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一直線 光裂くように【群青日和 #48】

【試合結果】
5/29(水) 東北楽天ゴールデンイーグルス
●0-4
[勝]内
[敗]ジャクソン

◇ ◇ ◇

9回裏、横浜スタジアムで
「ピッチャー、佐々木」
とウグイス嬢にコールされるのは、一体何年ぶりになるんだろうか。

かつて何度も幕張で流れた、FLASHの歌い出しが聴こえてくる。

花の色が 変われるほどの
永い時の密度に近くて
フレームは一瞬 スローモーションで
一直線 光裂くように

FLASH / Perfume

佐々木千隼、その名前の読み「ちはや」が歌詞に入っているこの曲は本当に彼によく似合っている。

ちはやぶるとは古語で
荒々しい、勢いが激しいさまを表す。

彼の投球自体はそれとは違って、豊富な球種で丁寧にアウトを重ねるもの。
ただ、その内側に宿っているものはまさしく、千早振るに近いものを感じた。

最初のアウトとなるはずだったショートゴロを、森敬斗がエラーしたことにより始まったこのイニング。
その後に安打を許しても、瞳の奥に焦りは全く見られなかった。

ワンナウト、ランナー二三塁。
初球のフォークでピッチャーゴロに打ち取ってからの動きに、思わず目を見張る。

バックハンドで捕球したのち、飛び出した三塁ランナーに向かって猛スピードで走り出し即座にタッチアウトに。
その状態でまず顔だけ先んじて二塁ランナーをうかがう。走り込んだ勢いのまま体を反転させ、隙あらば送球出来るよう構える所まで持っていく。

一切、迷いがなかった。
こうだからこう、と判断して先に体が動いているというより、長い間そうしてきたからこそ動けるという積み重ねが見えた気がした。

野球の試合時間は、およそ3時間と決して短くはない。
でも、勝負が決するのはそのほとんどが一瞬の出来事。
グラウンドに立つ選手たちも、それを眺めている私も、皆がその一瞬一瞬の積み重ねに感情を揺さぶられている。
勝負の行方を左右するそのコンマ1秒の世界に、何か思いを巡らせたりする暇は許されていない。
心より早く身体が勝手に動くまで、何回も何回も繰り返して身体に染み込ませるほかない。

今シーズンここまで、ファームで状態を上げることに専念してきた。
何より、投げている球の状態がどれも良い。
ファームの映像も少しチェックしてはいたが、横浜スタジアムで実際に一軍選手たちに向かって投げている様を見るとより実感する。

焼けた肌と締まった表情が、己を淡々と磨いてきた時の長さを物語っていた。

試合後にアップされた公式の切り抜き動画。
その反応を見てみると、古巣のマリーンズファンからも多く言葉を寄せられている。

佐々木千隼が重ねてきた一瞬の片鱗。
彼がたった1イニング投げるのを見ただけで、長くこの選手が愛されてきた理由が少しだけ分かったような気がした。

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