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櫻井先生が教える「情報デザイン」講義 noteキャンパス版 第一回 「情報デザイン」について・講義の特徴

私は現在、東京情報デザイン専門職大学という情報デザインを扱うエンジニアの卵が通う大学で教員として講義を行っています。私が受け持っている講義テーマは「情報デザイン」。1回100分間の講義を前期の半年、後期の半年をかけてそれぞれ14回、講義を提供し、学部として学生の皆さんに情報デザインを4年間のプログラムとしてお伝えしています。

この連載では、私が学生のみなさんにお伝えしている情報デザインの講義の内容をハイライトでお見せしていこうと思います。

情報デザインとは?

インターネットが当たり前のように普及した2000年以降の現代社会では、いつでもどこでも大概の欲しい情報は自ら取りに行くことが可能です。

しかし、たった100年前まで遡ると「情報」というものの価値は今とは全く違いました。王族や影響力のある政治家など一部の権力者しか手に入れることの出来ないような情報もたくさんありました。閉じられた社会の中で情報を得られることは人々のステータスとも密接に関わっていた時代です。そのため、今では考えられませんが、情報を得るために彼らは必死に権力とお金を使って出世しようとしていました。

しかし、インターネットが普及してからは、欲しい情報を誰でも簡単に手に入れることができます。
依然として特別な人間にしか手に入らない情報があるものの、情報を入手するのには特に出世しなくても権力を持たなくてもよくなりました。
ただ今度は、必要だと思う情報を「見つけ出す」ということが現代人の課題となりました。

そして、場合によっては情報を見つけ出すだけでなく、必要な人の元まで「届ける」ことも必要になります。
例えば、言葉で伝えることもあれば、モノ(製品)として表現して伝える場合もあります。この、“情報を取捨選択して、届けるまでの一連の流れをデザインすること”を総称して「情報デザイン」と言います。

特に、「届ける」の部分に関しては、モノに落とし込むプロダクトデザインやコト(体験)に落とし込むエクスペリエンスデザイン、イメージに落とし込むブランディングデザインなど皆さんが聞いたことのある分野も多いでしょう。
現代においては、モノコトを伝えるのにストーリーや機能以外の価値をもつ情緒的なもの、つまり「情報」そのものを無くして「届ける」ことはできませんから、情報デザインの肝はやはり「どのように意味のある情報を取り出すのか」という部分にあります。この「情報を取り出す」手段として有名なのがデザイン思考と呼ばれる手法です。
私の講義では、1年生の前期14回で情報デザインの全体像とデザイン思考の基礎を学んでいただきます。

連載の第一回目では、情報デザインそのものを深く語る前に、そもそも最も新しい形態で運営されている「専門職大学」という大学の講義において、私がどのようなことを大切にしているかをお伝えしようと思います。

講義で大切にしていること

学生の皆さんに情報デザインをより効果的に学んでいただくため、私が講義の設計で大切にしている3つのポイントについてご紹介させていただきます。

・再帰性のある学習の取り込み

1つ目は、再帰性のある学習です。
学習するものを完全に事前準備をしてから始めるのではなく、かと言って何も考えず短絡的に実践するのでもない。
一旦の概要を理解し、ポイントとなるものについてある程度見通しがついたらまずは「やってみる」。そして、やってみてある程度の進捗が見えたらそこで一旦振り返り、一歩立ち戻って必要なら違うアプローチを実践してみる。
このように、進みながらも何度も振り返り学習するプロセスを繰り返す。これを「再帰的である」といいますが、このように再帰性のある学習を講義の中に取り入れています。

再帰性というのは人が学習する上でとても大事なプロセスです。毎回の講義の中でも再帰性が起こるように工夫を行っています。
例えば、100分の講義の中でも初めて出てくる言葉や概念を何度も伝え、それをやってみる実践の場でも提供することで再帰性を意識しています。また、講義の連動という意味で、前回やったことを活かして次回の講義でも扱い、数回先で伏線回収のように再び考えてもらうように再帰性を持たせることも行っています。最終的に、最後の2回を総復習に充てることで初めから提供してきた重要要素を一通りおさらいできるようにしています。
再帰性のある学習が自分自身の中で自然にできるようになれば、社会に出た後も仕事をする上で必ず役に立つ習慣になります。

