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2050年の考古学者は、今の僕らに何を紹介するだろうか。 〜CIID "Future Casting"クラスの備忘録DAY1〜

ご縁あって、デンマークはコペンハーゲンのデザイン教育機関「CIID」のウィンタースクールin東京に出られることになった今週。これはなかなかに得難い経験になるに違いない…!と久々の脳汁ドバドバの予感だったのですが、予想を裏切らない面白さ。これは、いろんな方々との議論のまな板に乗せてこそ価値の出る内容だと思ったので、頑張ってnoteに公開してみます。全5日なので、5本更新目指して・・・

🇩🇰About "CIID"
CIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)は2006年にコペンハーゲンで創立されたデザイン教育機関。人とモノだけでなく、技術・コミュニティ・社会・環境などあらゆるものごとが相互に作用する(関わり合う)デザインを考える『北欧型インタラクションデザイン』を提唱し、クリエーティブな発想からソーシャルインパクトを創造しビジネスにつなげていくことを目指しています。トップ企業から優秀な人材が受講するサマースクールを毎年コペンハーゲンで開催したり、ビジネスの中心で活躍するクリエーティブ人材を多く排出するなど世界からの注目度も高い教育機関です。
🇩🇰About"CIID Winter School"
本スクールの参加者は8つあるコースからひとつを選び、 5日間を通してコース毎に異なるビジネスデザインのアプローチを体験・習得することを目指します。すべての授業はジェンダー平等・気候変動・持続可能な生産消費といったSDGsで掲げられているテーマに沿って構成されており、世界のトップ企業から優秀な人材が派遣される「CIID Summer School」と同じ内容を体験することができます。

より詳しくCIIDの思想について知りたい方は、WIREDに掲載された、共同創業者のシモナのインタビューがとってもクリアです。

で、早速始まったDAY1。午前中は上記で紹介したような「CIIDとはなんぞや」の説明を全クラスの受講生に向けて行ってほぼしゅーりょー。ここからクラスにわかれて本編が開始されました。僕が参加したのは「Future Casting」のクラス。どんなことやったのか、とってもダイジェストですが、描いていきます。

五日間の記録はこのマガジンにまとめたので、ぜひDAY2以降の記録も読んでみてください。


事前課題:「1950年代に、何を持って行きますか?」

FutureCasingコースとは? オフィシャルにはこんな説明。

FUTURE CASTING
私たちを取り巻く様々なテクノロジーは様々なものに変化をもたらします。政治や社会、環境、さらには私たちの身体までもがその対象です。このコースでは、最先端のテクノロジーやそれがもたらすインパクトを検証します。それらの意味づけをしながら、アイデアを発想するメソッドを紹介。さらには人の潜在的なニーズの理解が将来の予測にどのように役立つかを学びます。

先生は、ElenaFilippoの二人。それぞれNY Times←TIMEとBBCと、キャリアでメディアを経験しているのが特徴的。二人の経歴の説明があったのち、事前に出ていた宿題をシェアする時間。宿題はこんなものでした。

あなたたちは、1950年代にタイムトラベルした現代の考古学者だと想像してみてください。世界は徐々に、冷戦という現実を目の当たりにしはじめています。経済発展が世界中に広まり、宇宙開発レースが加速しています。つまり、今日とそう変わらないのです。しかし他の面で、社会や技術は当時と比べ、大いに発展しました。あなたは1950年代の考古学者と連絡をとることに成功し、合同の「ショー・アンド・テル(発見や珍しいことを共有し、それに関して話し合う会)」を企画します。しかしちょっとした問題があります。あなたのタイムマシンは使い心地が悪く、大きな物を運ぶことができない上に、電子製品を全て5次元の世界に送り込んでしまいます。難点はありますが、あなたは古き時代の同僚に私たちの世界の様子を伝えるため、現代から興味深い物を持って帰ることを約束しました。…ということで、あなたには、現代社会について知ることのできる1から3つほどの「古物(アーチファクト)」を持ち込んでほしいと思っています。電子製品や、ポケットに入らない大きな物は禁止です!例えば、飛行機のチケットを持ち込んだとします。この「古物」が表すのは、多くの人が入手可能な価格で航空券が販売されていること、世界のネットワーク化、警備の発達…などですね。他には、自撮り棒のような物も例として挙げられます。または、ATMのレシートかもしれません。私たちの日常生活を物語るものであれば、アーチファクトは何でもかまいません。ワークショップでは、自身が選んだ物が私たちの暮らす社会について何を示すのか、1、2分間の発表をしてもらいます。

すでに面白い。「電子機器NG」「単にテクノロジーの進歩をひけらかすのではなく、”私たちの暮らす社会についての示唆”のエビデンスであること」、この辺りが考えていて面白かった。僕が持って帰ろうと思ったのは、

・コオロギバー(70年後、イナゴの佃煮は古いどころか、人類を救う最先端のソリューションになるって言われてるんだぜ!)
・メンズファンデーション(男らしさとか女らしさとか、そういうことをやめにして、個人がありたいようにあろうよ!っていう議論が起こってるんだぜ!)
・印鑑(全く形が変わってないんだぜ!びっくりだろ!)

