセンスはある分、併殺も増えてきてしまう。

本当にここまでよくやっていたけど、一軍スタートのルーキーが複数人いる事自体とても珍しくすごいことなのだけど、だんだんプロの壁を実感していそうでもあり。

「先ほど代打いたしました楠本に代わり、ショート、林」

左打ちのショートに左打ちの代打、そして左打ちのショートが再び入る。
ルーキー石上に比べて、2年目の林琢真が明らかに勝っているものはなんだろう。
それは、プロ野球選手としての経験値。

横浜スタジアムと大きく異なった条件の、マツダスタジアムの内野。
林は去年それを嫌という程、体で学んでいる。
土と天然芝、どちらの要素も持っているこの内野は打球のバウンドが変わりやすい。
それに加えて今日はショート周辺の土が走塁で妙に荒れていて、跳ねる方向の予測がしづらく、石上はよく守っていたがかなり苦戦を強いられていた。

林がショートとして出場するのは4月7日、巨人戦ぶり。
6回裏、さっそく林にとって最初の守備機会が訪れる。
菊池が打ったゴロ性の打球を、きびきびと足を動かして捌く。
うん、いい動きしてる。

8回裏の守備では、牧から送られたバックトスを一切の無駄なく捕球即送球。
余裕をもってきっちりと、4-6-3のダブルプレーを完成させた。
本当によく足が動いている。

控えに回っていたけれど、姿勢まで控えていたわけではない。
林のこの軽快な守備は、この機会がいつ来てもいいようにと備えてきた証。

試合の中でミスが続いてしまったなら、またワンプレーワンプレーを試合が続いているうちに丁寧に積み直していくしかない。
守備で失ったリズムは、守備でまた整え直す。

石上よりも一年長くプロ野球の世界で生きている林は、その意味をよりよく知っている。

◇ ◇ ◇

開幕してまだひと月も経たない今年のシーズン、今のところ新人選手や新戦力の話題が何かと多い。

でも、そろそろ先輩達も意地を見せてくる頃合いだ。

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