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発明と人は、どのように踊ってきたのだろうか 〜CIID "Future Casting"クラスの備忘録DAY2前編〜

コペンハーゲンのデザイン教育機関「CIID」のウィンタースクールin東京、Future Castingのクラスに参加したDay2。昨日の終わりにチームに分けられて与えられたテーマに対しての「just research」の結果シェアから始まりです。

CIIDとはなんぞや? & 1日目の様子はこちらのマガジンにまとめてありますのでよかったらこちらも。


技術そのものと、自分の仮説の「間」を見よう。

・Space Manufacturing (宇宙での製造)
・Designer DNA (遺伝子操作)
・Augmented Reality (AR)
・Emotional AI (感情を扱えるAI)
・Extreme Bionics (身体拡張・”義体”) ← 僕らのテーマはこれ。

上記の5つのテーマ、それぞれのリサーチ結果をチームごとにプレゼンします。以下の4つの切り口を軸に、各チーム、昨日の午後まるまるかけて探りました。

1. What is currently happening in research centers?
 (今、研究の最先端では何が起こっている?)
2. How did get to the current state of this technology?
 (どうやって現在地までたどり着いた?歴史的背景は?)
3. What/Who are the competitors / allies?
 (このテックの競合および支援者は何/だれ?)
4. What people / industries might this disrupt?
 (このテックによってディスラプトされるのは?)

個別の内容はここでは割愛するけど、チームのプレゼン後にそれぞれ FilippoとElenaからのフィードバック。様々な質問が投げかけられたけど、共通して二人が問いかけてきたのは、こんなところでした。

「その現象や事象を”人がどう感じているのか”にフォーカスしよう」
傾向として、「こんな技術がある/かつてあった」というテクノロジーそのもののリサーチだけで終わっている要素がどのチームのプレゼンにもあった。それに対して、「そのテクノロジーのことを人間の社会や、その時の個人個人は、どう思ったのか」をちゃんと見ようぜというフィードバック。技術単体ではなく、人と技術の関係性のリサーチにこそ意味があるのだと。ただし、「このチームではこう思いました」という”自分たちの感想”と混同してはならない。それだと「Just Research」じゃ無くなってしまうから。「技術そのもの」だけじゃなく、かといって「自分たちの感想や仮説」でもない、その間にあるはずの【その技術のことをその時代の人々は、どういう風に捉えていた痕跡が事実として残っているか】を見ましょうと。初日の宿題で”artefact”と表現されていた「時代の証拠品」は、おそらくそれが込められているものかどうかにこそ、意味が見いだせるっていうことなんだとだんだんわかってきました。

「プラスばっかり / マイナスばっかりを考えない」
どうしてもある技術の歴史や今後を考えるとき「一直線的に」見立てを作ってしまいがち。どんな物事にも「いいことの裏側には悪いことが、そしてその逆も然り」なわけだと。自分たちのリサーチがどうも偏ってると感じたら、ぜひツッコミを入れてみようというフィードバックもありました。

「プレゼンにはこだわろう!画像を駆使しよう!」
Day2にしては結構、プレゼンの方法論についての指摘がしっかり入ったのが面白かった。おそらくだけど、とかく「未来」という、人間がバイアスまみれだったり、極論で断定的に見てしまいがちだったりするものが対象である以上、「まあ、わかりますよね?」という、相手の理解や解釈に寄りかかったコミュニケーションをするのは危ないってことなんだろう。文字や言葉でのプレゼンには「画像使おう」と逐次指摘が入っていたように、ファクトはしっかり、追い詰めて伝えることが大事なんだと改めて勉強になったところ。

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そんな感じで、それぞれのTech Trendについての大まかな事実関係や歴史がわかってきました。「午後いっぱい、チームで集中するだけでこれだけのことがわかる。しっかり時間をとってリサーチをやること。何もものすごい時間をかけられなくても、スプリントでやるって大事だよ」とFilippoは言います。

過去の人々が発明をどう受け入れてきたか

そんなわけで、また講義の時間に入ります。繰り返し説明されている「発明を、単体でとらえずに、人と社会との関係性で捉えよう」という考え方を深めるために、”過去のそれを振り返ってみよう”という話です。

