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ヘッドハンター

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直近で作っていたものが、同じ世界観のお話なので、マガジンにまとめてみようと思いました。ヘッドハンターが、フリークスのボス〝ヘッド〟とそれを慕うものたちの頭を狩るお話です。登場人物…
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エクセプションナイン

エクセプションナイン

 砂煙が立ち込めるなか、視界が揺らいでいた。ここに立つと周りの音が聞こえなくなる。アタチは相対するフリークスにグッと焦点を合わせ、その挙動に神経を尖らせた。
『覚悟しろよ、泥棒猫。お前は裏切り者だ』
 射抜くような鋭い視線に、そう言われたような気がした。
 手のひらに、じわりと汗が滲む。
「やるしかない」
 振り絞るように出た声。それは、アタチの声だった。
 こんな崖っぷちに追い込まれることになる

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ハロウィンナイト

ハロウィンナイト

 この時期になると思い出す。
 スクールに通っていた頃、ハロウィンナイトに憧れを抱いていた。サクラでこの文化が広まって、どれくらいだろう。トリックオアトリート。アタチにはイタズラしかできないけれど。

 梟のお屋敷のコレクションルームの最奥、薄暗いこの部屋には照明らしきものはない。それでも部屋の中が見渡せるのは、アタチの夜目が利くから。唯一の採光口の天窓から、切断された爪のような細い月が、頼りない

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トリマー

トリマー

 ヘッドハンターやフリークスは、動物や虫に喩えられることが多い。
 僕の場合は、蜻蛉。蚊が絶滅して、それを狩っていたトンボの数は減ったけれど、僕のイメージするトンボはオニヤンマだ。優れた機動力と攻撃力を備え、さながら戦闘機のようなカレらは、スズメバチさえも狩る。
 僕の熱心な仕事ぶりから、そう喩えられたのかというと、そうではないらしい。僕の屋号は仕分人で、フリークスを仕分けている。仕分けとは、要る

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ラプター

ラプター

 ずっと、泥棒猫と呼ばれてきた。
 実際、たくさんのものを盗んできた。アタチは、この才能は神様からの贈り物だと思っている。いつか、この才能は神様にお返ししなければいけない。盗んだものを返したことはないけれど。
 神様ってホントにいるの? わからない。でも、それに近い方は存在する。ジェミニの双子やウッドペッカーさんに会って、その神秘的な力を見て確信した。猟犬たちと戦って、傷だらけで帰ってきたキツツキ

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ブランクヘッド

ブランクヘッド

 昼前には目が覚める。
 バーの開店は夕方からだが、この時間には起きてしまう。
 ブレインレス(脳なし)と呼ばれるようになって久しいが、そんな俺の空っぽの頭と関係なく、体は習慣を覚えている。
 俺にもまだフリークスとしての因子が残っているらしい。だから、あんな夢をみた。きっとすべてのフリークスがみたはずだ。

 ――あー、ハローエブリワン。
 あー、あー。うーん。好きな言葉だ、エブリワン。なぜなら

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ストレイキャット

ストレイキャット

 バー『ne'er-do-well(能無し)』の扉を押し開けると、重く湿った空気が鼻先に触れる。うす暗い照明の下、カウンターに見知った顔がいくつも並んでいる。
 協会員御用達のこのバーに俺が求めるのは、喉を潤す酒でも舌がとろける料理でもなく、耳寄りな情報だ。誰でも酔いが回ると口の締まりが悪くなる。
「やっと見つけたぜ」女王蜂の隣に、俺は腰を下ろす。
 むっと焼けた肉のようなにおいが蜂から漂う。正直

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ホワイトラビット

ホワイトラビット

 害虫が死んだ。私にはわかる。
 ヘッドハンターの隔離施設に囚われて、死と再生を繰り返し与えられていた。やっと、ちゃんとぶっ殺してもらえたんだね。おやすみ。ペスト。
「どうしたんだよ、白兎。浮かない顔して。気持ちよくねぇのかよ」
 三月のウサギが私の顔を覗き込む。気持ちよくねぇんだよ。下手くそが。
「ううん。とっても気持ちいいよ」
「わかった。あれだな。ノロマなカメのカレシのことを思い出して後ろめ

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ドンガメ

ドンガメ

 ディナーの予約時間はとっくに過ぎていた。
 テーブルにはコースの料理が次々と運ばれてくる。メインディッシュを配膳した給仕はバツが悪そうな顔をした。
「僕が二人分食べますから、気にせず置いていってください」
 それは見事に焼き上げられた肉の代替品だった。植物由来のタンパク質を使用しているようで、見た目はプラントベースミートだなんてわからない。
 しかし、どこか味気ない。本来臭み消しに使われるローズ

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リセマラ #2

リセマラ #2

『聞こえていますね』
 通信機のイヤホンから、抑揚のない声が聞こえる。これがAIのマム。
「はい、聞こえています」
 アタチはこたえた。だけど、マムからの返事がない。
「プレスボタン」
 少し離れたところにいるウッドペッカーさんが、通信機の側面をトントンとたたくジェスチャーをした。プレスボタンを押して話せ。それにしても、大怪我から帰ってきたばかりなのに、もう動けるなんて。
「あ、ごめんなさい。聞こ

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リセマラ #1

リセマラ #1

 私は子どもの頃に、わがままを言って母様を困らせたことがあります。
 コインを入れてレバーを回すと、カプセルに入った玩具が出てくるあの販売機です。私は『ガチャ』と呼んでいました。ガチャをやらせてほしい、と母様にねだったのです。
 母様は、一度だけなら、と私にコインをくださいました。私はガチャにコインを入れて、レバーに手をかけます。浅ましくも、私は神様に願ったのです。どうかネコのフィギュアが出てきま

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ハウンドドック #2

ハウンドドック #2

 セッターの声が聞こえなくなった。
 ウッドペッカーの野郎、気が付いたか。セッターは、攫われた女のフリをして奴を油断させる作戦だった。
「なあ、シューター知ってるか。この地下鉄の使われなくなった線だけどな」
 ポインターが俺に話しかける。別に俺たちはのんきにおしゃべりをしているわけではない。
 俺はボウガンの矢を放つ。
「また、外れたな。で、メトロの廃路線がなんだって?」
「ここな、墓場になるらし

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ハウンドドック #1

ハウンドドック #1

 フリークスたちの会話が、地下迷宮にこだまする。
「シューター。ウッドペッカーの野郎、足に矢がヒットしたぜ。血のにおいがする。もう逃がさないからな」
「ああ、ポインター。その調子でたのむ。ここをアイツの墓場にするぞ」
 墓ってのは、墓じまい、いわゆる〝卒業〟しない限り増える一方だそうだ。都市部では、墓場の土地が足りなくて困っているって話だ。
 このメトロの廃路線の再利用に関する案は二つあった。一つ

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リトルハンマー

リトルハンマー

「キミがウッドペッカーさんのお使い?」
 カウンターから顔を覗かせる女の子にオレはきいた。
「そうよ。メンテナンスは終わっているんでしょ」
 確かに、ウッドペッカーさんの刺突ナイフ、ピーピングトム(覗き魔)のメンテナンスは終わっている。
 しかし、この女の子、もしかしたら成人しているのかもしれないが、あの悪名高いフリークスのテリトリーのホテルに出入りしている子じゃないか。小柄なため幼く見えるが、油

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