『北田卓史原画の部屋』 クリスマスの夜
今年ももうすぐクリスマスです。今回は、クリスマスを描いた原画を見つけてきましたので、紹介します。
まずは、こちらです。
この絵は、1997年に表参道のクレヨンハウスが企画した「101人のサンタクロース展」に出品した作品です。101人の画家がそれぞれ思い思いのサンタクロースの絵を競作し、展示する企画でした。
サンタクロースは、トナカイのそりではなくヘリコプターの操縦桿を握っています。北田の作品らしく、ヘリコプターのエンジンやローターのメカがそれらしく描かれています。ヘリコプターに乗ったサンタというのは、展示されていた作品の中でも異色だったのではないでしょうか。
こちらは、絵本出版社の至光社がキリスト教幼稚園・保育園向けに毎月発行している「こどもせかい」の1962年12月号の表紙の原画です。
クリスマスの夜の街を上空から見下ろすようなアングルで描いた一枚です。
子どもたちがキャンドルを持って教会に向かっています。家々の窓の中では、サンタに扮したお父さんが子どもたちにプレゼントを渡したり、クリスマスの飾りつけやケーキを作ったり、楽器演奏を楽しんだりしています。
レンガ造りの教会や街並みは中世から残るヨーロッパの城塞都市のようです。車道に面した商店の風景もどことなく北ヨーロッパのクリスマスマーケットのように見えますが、郵便ポストのマークは日本の郵便局のもの。日本のどこかにある架空の町という設定でしょうか。
屋根に雪が積もる冬の街の風景と、部屋の中の暖かい暮らしや子どもたちの持つキャンドルの灯りを対比させて、クリスマス・イブに浮き立つ人々の気持ちを表現しているようです。
こちらは、1965年の作品で同じく「こどものせかい」に掲載されたものです。
雪が積もった丘を、子どもたちがキャンドルを手にしながら、遠くに見える町の教会を目指して登っていく様子が、大胆な構図で描かれています。
画面下部の近景には、キャンドルを持った四人の子どもが左から右へと歩いて行きます。四人の子どもそれぞれの服装や表情が印象的です。葉が落ちた枝に雪を乗せた一本の木が画面の左上部を占めています。画面右の真ん中あたりから左上へ向かって丘を登ってゆく子どもたちの列。列の先頭でリーダーが何か指示しています。そして丘は、ふたたび向きを変えて画面上段を右斜め上へと続き、その先には雪に覆われた木々が見えます。丘の向こうには、星空の下、目指す町と教会が小さく見えます。
手前下の四人の子どもたちから、キャンドルの灯りをたどって順番に視線を移していくと、自然に教会までたどりつく構成になっています。
この絵が描かれた1960年代の中ごろは、高度経済成長の真っただ中。日本のクリスマスが年々華美になってきた頃だと思います。でも、こちらの絵では、宗教行事としてのクリスマスの様子が抑えたトーンで描かれています。
この後日本のクリスマスは、恋人たちのものになったり、ひとりきりになったり、時代とともに変遷しましたが、どうやら今年のクリスマスは、今回紹介したの絵のように、家の中で少人数で静かに迎えることになりそうです。
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