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例えば「スマホ中毒」。現代特有の問題と言われているけど、テクノロジーが違うだけで、実は問題の構造はかつて新聞が爆発的に普及した時とほとんどおんなじ。「ある発明によって人の対面でのコミュニケーションが不活性になる」ということを繰り返しているとも言える。派手に激変するテクノロジーの方だけでなく、「本質は大きく変わらないであろう人のあり方・形」の方も見ることで、その二つの関係性で未来を考えやすくなるのかもしれないという示唆ですね。「今この瞬間が、人類の歴史のなかでもっとも激変期であり、自分の世代が歴史のまさに先端にいる!と思うエゴイズム」のことを【Chronocentricity】というそうで。その思い込みが物事をことさら騒ぎ立てたり、大げさにしたり、過去や先人の学びをうまく活用できなくさせたりするのかもしれないです。

技術と人間の関係性の議論では


「技術は常に中立で、人間の使い方次第だ」


「技術によって、人間や社会はよくも悪くもなりうる」

この二つのスタンスの戦いになりがちだけど、そのどっちでもないのではないかとFilippoは続けます。第三のスタンスを「Mediation」と表現していたのだけど、要するに


人と技術は”ダンス”するものである

こう説明していました。どちらが原因でどちらが結果ということでもなく、優劣でもなく先後でもなく、「対等に相互作用し合って、形を変え続ける」というそんなニュアンス。「バイオリンとバイオリニスト」と例をあげてたっけ。あるいは、「Facebookのアルゴリズムが、人の怒りやエゴを表面化させて、トランプが勝った」のか「トランプが人の怒りやエゴを表面化させる選挙活動を仕掛け、Facebookが荒れた」のかは、そのどちらでもないのでは?という話も例に出してました。(この時はまだピンと来なかったんだけど、この日の後半、「ダンス」の言いたいことがすげーわかってきます。)

その発明の「意味」はなんだったのか。

人と技術の関係性の話は続きます。関係性でとらえようということを、実際の人類史の発明を例に掴んでみる思考実験スタートです。提示されたのは「穴埋め問題」。

_______________ changed the power structures in the ________________, educating the general population, undermining the _________________, enabling the _________________________ and laying the foundation
for democratic revolutions.

「何か」の発明が、「いつかの」権力構造をかえ、普通の人たちを教育し、「何か」を弱体化させ、「何か」を可能にし、民主主義の礎になった、とのこと。一番最後がとっても大事なんだけど。出てきた正解はこちら。

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Printed books changed the power structures in the medieval world, educating the general population, undermining the Catholic Church, enabling the Protestant Reformation and laying the foundation
for democratic revolutions.

印刷技術が、カトリックの弱体化とプロテスタント改革中世にもたらし、それが民主主義の実現に繋がった、という文章でした。…ですが、”これが答えだ!”というお勉強をさせたくてこの問題が出てきた訳ではないようで、次に「別解」が提示されます。

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Social media changed the power structures in the middle east,
educating the general population, undermining the government,
enabling the Arab Spring and laying the foundation
for democratic revolutions.

SNSが民衆に力と知識を与え、政府を弱体化させ、アラブの春を中東で起こし、それが民主主義に繋がった、という文章にもできるよねと。確かにクラスメイトで最初の空欄にSNSを入れた人はたくさんいた。要するに大事なのは「空欄を埋めること」以上に、「空欄を含む、文章の構造のパターンを知ること」なんだと。

_______________ changed the power structures in the ________________, educating the general population, undermining the _________________, enabling the _________________________ and laying the foundation
for democratic revolutions.

再掲ですが、この構文に勝手に名付けるのであれば「知識の民主化による、既得権益の転覆モデル」とでも言いましょうか。つまり、「技術そのものの歴史」でもなく、「人類オンリーの歴史」でもない。「技術と人類の関係性のパターン」を考える。そういう脳の使い方ができれば、Future Castingも、単なる絵空事でもなく、かといって当たり前すぎて価値のない”明日の情報”でもない、意味のある思考になるんじゃないか。そんな予感を僕らに勘付かせようとしているんだねFilippo…!というユーレカが起きた瞬間でした。笑


関係性のパターンの例文は続きます。次はこちら。

The ________ is in truth the women’s emancipator. It imparts an open-air freedom and freshness to a life heretofore cribbed, cabined and confined by convention.

