3頭の三冠馬全レース走行データ、そして稀代の名牝ラストラン

ジャパンカップで激突する、3頭の三冠馬の全レース個別ラップと100m毎の平均完歩ピッチを公開しておきます。一応スクショを貼っておきますが、見にくいと思うのでExcelをダウンロードして各自眺めるとよろしいかもしれません。また、私算出のスピード指数の値も加えておきました。指数を補正するイメージも付け加えてあります。

アーモンドアイ1

デアリングタクト1

コントレイル1

アーモンドアイ2

デアリングタクト2

コントレイル2

いよいよアーモンドアイのラストランとなりました。デビューから3年少々経ちますが、その間、実に楽しい思いをさせてくれました。デビュー当時から私が同馬をどう捉えていたか、改めて書いてみたいと思います。

距離カテゴリーこそ違えど、最強馬論争に名を連ねても全くおかしくない名馬ロードカナロアの初年度産駒ということで、デビュー前から気にかけていた馬でもありました。アーモンドアイの血統についていろいろ書きたいところですが、あまりにもマニアックな内容となるので、細かい部分は抜きにできるだけシンプルに。ロードカナロアとフサイチパンドラの組み合わせで目に付くのはNureyevの5×3。Nureyev産駒といえばPeintre Celebre。私としてはスピードで凱旋門賞を制した印象が強いのですが、優れたスピードを有するロードカナロアと、スピード・スタミナの優秀な血を豊富に持つフサイチパンドラの仔なら、将来像としてPeintre Celebreような馬になってくれるかも、言い換えれば2400mをレコードで勝つような馬にならないかな、なんて考えたりしながら期待していました。

ところが新馬戦は負けてしまいました。何故新潟芝1400m戦に出たのか、よくわからないんですが、しかも当レースの出走馬は勝ち馬とアーモンドアイ以外、JRAで勝ち上がったのはたったの1頭。よくも負けたなと今更ながら思います。

アーモンドアイの能力の片鱗を見せたのが2戦目東京芝1600m未勝利戦。当時サラブレで連載させてもらった「衝撃ラップクローズアップ」の高評価2歳馬で取り上げました。この時期の2歳未勝利戦としては勝ちタイム、上がり600mともに上々の内容でしたが、鞍上ルメール騎手がほとんど追うこともなく、またアーモンドアイ自身もギュンと踏み込むことなく終始余裕を保ちながらの走り。2歳での勝ち上がり馬は、反応良くスパートするケースがほとんどで、圧勝する場合はゴール間際で緩めているものの、スパート中は車のエンジンで例えるとレッドゾーンまで回転数を上げています。しかしアーモンドアイは明らかにそれとは違いました。意図的にレブリミット縛りで走っており、もしレッドゾーンまでブン回したら、3戦全勝の2歳牝馬チャンピオン、ラッキーライラックを凌ぐんじゃないか、と思った次第でした。

3戦目シンザン記念ではレッドゾーンまで踏み込みましたが、正味300mほどのスパートで全くの想定内の内容。その時点では、まだまだG1を8勝もするほどの将来像が見えていたわけではありません。果たして500~600mでの全開スパートだとどうなるか、興味はそこにありました。そして、その全貌が明らかになったのが桜花賞。サラブレの桜花賞回顧をご覧になった方は覚えていらっしゃると思いますが、ピッチをグンと上げて加速し、その後はスピードを維持するためにストライドを伸ばし、まるで人間のスプリンターのような走りを見せてくれました。坂を下る残り400~200m区間よりも、坂を上る残り200mからの方がストライド長を伸ばすという、驚異的な内容。まさに「天才少女」と形容すべき快走劇でした。

オークスは緩いペースでの順応力が今一つで、じれて早めに踏み込んでしまうというレースとなり、終盤は若干脚が上がり気味には見えましたが、秋華賞では道中非常にリラックスした走りで、強烈な末脚が一閃。残り200m地点では2着に入ったミッキーチャームと0.43秒ほどの差がありましたが、ゴール板では0.25秒ほど差を付け完勝。これでPeintre Celebreのように2400m戦をレコード勝ちするという現実味が帯びてきました。

