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パスポートと結婚と不毛

パスポートを申請した。
姉の「結婚したら名字変わるから面倒だよ!」の圧に負けて、結婚の予定もないのに5年で申請した。

なんという不毛。
別に虚しくはないが。

そういえば彼は「不毛」の意味を知らない人だった。

彼が私のことを好きだと言った何回目かのとき、私は可愛げもなく、照れもせずに「そっか。」とだけ言った。

たしか彼は苦笑いしながら「他になんかないの?」とか聞いてきた気がする。

そして聞いたのだ。
「私、こんな返事ばっかりしてるのに不毛だと思わないの?」と。

彼は「不毛ってなに?」って聞いてきた。


私はこんな話をしているのに、情緒もなく、やっぱり可愛げの欠片もなく、スマホで意味を調べて読んで聞かせた。
彼は運転席で「ふーん。」とだけ言った。

私の質問に対する答えはなかった。

彼と連絡を取らなくなってからも私は平気で暮らしている。

彼が「おでこ」と言いながらぱしっと手を当てた私のおでこは、切りそろえた前髪で隠れている。
地下鉄の風に飛ばされて、丸出しになる。
重力に従って戻る。

私の突発的な彼への罪悪感も、きっとすぐに消える。

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