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雨の日の赤い口紅

その日は細かい雨が降り続き、聞こえるのは雨音だけという静かな朝。
カフェの店内にはまだ他の客はいなく、ぼんやりと1人で眺めていた薄暗い街の景色。

その時ドアが開き入ってきたのは、まるで昔の女優さんのように頭をシルクのスカーフで巻き、赤い口紅を塗った女性。
ぼんやり薄暗い店内で、赤いマットな質感の口紅と鮮やかな色合いのスカーフだけが浮かび上がるように美しく、しばらく目が離せなくなってしまう。
スカーフを外し、雨を拭き、席にゆっくりと座るマダム、私の母親くらいの年齢だろうか。

雨が止み、そろそろカフェを出ようと立ち上がると、マダムとふと目が合ったので、近づいて、いかに彼女の登場がドラマチックで素敵だったかを伝える。
そしてその口紅の色にすっかり魅了されたので、差し支えなければブランドを教えて欲しいとお願いすると「ルビー・ウーよ」とマットな赤い唇が動く。

ぜひあなたも、と言われその足でM.A.Cに買いに行ったルビー・ウー。
赤い口紅が大好きで、今まで色々なブランドのものを集めてきたけど、このルビー・ウーは、あの雨の日のマダムとの思い出も重なって、特別な思い入れのある1本。

30代後半になり、たぶん世間的には良い歳をした大人に見られているけど、今でも時々、自分1人では何もできなかった幼い子供の頃のような心細さをふと感じる時がある。
そんな時、赤い口紅を塗ると気持ちが少し落ち着いて、自分がもう大人だと思い出す。
ルビー・ウーは、もう小さく弱い子供では無く、自分1人で何でもできる大人だと、私に思い出させてくれる、大切な口紅です。

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