どんなに辛く折れそうな夜でも【群青日和 #25】
【試合結果】
4/29(月) 中日ドラゴンズ
●1-11
[勝]松葉
[敗]ジャクソン
◇ ◇ ◇
開幕1軍スタートが叶わなくとも、スポットライトの当たらない場所で牙を研ぎ続けていたかどうか、そんなことは私はもちろん知る由もない。
ただ、4月26日の公示に「蝦名達夫」の文字があった時、すぐにオープン戦での彼の姿を思い出していた。
まだ一軍のグラウンドに慣れないながらも、笑顔でウォーミングアップを行うルーキー達の間で黙々とキャッチボールをしている。
……あれ、外野手用のグラブじゃないな。
見慣れない形だと思ったら「Fujita 3」の刺繍が入っている。
おそらく昨年現役引退した、藤田一也育成野手コーチのものだろう。
外野手登録で、主な起用はライトやセンターが多かった。
ただ、一軍では実績豊富な桑原、昨季躍進した関根、そしてドラ1の度会と大激戦区になっているポジションでもある。
彼らと争いつつも起用機会を少しでも増やすべく、サードに挑戦しているなんて記事もそういえば上がっていたな。
明るく元気な性格の選手が多いベイスターズの中で、どちらかといえば寡黙で淡々と鍛錬を積んでいるイメージのある蝦名。自信を持てるキッカケさえ掴めれば、きっともっと突き抜けられる。そう思っていた。
昨シーズンの蝦名は声が掛かり一軍定着へのチャンスを掴もうとしては指の間からすり抜け、悔しさを抱えたまま再び横須賀へ、行ったり来たりを繰り返す日々。
特に忘れられないのは、昨年6月19日のこと。
交流戦優勝がかかった日ハムとの試合で、またとないチャンス!という場面。
ハマスタではランナーが得点圏に進むなど、チャンスの局面になるとその打席に立つ選手がアップでバックスクリーンに抜かれるようになっている。
そしてまさにそのシーン。
「seize the chance!」の文字と共に蝦名がバックスクリーンに映し出された時、彼の表情という表情がまるで読めないぐらいにガッチガチに固くなっていて。
人間追い詰められるとあそこまで表情が消え失せてしまうのか。
大チャンスなのか大ピンチなのか、こちらもだんだん分からなくなってきそうなぐらいだった。
結局その時のチャンスも、蝦名は掴み損ねてしまった。
◇ ◇ ◇
守れず、打てず、打たれて、11点ビハインド。
じっと静かに見守り続けて、気づけば7回表になっていた。
先頭打者の宮﨑がフォアボールで出塁すると、代走で林の名前が呼ばれて交代。
6番に入っていた蝦名がバッターボックスに入り、パッと中継カメラの方を向く。
なんだろう、あのチャンスでガッチガチになっていた人と同一人物にはまるで見えない。
迷いのないフラットな表情で、しっかり投手と勝負する準備ができている雰囲気が出ている。
そしてバッティングの勝負を仕掛けるのも早かった。
2球目の外角の浮いたチェンジアップをしっかり捉えて、打球はライト方向へ。
林は俊足を一気に飛ばし、あっという間にホームイン。
蝦名はセカンドベース上で、ベンチに向かって手を振っている。
引き締まったその顔に笑顔はなくとも、一つ、やり切れたという小さな自信の色は感じられた気がする。
一軍から自分の名前が呼ばれる、いつやってくるか分からないその日に向けて、蝦名がしっかり準備してきたことがよく伝わってくる打席内容だった。
https://www.nikkansports.com/baseball/news/202404290001075.html#goog_rewarded
起用が少なくとも、こういう展開での出場になろうとも、名前が呼ばれた場面で集中して結果を出す。
決して簡単なことじゃない。
蝦名の一振りで、どうにか完封負けは免れた。
あなたの表情も一打も、ちゃんと見ていたからね。
そしてこういう選手にこそ、もっと良い場面での大仕事が回ってくるはず。
新戦力の話題が多い4月の次は、中堅が意地を見せる5月になるんじゃないか。
いや、そんな5月になってほしい。