時評2022年7月号
沖縄と短歌
2022年5月15日、沖縄返還から五十年経過した。それをテレビで見て「ああ今日が」と知る。ただ聞き流してばかりではいけないと思い、歌壇5月号「沖縄と短歌」(沖縄復帰五十年)の特集を読んでいる。あらためて社会詠、時事詠をエンドユーザー(読者)として読むことの難しさを思っている。
総論で返還の前後から現在まで社会・歴史的な背景、対象を沖縄在住の作者の歌集、雑誌より採取。返還当時に作られた歌もあるが、出版時期が離れていることも多いようだ。
祖国復帰の運動から、反ナショナリズム的高揚感、「反戦・自治・人権を訴える」としており社会詠として読んだ。
二七度線劃せし地図を描き直すこの安らぎを長く待ちたり
國吉順達『風道』一九八九年
地図を描き直す具体的な動作から、結句は復帰の安堵という主張が明確。
石抱きの刑のごとしもブロックを重く沈める辺野古の海に
屋部公子『遠海鳴り』二〇二〇年
石抱きの刑は耳慣れないが、重いもの抱えさせられる状況がわかる。2000年前後の歌には「発想・語彙・技巧」において変化があり、怒りと抗議をストレートに出さしていないという。ブロックが沈む様子は映像からの情報かもしれないが、作者の地域性からもう少し重いものを感じる。
吉川宏志は沖縄返還当時の歌を総合誌と新聞から挙げる。「時代の証言ともいうべき歌」がいくつもあった。
交換を終へし帰るさゆりなくもドルの手ざはり甦りくる
屋部公子一九七二年九月短歌研究新人賞応募作品
日円の数字多きに困惑し媼が怒りて焦点を去る
垣花良香一九七二年八月短歌研究読者投稿欄
一首ごとだと状況がわかりにくいが、連作や歌集の中で日常でもあり時事でもある背景がわかる。
同じく時代の声である投稿欄は少し調子が違う。「朝日歌壇」より宮柊二の選。
沖縄の返りくる日と出稼の飯場が立てし日の丸の旗
(埼玉)田方田民雄
新聞投稿は全国紙で沖縄県の人の歌が少なく「視点の偏りが存在する」と書かれている。先に挙げた二首より情景と主張がわかりやすいのは一首で成り立たせないといけない投稿欄だからだろう。
黒瀬さんの五十首の選歌には釈迢空から現代までの作品があり様々な視点からの歌を読むことができた。
読むうちに社会詠・時事詠の読み方について難しいと思った。「証言」として地域・歴史的背景を大事にしたいが、作品そのものの発表の場、読者の立場も影響も気を付けたい。読者にも記事や評をする人、エンドユーザーがある。また引いた一首は誰のものなのかとも思う。
社会詠・時事詠など意識して読みたいと思っている。ただ自分の受け取り方、反応は大事だが、作者・筆者の意図を読み取ろう、早とちりしないで何回も読みなおそう、孫引き気を付けようという自戒をもった。
(佐藤華保理)