マガジンのカバー画像

2021年・年間テーマ〈特集「都市」を詠む〉

9
運営しているクリエイター

記事一覧

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑨

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑨

 上京する人、イカを割く人 
       北山あさひ 違星(いぼし)北斗(ほくと)は明治三五年に北海道余市(よいち)町に生まれた。アイヌであるために、小学校で和人の同級生から虐めを受けて進学を断念。病気がちな体であったが、道内各地で鰊場・鉱山の手伝いなどをして働く。大正十三年頃から俳句や短歌などの創作を開始。十四年に上京し、東京府市場協会事務員の職に就く。金田一京助らと親交を深めるうちに、アイヌ

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉④

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉④

『光と私語』から考える都市の空気感     狩峰隆希

 ルームツアーを通して、その人の部屋やライフスタイルのこだわりについて紹介する「キオク的ルーム」というコンテンツがある。ライフスタイルリビルディングチーム・キオク的サンサクの企画の一つで、YouTubeにも動画が上げられている。その第4回「20代美大生〝アメリカンダイナー〟がテーマの1Rひとり暮らし」がエッジの効いた内容でおもしろかった。洋画

もっとみる

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑧

疎外と倦怠、あるいは犯罪
       滝本 賢太郎
ご隠居「おお、熊さん、そんなに息せき切ってどうした?」
熊五郎「いやね、ご隠居、都市詠について一席ぶってくれと言われたんですが、全ッ然浮ばなくて」
隠「ふむ、都市詠か。しかしそいつは難しい、お前さんが慌てるのも無理はない。だいたい都市なんてもんは、幻みたいなものなんだ」
熊「幻ですか?でもご隠居、あたしら都市も都市、大都市って言われる東京

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑦

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑦

さびしい都市の窓、それから虫(バグ)
          麻生由美 「都市」と呟いて瞑目すれば浮かび上がるヴィジョン。それは、夜の東京。人工の光を放つ高層建築群。高架を過ぎてゆく電車の灯り。そこには人がいっぱいいて、それでいてひどくさびしい。もの悲しい。人気のない過疎地のさびしさとは異質のさびしさ。そのさびしさ、もの悲しさはどこから生まれるのだろう。
「都市」の対である農村、あるいは地方のことか

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑥

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑥

多様な表情
         今井恵子 まだ街のあちらこちらに、戦争の名残が色濃くただよっていた東京の世田谷で、わたしは生まれた。三鷹、国立、横浜と移り住み、今は埼玉の鴻巣に住んでいる。あらためて、関東地方の地図を開くと、東京という巨大都市が、戦後急速に膨張してゆくにしたがって、東京の同心円を外側へ、つまり周縁へ移住しながら街の変貌を眺めてきたのだと気づく。
 東京にかぎらず都市の周縁は、郊外とか

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑤

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉⑤

「会いたさ」としての都市・東京
        塚田 千束 都市という言葉がはらむ意味はあまりに大きい。そこに集う人々、その場を形成する構造物、元からの土壌、歴史の積み重ね、すべてがあつまり混ざり合い、一言にするには難しい巨大なる「なにか」として日々その形を変えつつある。日本の都市といえば真っ先に思い浮かぶのは東京だろう。ほかにも横浜、大阪、名古屋なども大きな都市ではあるが、それぞれのもつ雰囲気は

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉③

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉③

  可視化されぬ闇                富田睦子

 一月七日、私の住んでいる東京都を含む南関東一都三県では再び緊急事態宣言が発出され、飲食店を中心にした時短営業やリモートワークの推進などが要請された。リモートワークはともかく、時短や交通機関の減便はかえって営業中に人が集中するのではないかと疑問なのだが、要は企業や市民のメンタルに訴えかけ「自粛」マインドを作るための施策なのだろう。
「都

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉②

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉②

花の都から            後藤由紀恵

 花の都、と聞いて浮かぶ都市はどこだろうか。パリ、ロンドン、ニューヨーク、いずれも当てはまりそうだが、私は断然「大東京」である。一九八八(昭和六十三)年、私が十三歳の時にテレビドラマの主題歌として大ヒットした長淵剛の「とんぼ」という歌の一節が見事に刷り込まれている。(因みにドラマは見ていないし、一曲を歌える訳でもない。)「とんぼ」の歌詞の若者は東京に

もっとみる
年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉①

年間テーマ〈特集「都市を詠む」〉①

  都市の見せる顔            広坂早苗  都市と文学といえば前田愛を思い出す。前田が早世したのは私が大学生の時だったが、死の前年の一九八六年に出版された『幻景の街』がおもしろかった。「文学の都市を歩く」という副題が付されているエッセイ集で、文学作品に描かれた都市(主に東京)を前田が実際に歩き、作品内容と舞台である都市の結びつきについて読み解いてみせるものである。学生の私はその鮮やかな考

もっとみる