とわっぽりん
生まれた時に、おばあ様から贈られたサイコロのペンダント。
それに、おばあ様がお星さまになる前にもらったお手紙にいっしょに入っていた、不思議な地図。
ずっとなんだか分からなかった。
あの日、屋根裏部屋にこっそりしのびこむまでは……
「ねぇ、きみはだれ?」
入ってはいけないと言われた屋根裏部屋に、こっそりしのびこんだ私に、小さな男の子の声で誰かが話しかけてきた。
えっ!?
ここは誰も入っちゃダメって……
「だ、だれ!?」
驚きのあまり、声が少し変になってしまったけれど、そんな事は気にならなかった。
「ぼくはトランポリンだよ」
小さな男の子の声はそう言う。
「えっ?とわっぽりん??」
「ちがうちがう、ト・ラ・ン・ポ・リ・ン」
「と・わ・っ・ぽ・り・ん??」
「困ったなぁ、言いにくいのかなぁ」
困った様子のその子(?)を見て、私はこう提案した。
「でも!とわっぽりんてお名前の方が可愛らしいわ!」
そう頑張って言った私を見て、男の子の困った声は笑い声に変わった。
「なるほどね、うん、確かに可愛いのかも」
と、とても楽しそうに笑うその子の声につられて私も笑う。
「ね!可愛いわよね?」
「うんうん、とても気に入ったよ」
「じゃあ、今日からぼくはとわっぽりんと名乗ろう」
トランポリンと言うのは、遊び道具の名前で、名前ではなかったのだと、とわっぽりんは話してくれた。
「じゃあ、本当のお名前は?」
「ぼくには名前が無かったんだ、だからきみがぼくに名前をくれたんだよ、ありがとう」
とにっこり嬉しそうに笑う、とわっぽりん。
そんなとわっぽりんを見ていると、こちらまで嬉しくなってくるから、とわっぽりんて不思議な子だなぁと思わず見つめてしまう。
「そう言えば、きみの名前は?」
「私?私はナルよ」
「ナルちゃんだね、よろしくね」
「えぇ、こちらこそよろしく」
とわっぽりんは、最果ての国から来たと話してくれた。最果ての国?どこかで聞いたような……
「あれ?ナルちゃん、きみの着けているそのペンダントって……」
「これ?これは生まれた時におばあ様から贈られた、私の宝物よ」
「それは最果ての国のものなんだ、もしかしてきみのおばあ様って、最果ての国の人だったんじゃ……」
そうとわっぽりんが言うのを聞いて、私は前におばあ様から寝る前に聞いたお話を思い出していた。
”私はね、この国の人間じゃないんだ。最果ての国という、魔法を使う国からおじいさんのお嫁さんになりに来たんだ”
「そうだわ、もしかしたらあのお手紙に入っていた地図も……!ちょっと待ってて、持ってくるわ!」
私はこっそりしのびこんだ事も忘れて、慌てて屋根裏部屋から自分の部屋へと走って戻った。そして、おばあ様からもらったお手紙と地図を持って、またとわっぽりんの所へと急いで戻る。
はぁはぁと息を切らせて戻ってきた私を見て、とわっぽりんが驚く。
「ナルちゃん、ぼくはどこへも行かないから、ゆっくりで大丈夫だよ」と笑顔で迎えてくれる。
「うん、ありがとう。ねぇ、とわっぽりん、これ」
と、ずっとなんだか分からなかった地図を差し出す。
「あぁ、これも最果ての国のもので、魔法の地図だよ。きみの持っているそのサイコロと、この地図、そしてぼくが揃うと、不思議な旅が出来るようになっているんだ」
「不思議な旅?それって、楽しいの?」
「あぁ、すっごく楽しいと思うよ♪ぼくと一緒に行ってみない?」
「とわっぽりんとなら、行ってみたいわ」
こうして、私ととわっぽりんの小さな旅は始まったのでした。
「ねぇ、とわっぽりん。ここからどうやって旅へ出られるの?」
屋根裏部屋から旅に出るって、何だか想像がつかなくて聞く。
「まず、ナルちゃんのペンダントのサイコロを、チェーンから外してもらえるかな?」
とわっぽりんに言われた通り、私はペンダントのチェーンからサイコロを外した。
すると、サイコロはふんわりと光出して、淡い空色に変わり、空中を転がり出したからびっくり!