サラブレ2018年12月号でのアーモンドアイ三冠の軌跡を執筆した際、文末にジャパンカップ展望を書きました。当然レコード勝ちを予測しようと思いましたが、センセーショナルなレコードとするのか、あるいは現実っぽいレコード予測にするのか、大いに悩みました。以前のジャパンカップのように終始イーブンに近いラップで2400mを走るようなタイプではないと見立てていた他、天皇賞・秋の後、馬場の高速度が維持されるのかどうかも、当時は少々懐疑的であり、やはり末脚特化型というアーモンドアイの特徴を生かした形、そして天皇賞・秋よりマイルで0.5秒遅い馬場という想定で推定タイムを弾き出してみよう、という結論となりました。前後半72.8-69.0、上がり1000m-800m-600mを56.7-44.7-33.1。ところが現実には前後半71.9-68.7という、私の予想以上に中盤で高速巡航を行い、驚愕のレコードをマーク。ちなみに現実のように馬場の高速度がずっと維持されたとしてMAXで想定したタイムは2着のキセキがマークした2:20.9でした。

4歳以降のレース内容に関しては、いくつかnoteで記事を起こしています。改めてご覧いただければ。

2019有馬記念振り返り

アーモンドアイ 2020安田記念 振り返り

2020天皇賞・秋 振り返り

他のレースでは、2019安田記念での怒涛の末脚が印象的です。スタート時のアクシデントの影響で後方からのレースとなりましたが、後半1000m55.1。とんでもなく速いです。しかも最後の直線ではアクセルを踏みっぱなしのような末脚でもありました。また、2020ヴィクトリアマイルでは、キャリアハイの値となるピッチまで上げてスパートしましたが、その一方、ラスト100mでは逆に大きくピッチダウン。これ、急ブレーキと言ってもオーバーじゃないほどの緩め方。数々のレースで大きなインパクトを見せ付けた、稀代の名牝でした。


デアリングタクトとコントレイルは、ジャパンカップに向けての簡単な展望をサラブレ2020年12月号で触れていますが、両者ともやはり道中折り合ってレースを進められるかがポイント。特にデアリングタクトに関しては、追走時の反応が良過ぎるところがあり、道中押し上げる際、敏感にピッチをあげてしまう点が顕著です。また、オークスでも1コーナー途中で折り合いを欠いた瞬間、しばらく逆手前で走るシーンがありました。序盤から上げ下げの少ないペースでレースが進むことが条件となりそう。ラップ表に記した指数レベルで考えると、今回は未知なるステージへの挑戦。とはいえ三冠レース全てにおいて、スムーズなレースが一度たりともなかったのは事実。きっちり余力を保ちながらの追走となれば、現役トップレベルの末脚を見せてくれるでしょう。

コントレイルもデアリングタクトと同様、歴戦の古馬によるレースペースへの対応力は未知数ですが、緩いペースで走るのが苦手なので、淀みのない流れになってレースレベルが上がるのはさほど問題ではないように思います。日本ダービーは底がどこにあるのかわからない余裕十分の内容。東京芝2400mは、3頭の中でコントレイルが最も合う舞台でしょうし、激戦となった菊花賞での経験がモノをいえば、グンとパフォーマンスを上げてくる可能性は大。

無敗の三冠馬2頭の挑戦を受ける形となるアーモンドアイですが、馬場の速さの影響があったとはいえ、ラストスパート時に200m10秒台のラップを刻んだのが14レース中8レースもありました。こんな馬は今まで皆無でしたよ。決してスローに流れた時のみマークしたわけではありません。自分のリズムで追走し、その流れのままラストスパートを繰り出すと、他の馬が負かすことは非常に困難です。もし綻びがあるとすればオークスの時のように、じれて一気に脚を使ったケースでしょうか。

キセキが京都大賞典で、じっくり後方で構えるレースが行えた以上、レースを引っ張りそうな馬が見当たらないと思っていたところに、逃げて良績を上げているトーラスジェミニが参戦決定。マイルあるいは1800m戦での逃げ馬というトーラスジェミニが労せずハナに立ちそうですね。トーラスジェミニの鞍上は田辺裕信騎手。自身が騎乗していた時のペースを2400m戦に置き換えて逃げるのが順当なところでしょうが、一か八かの大逃げか、あるいはグッとペースを落とす作戦に出ることも考えられますね。基本的にレースがしやすいのはカレンブーケドールの番手を取った形かなと思います。何はともあれ、競馬史に残るような激しい戦いとなることを期待しましょう。

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