この3つ。「何を象徴しているのか」「そのシンボルの背景にどんな人の営みが透けて見えるのか」を考える。日頃自分が大事にしてきた「関係性のデザイン」に、未来の時間軸を加えて考えさせられた問いでした。そして実はこの頭の使い方で五日間、コースは進んでいくわけです。

「新しいテクノロジー」を、どう受け止めるか。

何か新しいテクノロジーが世の中に産み落とされた時、人々や社会は、いろんな反応を示す。WWWが初めて提唱された頃のTIMEの記事には「何言ってんだ??」と描いてあったし、日本でもiPhoneが初めて上陸するときに「Appleの社員は日本の女子高生の爪や絵文字文化がどれだけとんでも無いことになってるのか知らない」と冷笑していた訳です。大事なのはこれらの論や仮説の「どれがシグナルでどれがノイズなのかを考えること」だとFilippoは言います。

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一方で、「ほら、未来を考えても当たらないんだから、考えてもしょうがないじゃん!?」と生まれたのが「リーン」というアプローチ。「BUILD→TEST→REPEAT→REBUILD→・・・」をとにかくやってみようという考えだけど、ここに欠けているのが「Should we?=やるべきなのか」の視点。「Can we?=できるかどうか」だけをリーンに追求し続けた結果、テクノロジーと倫理道徳の摩擦や衝突が色々なところで起こっている。Disrupt(破壊的イノベーション)大好きだったシリコンバレーも、ここ数年はマインドフルネスやウェルビーイング、「Time well spent(中毒にさせるのではなく、真に意味のある時間の使い方を考えよう)」という、テクノロジーと人間生活の境界面をしっかり考える方向にきているわけです。

ゼロか100か。ユートピアかディストピアか。どうしても過激な未来妄想や、極論がもてはやされたちだけど、「しっかり深層を複眼的に考えていけば、未来の類推は意味を生み出す」ということを言われた気がしました。「Layer of Depth」という概念を提示され、このクラスでは、深いとこ行こうぜ!というお話。

ex. ROBOT TECH
1. Surface : "COOL!!"
2.Problem-oriented : "Robots assemble cars"
3.Critical thinking : "Robots are taking jobs"
4:Philosophical : "What if robots could do everything"

わかりやすいですよね。2や3の「点としての現象を、預言者のように当てに行く」ことをやるんじゃ無いよというクラスの前提がここで改めて説明されました。

「未来予測」のクラスでは無い!

だんだんとこのクラスの「未来」に対しての向き合い方がわかってきたところで、改めてFuture castingの言わんとする「考え方」の説明してます。

Typical week:
Design for production (製品/製造のために)
Applications (対象そのものを考える)
Innovation (革新そのものを)
Consumer (消費者のことを)
Makes us buy (消費・購買させるために)
For how the world is (世界はどうなるか)



This week:
Design for debate (議論のために)
Implications (影響を考える)
Provocation (引き起こすきっかけ・挑発を)
Citizen (市民のことを)
Makes us think (考えさせるために)
For how the world could be (世界をどうできるか)

例えば、こういう「未来の車」とか「サイボーグな主人公」とか、とかく「未来の話 = テクノロジーそのものの形としてのあり方の話」だと思う人多すぎだよねと。

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ElenaとFilippoが割となんども強調した「これは未来予測のコースでは無い」というスタンスはつまり、「20年後の車の形を当てよう」とか、そういうことには議論としての価値が本質的にはあまりなくて、Layer of Depthの4階層目、つまり

「この車に乗る人が誰で、用途は今とどう変わってるのか」
「その時の法規制は今とどのように変わりうるのか」
「そうなるに当たって、どんな歴史的な事件・事故・論争が起こりうるか」
「誰もが手に入れられるのか。入れられないとするとどんな断絶があるか」
「この車に乗れない人がどんな人で、その人の暮らしはどうなっているか」
 …