「とわっぽりん!サイコロが光って飛んでるわ!」
驚いている私に、とわっぽりんは涼し気な顔で言う。
「ナルちゃん、サイコロは光って跳ぶものだよ」
そんなことは、生まれて初めて聞いた私に、とわっぽりんは軽くウインクして付け足す。
「最果ての、魔法の国では、ね」
そうだ、おばあ様の国は、魔法の国だったんだわ……魔法の欠片を目の当たりにして、私の気持ちは、ドキドキとわくわくでいっぱいになってきた。
「じゃあナルちゃん、この地図なんだけどね」
「うん!」
「これを持って、ナルちゃんの大好きな楽しい絵本や物語のお話を思い出してみて」
「?分かったわ」
魔法は分からないことだらけだなぁと思いながら、私の大好きなお話を思い出していく。怖いお話は嫌いだから、明るい楽しいものばかり。
すると、今度は地図がぽわっと森色に軽く光ってくるくるっと1度まるまってからたいらにばっと開いた。
「よし、これで準備できたよ!」
「これで旅に行けるのね♪でも、どうやって?」
「ものは試し、ナルちゃん、サイコロを捕まえて振ってみてごらん?」
とわっぽりんに言われるままに、宙を跳ねているサイコロを捕まえて振ってみる。
「とわっぽりん、3が出たわ」
「よーし、3だね。じゃあ、今度はナルちゃん、ぼくの上で3回ジャンプしてみて」
私はびっくりしてしまった。お友達の上でジャンプ?そんな事したら、とわっぽりんが痛いのではないかと心配になってしまう。その事を涙目でとわっぽりんに話すと、ちょっとびっくりしながらも、笑って説明してくれた。
トランポリンという遊び道具は、上でジャンプして遊んでもらう為のものである事。それと、とわっぽりんは魔法の国から来たトランポリンで、特別製なのでお話も出来るし、痛かったりする事は全くなく、むしろ私と一緒に旅に出られるのがとても楽しみである事を、優しく教えてくれた。
とわっぽりんが痛くなくて楽しみなら、と私は怖々ながらもとわっぽりんの上に乗って、3回跳ねてみる。
ぽよーん、ぽよーん、ぽよーん♪
「すごく不思議な感じ……本当に痛くはない?」
「もちろん、だってぼくはトランポリンだからね」
その直後だった。
地図が急に光出して、目が眩む。
そして、薄ら目をやっと開けられた頃には、私はとわっぽりんと2人、全く知らないところに居た。
「えっ!?ここは、どこ?」
「ここはあの地図の中の、3つ目の場所だよ。あのサイコロを振って出た目の場所に地図で進むことが出来るんだ」
それにしても、どこかで見た事があるような……?
「ねぇ、ここ、私見た事がある気がするの」
「それはそうかもね、ここはナルちゃんが大好きな絵本や物語のお話の中のどれかの世界だから」
ここが、物語の世界……?
驚くより嬉しさが上回った私は、思わず辺りを見回していた。ここは確か……なら、そろそろ会えるはず!
思っていた通りに、青いドレスの女のコが走ってきた。そして、黒いウサギに追いかけられている。困っているのを助けに来る男の子が居るのだけれど……あら?来ない?
「とわっぽりん、お話と少し違うわ、助けに来るはずの男の子が来ないの」少し焦りながら言う私を見て、
「じゃあ、ぼくらで助けてあげようか」と微笑む。
黒いウサギを追い払うと、青いドレスの女のコはお礼を言って先を急いで行った。
その後遅れてきたかのように、助けるはずだった男の子がやってくる。青いドレスの女のコが先に行ったことを聞くと、物凄い速さで追いかけて行った。
「先に助けてしまって良かったのかしら?」
「大丈夫だよ、この先でも男の子が助けていくんでしょう?それに、お話に関わっても、旅が終わったらお話も元通りだから大丈夫♪」
「それなら安心ね♪」
黒ウサギと青いドレスの女のコのお話のあとも、私はとわっぽりんとサイコロを振ってはとわっぽりんでジャンプして、色んな物語の世界に入って旅をした。
中には白雪姫やシンデレラの世界もあって、ドレスに着替えて舞踏会体験も出来た。
そして、もう何度目かのサイコロを振った時、私ととわっぽりんはお部屋へ戻ってきていた。
「あれ?お部屋??」
「今日はもうゴールに着いたみたいだね」
サイコロでもう進めなくなるとゴールなのだと教わった。
「旅って、物語の中を旅出来ることだったのね、ステキだったわ!」興奮して話す私。
「そう、いつもちがう物語を思い浮かべれば、また別の旅が出来るんだ。怖いお話はあまりオススメしないけれどね」と笑いながらとわっぽりんは言った。
「ねぇ、とわっぽりん?これ、夢じゃないわよね?また、一緒に旅に行けるわよね?」急に不安になって聞いた私に、とわっぽりんはこう言った。
「ナルちゃんが望んで、サイコロと地図がある限り、いつでも旅に行けるよ♪だから、安心しておやすみ」
そう、私は眠れなくて夜中に屋根裏部屋にしのびこんだのだった。
「心配なのなら、夢ではない証に地図にぼくのスタンプを押しておこう」と、とわっぽりんの手形(?)を地図に足してくれた。
「ありがとう、とわっぽりん!おやすみなさい!」
部屋へ戻った私は、沢山遊んだからかすぐに寝てしまった。
翌朝。
起きて初めに私がした事は、地図を見ること。
そこには確かにとわっぽりんの手形(?)があった。
そして、朝食を済ませてからそーっと屋根裏部屋へ続く階段を上る。
「おはよう、ナルちゃん。今日はどんな旅へ行こうか?」
「とわっぽりんとなら、どこへでも♪」