損したと思われても構わない。

雨が上がっているうちに、自転車で外に出ることにした。

行き先は、廿日市市にある小さな本屋。私はそこの棚にある商品の並びをなんとなく覚えるくらい通っている。

入店し、気になる本を探す。惹かれる本はたくさんあるが、買って読んでみようと思えるかは別だ。物色を続けていると、蔵前仁一さんの「ゴーゴー・インド」という旅行記を発見。存在を知って、読みたいなとは思っていたものの、古いので大型の新刊書店では見つけられなかった本だ。まさかこんなところで出会えるとは思わなかった。

すぐさま購入し、店を出る。次の行き先は決めてなかったが、喫茶店に行くことにした。一度行ったことのある喫茶店にしようかと思ったが、その店は少し離れていた。スマホで調べると、書店周辺に喫茶店は2軒あった。片方は定休日だったので、もう片方に行くことに決めた。

5分くらい自転車を走らせると、その店は見つかった。その店は、私がいつも通っている道にあった。入ったことはないし、外見だけでは何を扱っているのかわからない店だった。

入るのを止めようかと思ったが、その時私の頭には、かつて読んだ一冊の本が浮かんでいた。松本英子さんの「謎のあの店」という漫画だ。著者の松本さんが、家の近所などにある入るのに少し勇気がいる店に入り、その模様をレポートするエッセイ漫画だ。新たな出会いはそこらじゅうに溢れていることを教えてくれた、とても良い作品だ。

「これも何かの縁だし、入ってみよう」と思い、入店した。
「いらっしゃいませ」と中年の女性がカウンターの向こうで出迎えてくれた。・・・が、その後が続かない。「何名様ですか?」とか「こちらの席へどうぞ」とか何も言ってこない。あげく「どうしました?」と聞かれる始末。名を名乗るわけにもいかないので、「客です」と返してみる。「はい」と返事はくれたが、相変わらず会話が成り立たない。仕方がないので「一人なんですけど良いですか?」とこちらから全部言う。すると「こちらの席へどうぞ」と促してくれた。

店内は飲食店というより民家の中みたいで、客は中年の男性が一人だった。「ご注文は?飲み物とか?」と聞かれる。メニューは無いらしい。「飲み物は何がありますか?」と尋ねると、「コーヒーのホットとアイス、あとお酒とか」と返ってきた。正直コーヒー以外の飲み物が欲しかったが、アイスコーヒーを注文した。すぐに出てきたアイスコーヒーに砂糖とミルクを入れ、飲んでみた。こだわりが一切感じられないそのコーヒーは、苦みがマイナスの方向に働いていた。一気に飲んで、そこまで高くない値段に胸をなでおろしながら店を出た。

その後は少し遠回りをしながら帰宅した。少しでも体を疲れさせて、カフェインに負けない眠気を手に入れるために。

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