・反転学習

2つ目は、反転学習です。
反転学習とは、通常の講義と自宅学習の目的や意義を反転、つまり逆にすることで、先んじて家や学校の外で教材を見て学び、講義にて議論や質疑を通してより内容を深めていくという事を行います。

全14回すべての講義において、伝えたい内容を5分〜10分の動画にまとめ、各回いくつかの事前レクチャー動画として配布しています。
そのため、講義では内容の概要を説明するというより、概要を理解した上でそれらをより深く理解してもらうためのポイントを提示したり、動画では伝えきれない深い文脈をわかってもらうためのワークに時間を充てています。

動画学習においての利点は、学生たちが自分たちのスタイルで学習がしやすいということ。
沢山勉強したい学生は同じ動画をいつでも何度でもみたい箇所だけを反復して見ることができますし、時間がない学生は電車の中などのスキマ時間で倍速などで効率的に見ることができたりします。それぞれのスタイルで学習をすることができるのです。
現代の大学生は物心ついたときから動画コンテンツに馴染みがありますので彼らの志向との親和性もものすごく高いといえます。

そして、動画で事前学習をしてもらったことを、講義に参加して活用します。
事前動画で講義本体での説明の時間を圧倒的に短縮できる分、講義当日は、単に座学するだけではなく、実際に実践ワークを通して理解を深めていきます。講義の約半分の時間がこの実践的なワークの時間です。

・インタラクティブ性のある学習

最後はインタラクティブ性のある学習です。
インタラクティブとは双方向という意味です。講師から学生たちに一方通行で何かを教えるというのではなく、学生たちからもアクションがある双方向の講義を実現しています。学生たちから何らかのアクションがあるということは、自分の頭の中で解釈し落とし込むプロセスを行なっているということ。それによって学生たちの学習はさらに進みます。

ただ、1クラスに50名ほどの学生がいますから、挙手してもらうには少し人数が多すぎますし、そもそも大勢の前では自分の意見を発言しにくいもの。そこで私の講義ではslidoというツールを使って、リアルタイムにアンケート回答や質問ができるようにしています。

最初は理解度チェックのアンケートに回答してもらうなどアクションすることのハードルの低いところから参加してもらい、徐々に質問がしやすくなるようにして、自分の発言を積極的に発信できるように設計しています。

また、どんな意見でも言いやすいように、講義のルールとして、「どんな意見も尊重し、フラットに受け入れられながらも、批判的な視点で眺めてみよう」ということを大切にしています。公序良俗に反することでなければ、どんなコメントも大歓迎です。

よく「何か質問ありますか?」と言う講師がいますが、私はそれを聞いた時点で講師の負けだと思っています。何か聞きたくなるくらいの講義にすることと、それを学生自らがすぐに聞けるような環境を作ること、この2つがインタラクティブ性を引き起こす鍵だと感じます。

最初はこの仕組みが機能するのか、学生がついてきてくれるか、乗ってきてくれるのか、一抹の不安がありましたが、3回くらい講義の中で続けていくうちに学生の皆さんたちも素早く順応して、あっという間に質問やコメントが多く投稿されるようになりました。

▲アイデアの決定を四段階評価を用いて行ったワークでのコメント

再帰性、反転学習、インタラクティブ性。
この3つが私の講義においての大きな特徴と言えます。同時に学生とよりよい講義を作り上げていく私の心強い武器ともいえます。

このような創造性を高める講義をしているところというのは、大学の中でもおそらくほとんどないのではないでしょうか?
世界中の革新的な企業、先進的な企業に直接会いに行き、協働する中で得られたエッセンスを日本の民間企業の教育に提供してきた10年間ほどのエッセンスを、学術界、教育の世界に持ち込んで講義をしています。少し大げさかもしれませんが、小中高大の日本の学校教育の中で恐らく一番先進的な講義をしているという自信があります。
調べたわけではありませんので、事実であるというよりもそのくらいの気持ちを込めて講義をしているということです。

今まで私が約20年間の社会人人生で経験してきたことを全て知識として詰め込んで学生の皆さんに余すことなくお伝えしているので、どうか私の人生が皆さんのお役に少しでも立てば良いなと思いながら学生さんたちに日々向き合っています。

次回からは全14回の講義の中身についてご紹介していきたいと思います。

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