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M-1グランプリに出場した話。

賞レースシーズンが到来しています。キングオブコントが終わり、年末にはM-1、年明けにはR-1と、継続的にワクワクしたりソワソワしたりする季節。今回はそんなM-1に昔出ました、という話です。

大学生の時うっかり留年してしまい、大学に5年間通うことになりました。理由は、必須の第2外国語(中国語)の単位が取れなかったからという、非常に情けないものでした。リスニングが全然できないのに、テストがリスニング中心の先生を選んでしまったのが敗因です。現役大学生の皆さん、授業選びは慎重に。

翌年、テストでリスニングが少ない中国語の授業を取って無事単位も取得。大学生活5年目に突入する時には幸い毎日放送への内定は決まっていましたが、親からの仕送りはしっかり打ち切られて、バイトを掛け持ちして食いつなぐという、絵に描いたような貧乏学生でした。

ただ単位はほぼ揃っていたので、時間のあるラスト1年をどう過ごすか考えた結果、M-1に出でてみることにしたのです。2003年のことでした。

今でもそうですが、M-1はエントリー費を払えばアマチュアでも出場できます。2001年に始まったM-1グランプリは、中川家・ますだおかだというチャンピオンを輩出し、すでに年末の一大イベントでした。

僕が相方に選んだのは、同じクラスだったお笑い好きのA君。A君はキー局に技術職で採用が決まっていて、僕とA君は「テレビ局の内定者コンビ」という、肩書きだけは悪くないコンビでした。

コンビ名は「カレーにチーズ。」にしました。当時僕がやっていたホームーページ(当時は個人でHPを持つことが流行っていました)の名前が「カレーにチーズ。」で、その中の企画としてM-1に出ることにしたのです。

「カレーにチーズ。」の意味は、美味しいもの(貧しくも楽しい学生生活)に美味しいもの(M-1出場とか)をトッピングしてよい美味しくしよう…ということでした。HPでは映画のコラムを書いたり、別の友人が書いたイラストを商品化しようとする企画とか、色々やっていました。大体途中で頓挫してしまいましたが。

ネタは僕が書きました。生徒会長に立候補したA君がおかしな演説をする…という設定でした。もう細かくは覚えていませんが「夏の星座にぶら下がって…ってaikoやないんやから」という僕のツッコミがあったことだけは覚えています。

僕が住んでいたボロアパートの屋上で、夜中にネタ合わせをしました。京都は法令で高い建物が建てられないので、アパートの周りには高い建物がなく、目の前の暗闇に向かって漫才をしました。そしてそれを他の友だちが少し遠くから見てニヤニヤしていました。今思うと青春そのものです。

エントリー用の写真も撮りました。

アゴに手をあてたり目線を外したり、スカシっぷりがいたたまれませんが、今となってはこれもいい思い出です。

2003年の秋、僕ら「カレーにチーズ。」はM-1の1回戦に出場するため、大阪のなんばに向かいました。会場はNGKの地下にある小さな劇場でした。

死ぬほどスベりました。

その後の人生でも定期的にスベっていますが、あれほどの時間スベり続けたことはありません。ネタ中の2分間が永遠に感じるほどの静寂。aikoにも申し訳ないことをしました。

舞台の前後の記憶はほとんどありませんが、舞台に出た瞬間のお客さんの雰囲気ははっきり覚えています。

「笑わせれるもんなら笑わせてみろ」

と全員の顔に書いてありました。M-1の1回戦から観に来るお客さんは、相当なお笑い好きです。わけのわからない大学生コンビのネタを楽しみにしているわけがありません。

ネタが終わり、会場で後ろの方に座って見守ってくれていた友だちと合流しました。一応感想を聞くと

「声が小さくて何言ってるかようわからんかった」

と言われました。

舞台での声の出しかたすらわかっていなかった僕らは、NGKの近くでお好み焼きを食べて結果発表も聞かずに京都へ帰りました。これが僕が唯一舞台に立った日の話です。

漫才に人生をかけている人たちからすると、浮ついた奴らだったと思います。でもあの日、舞台に立って「人を笑わせる」ということの難しさ、自分たちを知らない人たちから爆笑を取るすごさ、芸人という仕事のすさまじさを身をもって体感することができました。

その気持ちは「芸人さんを演出する側」となった今も変わらず、ずっと残っています。うっかり留年してしまったために出場したM-1でしたが、出てよかったと思います。

僕がM-1に出場した2003年、優勝したのはフットボールアワーでした。それから5年後、僕は『ジャイケルマクソン』という番組で2人と仕事することになります。「1回戦敗退」のディレクターが「優勝コンビ」を演出することになるのですが、それはまた別の話…。

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