など、「包括的に、多面的に、関係性を考え、答えではなく論点を探しながら、複数のシナリオをいかに想定できるか」という考え方に価値がある。ヒロイックでエクストリームでシンボリックなSFのヒーローの背景のビルの一室に住む、「その時代のもっと一般的な暮らしとは、どんなものか?」にもっと思いを馳せてみようと示唆を受けたわけです。

このあまりにも有名な「未来を描いた映画」の1シーンをみて、「どこをみて未来を考えたか?」という質問もされました。テレビ電話、同時字幕、FAXがまだ残ってるか否か・・・ そういうことだけじゃなくて、「まだ”雇用関係”とか”法人”は存続しているのか」「クビ、という概念は残るのか。形が変わるのか」など、実は考察の切り口はテクノロジー以外にもたくさんあるのだと。

そして午後、チームワークへ

スタンスのインプットが一段落ついて、軽めの演習を経て、この五日間の本題が始まりました。5人のチームを5つ組成され、それぞれ「1チームに1テーマ」、テックトレンドが割り当てられました。

5 Tech Trends  -our starting point-

・Space Manufacturing (宇宙での製造)
・Designer DNA (遺伝子操作)
・Augmented Reality (AR)
・Emotional AI (感情を扱えるAI)
・Extreme Bionics (身体拡張・”義体”)

僕のチームは「Extreme Bionics」に。それぞれのテックトレンドに対してまずやるアプローチが「Immersion=没入」。結論づけや深い洞察、アイデア出しを一旦ストップして、「Just Research」でどっぷり調べ物をするわけです。同時に提示されたリサーチの「切片」がこの4つ。

1. What is currently happening in research centers?
 (今、研究の最先端では何が起こっている?)
2. How did get to the current state of this technology?
 (どうやって現在地までたどり着いた?歴史的背景は?)
3. What/Who are the competitors / allies?
 (このテックの競合および支援者は何/だれ?)
4. What people / industries might this disrupt?
 (このテックによってディスラプトされるのは?)

何しろまずは、そのトレンドに対しての「わかりうる限りの地図」を頭にダウンロードしようというわけです。ここには前述の通り「テクノロジーそのもの」だけでなく、それを取り巻く諸変数全てを含みます。4つの切片を考えていく「領域」の捉え方として、CIIDが提示したのが「STEEEP」というモデル。

S : social  
T : Technology
E : Economic
E : Environment / Ecological
E : Ethical
P : Political

 これが「Tばっか見るなよ」「4階層目で考えろよ」というプロトコルの具体的なアプローチの一つってことですね。ほぼ、午後の後半はこの「Just Research」を、自分の知識や好奇心の偏りに苦しみながら、STEEEPも参考にしながら、没入してやりました。で、「明日の朝一番に各々発表しましょー!」といって、DAY1終了。

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まとめ : ”答え欲しがりバイアス”をやっつけろ。

個人的には、まずここまでしっかりとマントラというか、考え方のスタンスをインストールしてもらったのはよかったと思います。「未来」というテーマはとかくファジーでアテにならず、「眉唾だから意味ない」「頭がいい人のお金にならないお勉強の世界の話」と、特に反知性主義的な人から笑われがちだし、実際に、現在にどうやって還元するかまで設計できている人はものすごく少なかったりする、いわゆる「読み物」「SF」で終わりやすい分野だと自分自身感じてきました。

その背景には、受け手側、話し手側双方のバイアスがいくつもあることも改めて認識。「答えを求めてしまう」「未来を”当てよう”としてしまう」「わかりやすく、センセーショナルで、ウケのいい話ばかり誇張して広まってしまう」などなど。そういった「未来をどうとらまえるか」以前の、「人は未来を語る時、どう考えてしまうバイアスをそもそも持っているのか」についての示唆を改めてもらえた感覚です。それがあれば、そのバイアスにかかっている人にどうやって話せばいいのか、対策のスタートラインには立てる気がします。根底にある最大のバイアスはやっぱり「正解志向」かな。タイムマシンに乗って宝くじの当選番号を確認して帰ってくるみたいな、「未来がわかれば考えたり悩んだりしなくて済む」という、のび太的なスタンスが、「未来を考える」ことを一番、陳腐化させてしまう。そうではなく、Future Castingとは、「未来をよりよく考えるための技術」であり、もっというなら「今をよりよく考えるために、未来から発想する技術」なんですきっと。

なんとなく、そうだとは思っていたけど、すっごくクリアなスタンスでそれを言語化してもらえたのだけでも、DAY1、元取れたわ。うん。あと、案外フレームワークが出てこなかったのも、個人的には超よかった。多分「フレームワークとかそういうことじゃない頭の使い方をしよう」というマントラがあるのだと感じます。

こんな感じで、DAY2に続きます。
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