魅摩ちゃんの名前の由来を見つけちゃったかもしれない【逃げ上手の若君】

 ※『逃げ上手の若君』単行本6巻までのネタバレ及び、作中キャラのモデルへの言及があります。



 事の起こりは南北朝時代の公卿二条良基が著した『小島のすさみ』に関する本を読んでいた時なんですよ。
「今夜は敏満寺(みまじ)といふ寺にいらせおはします」(『小島のすさみ』)
 ん? みま? 逃げ若の魅摩ちゃんじゃん、と思って何気なく敏満寺を調べたら、佐々木道誉の菩提寺の勝楽寺と近っっっっ!!!!

敏満寺・勝楽寺の距離感

 これはガチで魅摩ちゃんの名前が敏満寺由来説あるな、と思って調べ始めたのでした。下記、基本的にネット情報ですので間違いがありましたらお知らせください。



1.逃げ若の「佐々木魅摩」のモデルについて

 逃げ若のキャラクター「佐々木魅摩」は、作中では婆娑羅大名の佐々木道誉の愛娘であり、神力を操り侠気も見せる可愛らしい人物として描かれています。
 雫や亜也子同様オリジナルキャラクターに見えるのですが、実は彼女にはモデルがいます。佐々木道誉自筆書状にのみ名前が登場する「ミま」という人物で、道誉の若い妻と推測されています。「ミま」については『人物叢書 佐々木道誉』(森茂暁,吉川弘文館)に詳しく、また道誉のミまへの深い愛情を窺い知ることができて、もう、たまらないので是非。
 以降は、実在したミまと敏満寺の関係について考えていきます。

2.敏満寺について

 では次に敏満寺について。敏満寺は12~16世紀頃に近江で栄えた寺でしたが、戦国時代に焼き討ちを受けて衰退し廃寺となりました。現在では鎮守社であった胡宮神社のみが残り、敏満寺の名残は遺構や石碑に見ることができます。冒頭で調べた「敏満寺」は地名として残っているものです。また現在は「びんまんじ」という読み方です。

敏満寺の概要: 「近江の文化財」魅力発信事業・県内文化財探訪モデルコースマップ2 (滋賀県、3ページ目)

3.敏満寺に「みまじ」という呼び方はあったのか

 現在は「びんまんじ」と呼ぶなら、「みまじ」という読みは誤りではないか? これは調べてみると「みまじ」→「びんまんじ」に変化していったようです。

 敏満寺の中世墓地 (多賀町立文化センター、2ページ目)
 …元々この地域は「水沼荘(みぬましょう)」と呼ばれ(近くにある大門池が由来?)、「みぬま」→「みま」→「びんまん」と訛っていったと言われているようです。

 猿楽みまじ座 (多賀町教育委員会、16ページ目)
 …能楽・狂言に大きな影響を及ぼした猿楽。佐々木道誉は世阿弥に猿楽などの巧者について語ったことが『申楽談義』(世阿弥)にて知られています。その『申楽談義』の中に「近江はみまじ座、久座也」という一文が出てくるようです。敏満寺の呼び方の変遷の中でも、南北朝時代には「みまじ」と呼ばれていたことが分かります。

4.「みま」に他の由来はないのか

 敏満寺が「みま」と読まれたことは分かったのですが、本当にミまの由来は敏満寺なのでしょうか。ただ音が同じだけで、由来は別の言葉では? とも思ったので、そちらも調べてみました。(以下weblio辞書)

・三間(時間•空間•仲間の総称)
・三間町(愛媛県。名字もあり)
・美馬市(徳島県。名字もあり)
・美麻(名字)
・御孫
・御馬
・みま(博徒の親分格? 隠語大辞典より)→逃げ若の魅摩イメージに取り入れられていそう
・魅魔(中国のサキュバス)→小悪魔っぽいという意味では逃げ若の魅摩イメージに取り入れられていそう

 うーん、どれも中世の名付けとしてはいまいちピンと来ません。もしくは「みま」自体が元々名前として使われがちだったのかもと思ったのですが、感覚的にはそれもないかな…と。ただ、逃げ若の魅摩ちゃんには最後の2つの要素が逆輸入されているかもとは考えられます。
 他候補も弱いですが、何より道誉の菩提寺のすぐ近くに敏満寺があるのが強すぎて、もう私にはそれ以外考えられません。他の見方があったら教えてください…!

5.寺名を女性の名前にすることはあるのか(宿題)

 というわけで、私の中ではすっかりミま=敏満寺由来説に納得してしまいました。敏満寺辺りで生まれたミまさんだったんだろうか、可愛いね。ただ気になるのは敏満寺の寺名、もしくは元になった水沼の地名を名前にすることってあるのだろうか。

 中世前期の女性名って、巴、山吹、桔梗など? イメージとして花や文様などが多く、寺名・地名が女性名、いや男性名になる例もあまり知りません。地名は家族の見分けがつかないので名字になるイメージですね。名前の中の「佐渡守」などの通称も、地名由来というよりは官職名ですし。
 ただ、上述の『人物叢書 佐々木道誉』ではミまの本名はきたで、ミまは愛称ではないかとも推測されているので、もう少し自由度が高い可能性もあります。道誉が若い妻をニックネームで呼んで可愛がっている可能性、アリですね。

 これは宿題として、『日本の女性名』という本が面白そうだったので読んで該当する事例がありそうだったら続きを書こうと思います。
 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!


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