「何か」が実は女性の解放の立役者で、慣習に縛られ、小屋に閉じ込められていた生活をかえ、外の自由さ、新鮮さに解放した、とのこと。さてなんでしょう。


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The bicycle is in truth the women’s emancipator. It imparts an open-air freedom and freshness to a life heretofore cribbed, cabined and confined by convention.

当時、男性がするものとされていた「運転」という行為を女性でも”アリ”なものに部分的にかえたのが実は自転車だったそうです。マニッシュな格好で自転車にまたがる女性のイラストの広告から始まって、徐々に広く受け入れられ、ひいては「女性は家にいるもの」という考え方そのものに影響を及ぼしていったそうな。その証拠、という訳ではないけど同じことが中東では遅れてなぞっているのが見て取れるそうです。「女性の制限を解放するきっかけとなった技術」のパターンも、型として間違いなくある訳です。

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最後の問題はこちらの文章。

Of all the marvelous achievements of modern science the _________________ __________   is the greatest and most serviceable to mankind… This binds together by a vital cord all the nations of the earth. It is impossible that old prejudices and hostilities should longer exist...

この人類の歴史のもっとも偉大な発明は、世界中の人々をつなぎ、古い偏見や敵意が長く存続することを不可能にした、ようです。もうここまでくると、代入できるいろんな言葉を複数考えつけるようになっているんじゃないかなと思いますが、この「世界が繋がったことで悪意が偏在しづらくなったパターン」の答え、まず出てきたのはこちらでした。

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Of all the marvelous achievements of modern science the electric telegraph is the greatest and most serviceable to mankind… This binds together by a vital cord all the nations of the earth. It is impossible that old prejudices and hostilities should longer exist...

電信技術ですね。これによって、情報の同時性が世界規模で叶うようになって、嘘とか謀略とか、情報操作による悪意のある権力者の統制とかが存続しづらくなった訳です。あ、ちなみにこの発明も出てきた当初は「だから何??」ばりに批判されたそうです。そしてこの空欄には、遡れば「狼煙」が入り、現代までくると「インターネット」が入りますね。もちろんそこには、「裏と面」がある訳だけどね。さらに、この技術は、一つ前の文章にも入れられちゃうんだなあと。

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The electric telegraph is in truth the women’s emancipator. It imparts an open-air freedom and freshness to a life heretofore cribbed, cabined and confined by convention.

通信オペレーターとして多くの女性が新しい活躍の場を手に入れた訳です。人と発明の関係性のパターンは、複層的、相互作用的に起こっていくこともこれでだんだんわかってきました。

まとめ : 点ではなく、線でもなく、模様でとらえよう。

DAY2、まだまだ続いたんですが、すっかり長くなってきたのでここでいったん、前編として区切りたいと思います。一番の学びはやはり、「発明と人間の関係性のとらえ方」を、実例とともにたくさんインプットできたこと。DAY1で言いたいことはなんとなくわかっていたつもりだったけど、それを「とどのつまりどういう風に自分の頭で認識すると良いか」を、上記の「穴埋めの”穴の中”ではなく、”穴の周り”の認識こそ大事」という例えでかなりクリアに理解できてきた気がします。

Chronocentricityの熱にほだされて、極端な未来ばかり考えてしまいがちだけど、人の気持ちのあり方には間違いなく普遍性がある。でもだからといって、完全に同じところをぐるぐる繰り返している訳でもない。そんな中でどうやって未来を考えるのか。二つの関係性、すなわち発明と人間のダンスのパターンで考えるのは、未来を考えるときに陥りがちな「思考の両極」にはまり込まないために必要な視座だと思いました。

DAY2後半は、もうちょっと考え方の具体的なフレームワークがたくさん出てきます。引き続き読んでください。感想、コメント、投げ銭、大歓迎でお待ちしてますー。


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